38.食えない妖怪はただの妖怪
マリィたちは呪術王の討伐のため、極東まできている。
波山をおいしく食べて上機嫌のマリィ。
そこへやってきたのは、一反木綿という妖怪だった。
……どう見ても空を飛ぶ、布でしかなかった。
「がっかり妖怪だわ……」
マリィは次の妖怪も、おいしく食べる予定だった。
しかしあらわれたのはただの布で、食べることはできず、テンションが下がったという次第である。
『僕を馬鹿にするな! 空を自在に飛べるのだぞ!』
「はぁ~……しょっくぅ~……」
マリィだって空を飛べる。
だから別に一反木綿が優れているとはどうにも思えなかった。
「カイト。行くわよ」
「え、で、でも……あの化け物は?」
ちら、とマリィは一瞥すると、馬車を動かす。
倒す価値すらない。
マリィにとって倒すこと=食べることなのだ。
『僕を馬鹿にするな! くらええええええええええ!』
一反木綿が高速で飛翔してくる。
そして身体を伸ばすと、馬車をラッピングしていく。
『どうだ! 僕の身体は伸縮自在! こうして包み込んで、こうだ!!』
一反木綿はマリィたちの馬車を、ぎゅうううっと握りしめ殺そうとする。
尋常ではない力でしめつけられて、徐々に馬車の姿が小さくなっていく。
『ははは! どうだ馬鹿めが! ただの空飛ぶ布だと侮ったのが貴様らの敗因よ!』
「負けてないわよ」
『なにぃいいいいいいいいいいい!?』
気づけば、マリィが空中より一反木綿を見下ろしていた。
空に浮かび、腕を組んであきれたようにため息をつく。
「この程度で何を驚いてるの?」
『ば、馬鹿な!? どうやって脱出を!?』
「ただの転移魔法だけど?」
『魔法だとぉ!?』
転移の力を使えば、布の中からの脱出は可能だろう。
ただこの世界において、魔法はすでに失われた技術なのだ。
『なぜ魔法なんて使えるのだ!』
「なぜと言われても……使えるからとしか言えないわよ」
『うぐぅう! くそおぉう!』
一反木綿が高速で飛翔する。
今度は彼女の顔面にきつく、隙間なく巻き付く。
『どうだ! 口が塞がれては呪文も唱えられないだろう!』
だが……次の瞬間、一反木綿はバラバラに切り刻まれたのだ。
『ば、ばかな……ありえない……今のは、颶風真空刃……極大魔法じゃないか!』
風の極大魔法、颶風真空刃。
真空の刃をはらむ竜巻を起こして、一反木綿を粉みじんにしたのだ。
『口を塞がれて……どうやって……』
「詠唱破棄しただけよ」
『ば、ばかな……極大魔法を、無詠唱で……だと……そんなの……できるわけが……』
この妖怪が言うように、魔法には呪文が必要だ。
呪文を使わず発動させることは、詠唱破棄といって、高等テクに該当する。
ランクの高い魔法であればあるほど、無詠唱での魔法行使の難易度は跳ね上がる。
極大魔法を無詠唱でなんて、それこそ……神でしかできないような、奇跡の御業といえた。
風が吹いて、一反木綿は大気中に霧散する。
ふぅ……とマリィは物憂げに息をついた。
「食べれなかった……」
空の上でそんなふうに戦いが繰り広げられているなか……。
地上では、カイトがマリィに尊敬のまなざしを向ける。
「すごいです魔女さま! あんなすばしっこくて強い妖怪を、一撃で倒してしまわれるなんて!」
『倒したくてやったんじゃあないだろうけどな。身に降りかかる火の粉を払っただけっつーか』
悪魔オセが、深々とため息をつくのだった。
【★読者の皆様へ お願いがあります】
ブクマ、評価はモチベーション維持向上につながります!
現時点でも構いませんので、
ページ下部↓の【☆☆☆☆☆】から評価して頂けると嬉しいです!
お好きな★を入れてください!
よろしくお願いします!