03.モンスターを魔法でワンパン
王国を追放されたマリィはというと、そのまま国外へと向かっていた。
「……空を飛ぶのって、楽でいいわね」
彼女は飛行魔法を使って空を飛んでいる。城のごみ捨て場にあった箒を拝借して、それに横から腰かけて飛んでいる。
魔法がまだ全盛期だったときでも、この飛行魔法というのはとても高度な技術だった。
けれど今の彼女は息をするように、魔法を行使してる。
魔女神ラブマリィ。千の魔法を身に着け、魔王すら瞬殺した彼女にとっては、空を飛ぶことなど造作もないのである。
「これから、どうしましょうか」
国を追放され、マリィにはいく当てなどなかった。前世も今も、彼女は魔法の研究や勉学に励んでおり、ほとんど自由な時間などなかった。
それが、今彼女はとてつもなく暇になってしまった。
前世での復讐は終わり、今世ではもう王妃教育を受けなくてもいい。魔法は努力しなくてもすでに身についてる状態だから、前世のように訓練などしなくていい。
「それにこの体、すごいわ。魔力に満ち満ちてる」
前世では魔力不足に悩まされていて、使いたい魔法があっても、魔力が足りずに使えないことが多かった。だがこのマリィ=フォン=ゴルドーの体には、前世の10……いや、100倍近い魔力が秘められている。
最強の魔女の記憶と技術、それに加えて、今世の膨大な魔力があれば、第二の魔王になることだって簡単だ。世界なんて簡単に、いやおそらくは魔王より早く掌握可能であろう。
「ま、しませんけどね」
第二の魔王になったら、第二の魔女神が現れるに決まってる。よって彼女はその身に宿った力を、暴力に活用しないと誓う。だが、じゃあどうするか?
「……ん? なにかしら、あれ?」
そのときだった。眼下に広がる森の中にて、馬車がモンスターに襲われていたのだ。
「随分と豪華な馬車ですこと。王族のかしら?」
いずれにしろ、高貴な身分の人間が乗っていそうな馬車が、トラのモンスターに襲われているのである。
さて、どうするか。
別にマリィにはあの馬車を助ける義理は全くない。彼女は別に正義の存在ではないのだ。
前世で魔王を倒したのだって、家族と村を焼かれたから、その復讐であるだけで、別に世界を救う気など毛頭なかった。
事実魔王を討伐した後、手柄を国に求めることなく、目的を達成した後にはあっさりと死んだ。
努力はする。しかしそれはおのれの野望をかなえるため。
ラブマリィは、そういう利己的な女なのだ。
記憶が戻る前のマリィと、今のマリィは別人といってもいい。二つの記憶がまじりあった結果、前世の、ドライな部分が強く押し出された性格になっていた。
よって馬車を見捨ててもいい。
「あ、そうだわ。まだ攻撃魔法を試してなかったじゃない」
飛行魔法が使える時点で、この体でラブマリィの魔法の再現は可能だとわかった。
しかしまだ攻撃魔法を試していないのである。
「もしこの先モンスターにやられそうになったとき、魔法が使えませんでしたー、ってなって死ぬのはごめんだわ」
マリィは正義の味方でもなんでもない。
モンスターに襲われてる馬車なんて、はっきり言って捨て置いても何も問題はない。
マリィは人を助ける勇者としてではなく、あくまで、利己的な魔女として生きる女。
だからこれは、完全に試し打ちなのだ。
「人を襲ってるモンスターなら、遠慮なくぶっ殺してもいいわね」
マリィは、右手を頭上にかかげる。
すると極大の魔法陣が展開される。
「天裂迅雷剣」
前世で攻撃魔法は、上中下、そして極大の四つのクラスに分かれてる。
最上位である魔法を、極大魔法という。
彼女が放ったのは、雷系極大魔法の天裂迅雷剣。
巨大な雷の剣を造り、それを堕とすことで、広範囲の敵を殲滅する魔法だ。
いにしえの時代でも、極大魔法の使い手は、数えるほどだがいた。
しかしそれを無詠唱で行えるのは、前世でもただひとり、最強の魔女ラブマリィだけだった。
恐ろしいほどの威力をはらんだ、雷の剣が地面に落ちる。そして、周囲に放電。
並みの使い手なら関係のない一般人まで巻き込んでしまっていただろう。
しかしマリィは天才だった。
攻撃魔法を、保護対象には効かないよう、コントロールしていたのだ。
前世のラブマリィは、魔力が足りなかったから、魔法を効率よく運用するため、魔力のコントロール技術を磨いた。その結果、魔法を自在に操れるようになった。
世界広しと言えど、広域極大攻撃魔法をぶちあてて、特定の人間を殺さないでおけるのは、魔女神だけしかいない。