29.せめて食えるフォルムしてろよと
魔女マリィは呪術王の住まうシナノの領地へ向かっていた。
馬車を順調に飛ばしていたのだが……。
現在、マリィたちは野営をしている。
「お腹が……すいたわ……」
敷物のうえに座って、ぐんにゃりするマリィ。
一方で悪魔オセがマリィを見てあきれたようにつぶやく。
『あんたなぁ~……。食ったろうが、たこ料理』
「あきたわ」
タコ(※クラーケン)がまだ余っていたので、それを調理して食べたのだ。
マリネなどの工夫を、カイトがほどこした。
確かにおいしい。
おいしいのだが……。
「だめ……新しい美味しいが欲しいの……私は……」
『贅沢な女だ……ったく』
カイトが悔しそうに歯がみする。
「すみません。ぼくが未熟なばっかりに……!」
『いやおまえさんはよくやってるよ。この暴食魔女があきないように、いろんな料理と味付けをしててよ……』
なんで悪魔が人間のフォローをしているのだろうか……?
と内心で首をかしげる悪魔オセ。
「新しい魔物がいるわね」
『けどよぉ、極東はその妖怪っつーばけもんが、モンスターを駆逐しちまっていないだろ?』
「そう! そこよ。困った物だわ……はぁ……」
食料を買い込むために一旦戻ろうと、オセは提案した。
しかし却下された。
早く呪術王を倒して寿司を食べたいからだそうだ。
なんというアホな考え……。
「もう妖怪たべようかしら……」
『やめとけって。ばっちぃな』
「でも魔物が食えるんだったら、妖怪も食べるような気がしない?」
『しねえよ。ぬりかべとか、雷獣とか。食えるフォルムしてなかったろ?』
「なにそれ?」
『自分が倒した妖怪だろうが!』
食べてないモンスターなんて、記憶に残っていないのである。
「妖怪……妖怪を狩って食べるのよ」
『普通に動物食べりゃあいいんじゃねーの?』
カイトがふるふると首を振る。
「獣気配がしません」
『どういうこった?』
「わかりません……ただ、不自然なくらいに獣の気配がしないんです」
『呪術王の影響かねぇ……』
そのときだった。
がさがさがさ! と何かがこちらに近づいてくる音がした。
『獣か?』
「いえ……これは、妖怪です!」
カイトは鋭い五感を持つ。
それを使って獣、モンスターを遠くからでも感知できる。
獣でもモンスターでは無い、つまり妖怪ということである。
「もう良い食べるわ! 妖怪でも!」
しげみを超えて現れたのは……。
『ぐららららら! 貴様が主の言っていた、外敵だなぁ!』
『! で、でけえクモ……!?』
人間の5倍はする大きさの、巨大クモだ。
しかし牛のような顔を持っている。
『われは呪術王ハルアキラ様が下僕! 土蜘蛛!』
『ハルアキラ……それがてめえらのボスか。おい魔女様……魔女様?』
ぶるぶる……とマリィが震えている。
右手を持ち上げて……。
「せめて食べれるフォルムのやつが出てきなさい……!!!!!!!! 【火炎連弾】」
右手から無数の炎の弾丸が発射された。
『え? ちょ、まっ……! うげえぁあああああああああああああああ!』
土蜘蛛は炎の弾丸に蜂の巣にされて、撃破された。
『まだ名乗っただけなのに……むごいことするな……塵になってら』
「ああ、無益な殺生をしてしまったわ……!」
一方で土蜘蛛を倒したことで、カイトからの尊敬度はさらにアップする。
「やっぱりすごいです、魔女様!」
「次よ! 次こそ食べれる妖怪きなさい!」
【★☆新連載スタート!】
先日の短編が好評のため、新連載はじめました!
タイトルは――
『伝説の鍛冶師は無自覚に伝説を作りまくる~弟に婚約者と店を奪われた俺、技を磨く旅に出る。実は副業で勇者の聖剣や町の結界をメンテする仕事も楽々こなしてたと、今更気づいて土下座されても戻りません』
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