28.呪術王の退屈
魔女マリィが極東で暴風を巻き起こしている一方……。
極東中央にある、山に囲まれた領地。
シナノ。
その北部に、1つの見事な寺があった。
寺の奥に続く道には、無数の魑魅魍魎がはびこっている。
それはモンスターとはまた異なる、異形の化け物達。
妖怪、と呼ばれる特別なモンスターだ。
その妖怪達が守る本殿の中に……ひとりの、黒髪の男がいた。
「つまらん」
彼の名前は、【ハルアキラ】といった。
ハルアキラはこの世界の住人では無い。
別の次元からこちらの世界へと、世界を渡ってきた、いわば異世界転移者である。
「つまらん、この世界……つまらなすぎる」
彼は呪術を使い、そしてあやかしを統べる力を持って、この世界へと転移してきた。
元いた世界で、彼は呪術師として最強になるべく修練を積んでいた。
……しかし、気づいたら周りに誰もいなくなっていた。
そう、彼が強すぎて、彼に叶う術者はいなかったのだ。
「つまらん」
そのとき、彼が生み出したオリジナルの秘術を使った。
世界を渡る【扉】を作り、彼はそれをくぐって……この世界へと舞い降りたのだ。
別の世界に来れば、自分より強い人間がいるのではないかと、期待して……。
しかし期待は見事に裏切られる。
「何もかもが未熟だ、この世界は」
別に彼は世界を征服するつもりはなかった。
ただ、暇だったし、それに彼が従える妖怪達は人間の負の感情を欲した。
好きにしろ。
呪術王は妖怪にそう命じた。
人々は呪術王が元凶だと思ってるようだが、実は違う。
妖怪が勝手に暴れているだけだ。
……まあもっとも、妖怪の主はハルアキラであるので、自分がやってると言われるとそうなのだが。
「ん? なんだ……ぬりかべが破壊されただと?」
ハルアキラと部下の妖怪達との間には霊的なパスがつながれている。
妖怪に何かあればすぐに、主である彼に伝わる仕組みだ。
「ばかな。この未熟な異世界人たちでは、ぬりかべは倒せないはず……」
しかし倒した人物がいる。
……久しぶりに、強い敵がいるようだ。
にぃ……と呪術王ハルアキラは笑う。
彼が望んでいたのは、強者との戦い。
やっと、巡り会えたのだ。
「私を倒しに来たのか? ふ……いいだろう。相手してやる。呪術師、アベノハルアキラが、相手してやろうぞ!」
……異世界を渡るすべを持つ、呪術師ハルアキラ。
しかし彼は知らない。
今自分の元へやってきてる女が、異次元の強さを持っていることを。
そして倒しに来てる理由が、美味しい寿司を食べるためという、あほ極まる理由であることを。
【★☆新連載スタート!】
先日の短編が好評のため、新連載はじめました!
タイトルは――
『伝説の鍛冶師は無自覚に伝説を作りまくる~弟に婚約者と店を奪われた俺、技を磨く旅に出る。実は副業で勇者の聖剣や町の結界をメンテする仕事も楽々こなしてたと、今更気づいて土下座されても戻りません』
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