25.呪術王の元へ
マリィたちは極東の港町、エドへと到着した。
しかし街の雰囲気はかなり暗い。
『しんきくせー顔してやがんな、みんな』
黒猫の悪魔オセが、ケモミミ料理人カイトの頭の上から、街の様子を見渡す。
皆うつむいて歩いている。
店はほとんど閉まっていた。
その場にしゃがみ込んでいる人も多数見受けられる。
商船の船長に話を聞く。
「以前はもっと活気のある街でした。しかし呪術王が現れてからというもの、この有様です」
マリィは船長達とともに港町を見て回る。
かつては賑わっていただろう街は、息絶える寸前だった。
「何も売ってませんね……」
『呪術王のせいで天候がめちゃくちゃになってるっつってた。作物も育たねえんだろ』
オセの言葉に船長がため息交じりに言う。
「それだけはございません。呪術王のもたらす、毒……呪毒のせいで水や土が汚されておるのです」
船長は街の井戸のもとへ連れて行く。
おけを井戸の下へ落とし、ひもを引っ張りあげる。
『うげえ! なんだこりゃ。汚れてるじゃあねえか』
「ひどい……こんな水、飲めないですよ……」
おけのなかには泥水と大差ない、濁りきった水が入ってる。
「水を濾して飲んでますが、腹を下すものが続出しております」
『井戸水がこれじゃ、川の水も同じく汚れてるか。山もひでえ有様だろうな」
呪術王の出現で、この極東という国は崩壊一歩手前らしい。
商船が運んできた救援物資をもらうため、多くの人たちが船の前に並んでいた。
「正直、もうこの島はおしまいだとみなが思っております」
「魔女様……」
すがるように、カイトがマリィを見やる。
彼女の瞳は、怒りで燃えていた。
「許せないわ……! こんな酷いことして……呪術王!」
ごぉ……! とマリィの体から怒りの感情とともに魔力がほとばしる。
カイトはそれを見て、マリィが義憤に駆られてると思い込んでいた。
「魔女様! もしかして……」
「ええ、私が呪術王を倒してみせる……必ず!」
おおお! と船長とカイトが歓声を上げる。
オセだけはわかっていた。
『あんたがキレてるのって、極東のおいしい食材が、呪術王のせいで取れなくなってるのにキレてるんだろ?』
「? ほかになにか怒る理由ある? ないわよね!」
やっぱり……とオセがあきれたようにため息をつく。
いつだってどこだって、彼女は自分の食欲に忠実なのだ。
エゴイスト魔女に人助けの三文字は存在しないのである。
あくまで自分の果たしたい目的があって、その間にモンスターやらが邪魔するから、倒してるだけ。
彼女が弱き物のために戦ってきたことなど、今まで一度も無かった。
さておき。
「しかし魔女様。呪術王をたおすといわれましても、どこにいるのか誰もわからないのです」
「あら、簡単よ。聞き出せばいいの」
「聞き出す……?」
船長が目を丸くする。
マリィは空間魔法で、とあるものを異空間から取り出す。
『はなせ! クソ女ぁ!』
『てめえはさっきの、雷獣じゃねえか』
船が上陸する際、雷の魔法でマリィたちに攻撃してきたモンスターである。
イタチのような見た目をしていた。
今はマリィが作った魔力のロープでぐるぐる巻きにされてる。
「この化け物は呪術王と繋がりがあるって、セリフの節々から伝わってきたわ。きっと配下なのね」
『けっ!』
「あなた、呪術王はどこにいるの?」
『おしえるわけねーだろカス!』
オセはいつマリィがキレ出すのかとひやひやした。
しかし雷獣から罵声を浴びせられても、マリィは涼しい顔をしていた。
「小動物にキレてもしかたないもの」
『うるせえデブ!』
「……消すか」
ちょっと体型を気にしてるらしい。
まあ本当に見た目なんてどうでもいいって思っているのなら、魔法で代謝をコントロールして、体型維持なんてしないだろうから。
「その前に読ませてもらうわよ。【精神解読】」
マリィが魔法を発動させる。
「オセさん、これは?」
『精神解読っつー、無属性魔法な。簡単にいや、相手の心のなかを読む魔法よ』
「すごい……そんな神さまみたいなことできるなんて!」
『あの女たしかに頭イカレテるけど、魔法でだけはマジで天才なんだよな。精神解読は難易度の高い魔法なんだぜ……』
マリィは雷獣の心を読む。
「呪術王はどこ?」
『い、言うわけねえだろ!』
「そう……シナノってとこにいるのね?」
『なっ!? な、なぜわかった!?』
オセがそれを見て解説する。
『馬鹿だな。問いかけられたら、正解を知ってりゃそれが頭の中に浮かんじまう。あの魔女はそのイメージを読み取ったんだよ』
「すごいです! 本当に魔女様はすごい!」
『なんでおれこんな、魔女の解説係になってんだ……はぁ……』
マリィは行く先を決めて宣言する。
「めざすは、西。山の中にある、シナノって領地よ。そこに呪術王はいるわ!」
【★☆新連載スタート!】
先日の短編が好評のため、新連載はじめました!
タイトルは――
『伝説の鍛冶師は無自覚に伝説を作りまくる~弟に婚約者と店を奪われた俺、技を磨く旅に出る。実は副業で勇者の聖剣や町の結界をメンテする仕事も楽々こなしてたと、今更気づいて土下座されても戻りません』
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