23.ミスリル加工してたこ焼き器を作る
マリィは海の化け物、クラーケンを撃破して見せた。
ぶつ切りにしたタコは異空間に収納。
マリィはニッコニコで船室に戻る。
「さっ、カイト。タコはゲットしたわ。たこ焼きを作ってちょうだい」
『おいおい魔女様よ。船長が何か言いたげだったぜ? 無視して帰ってきて良かったのかよ?』
「さ、カイト! 私はお腹がペコペコよ!」
『きーてねーし……』
しかしケモミミ料理人カイトはちょっと申し訳なさそうにしていた。
『なんだガキ。どうしたよ?』
「実は……たこ焼きを作る上で、必要不可欠なものがなくて」
『なんだ? 材料か? 調味料ならおれが出せるが?』
「そうじゃなくて、金型が必要なんです」
『はぁ? 金型……? つぅと、剣とか作るときに、溶かした剣を流し込むための、あの鉄板を掘って作られたあれか?』
そうです、とカイトがうなずく。
「たこ焼きの作り方は、今オセさんが言ったのと似てるんです。金型にたこ焼きの素を流し込んで焼いて、丸く仕上げる感じです」
『はーん……なるほどねえ。具材じゃ無くて料理道具がないわけか』
カイトが図を書いて説明する。鉄板にいくつも丸い穴があいており、底が球体上にくりぬかれてる。
『こんな複雑な加工、並の連中にゃ無理だろ。カイ・パゴスのドワーフどもくらいか。この辺で売ってるやつもいないだろうし……どうするよ魔女様よ? ……魔女様?』
マリィは静かに……泣いていた。
「『ええー!?』」
「……頑張ったのに、食べられないなんて……ショックすぎる……」
『お、おいおい泣くことはねえだろ! な、1食くらい我慢しろって。だいいち寿司食いにいくんだろ今から?』
「たこ焼きも食べたい……」
めそめそと涙するマリィ。
カイトは焦っていた。
オセは目を丸くして、『この女でも泣くんだな』とつぶやく。
と、そのときである。
こんこん……。
「は、はい……なんでしょう……って、船長さん!」
この船の船長が挨拶に来たのだ。
マリィの前まで来て、ぎょっ、と目を剥く。
「ど、どうなされたのですか魔女様は!?」
『気にすんな……んで、何かようなの?』
「あ、そうでした。我らをお助けくださったことにたいして、感謝申し上げに参ったのです」
船長が帽子を取って、深く頭を下げる。だがマリィは涙を流した状態で、「気にしなくて良いわ……」と言う。
その様を見て船長は、
「魔女様……! 人命を救助できて、泣くほどうれしいなんて! なんと慈悲深きお方……!」
とウルトラ勘違いしていた。
『ようはすんだらとっとと帰ってくれ。こっちは今取り込み中なんだよ……って、なんでおれが仲介みたいなことしてんだよ……』
カイトは魔女が泣いてて、ずっとあわあわしてるからである。
「感謝のお印にお礼をと思いまして」
『お! 金か! あー……まあでも金は今いらねーんだよな。そうだ、ここ商船だろう? 鉄板とか取り扱ってねーか? もしくは、ドワーフの職人でもいい』
オセがそう言うと、船長が少し考え込む。
「鉄板はないですが……ドワーフの職人はおります」
『お! そいつちょっと連れてきてくんねーか。可及的速やかに!』
ややあって。
ギルドのおかかえドワーフが、ちょうど極東に向かうこの船に乗っていたのだ。
オセがたこ焼きに必要な金型について説明する。
『ってかんじなんだが、作れそうか?』
「ううむ……難しいのう。工房に帰ればなんとかなるやもしれんが、ここは船の上じゃ」
そりゃそうだ……とオセがつぶやく。
「魔女様、鉄板はないのですが、こちらはどうでしょう……?」
『って! 魔銀じゃあねえか! 超レア金属の……!』
魔銀のインゴットが数本、船長の手に握られていた。
交易品として船に積んであったらしい。
「お礼にこちらをさしあげます。これでは無理でしょうか?」
「魔銀の加工はわしでも難しい」
そうなのか、とオセ。
『魔銀を伸ばして、穴をくりぬいてみたいなことってできねーのかよ?』
「無理無理! たとえ道具がそろって、ここが工房だったとしても、魔銀の加工は不可能ですじゃ。加工には繊細な魔力操作が必要で、今この世界でそれができるものはおりませぬ……」
泣き疲れたのか、魔女が魔銀を目にする。
くわっ……! と目を剥いた。
「よこしなさい、それを。今すぐに!」
「あ、え、は、はい!」
マリィは魔銀を手に取って、宙にうかす。
両手に魔力を込め、インゴットを餅のように引っ張る。
「な、な、なんとぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
ドワーフが驚愕するなかで、マリィは魔銀のインゴットを空中で加工していく。
「すごい! 魔銀は通常の鍛造とちがい、魔力操作のみで形を作る特殊な加工品! それをこんな、自在に形を変えてしまうなんて!」
マリィはあっという間に、たこ焼きの金型を作り上げた。
「カイト! これならどう!?」
「! 魔女様……! いけます!」
「でかした! よし、作ってきなさい!」
「はいっ!」
カイトはどこでもレストランを取り出して、厨房の中へと消えていく。
「なんじゃとぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
「うるさい黙れ」
マリィは風槌でドワーフを部屋の外へと追い出す。
『おいおっさん、何驚いてたんだ?』
オセが様子を見に行く。
ドワーフはゆっくりと体を起こして、指を指す。
「先ほどの少年が使っていたのは、人知を超えた魔道具じゃ。異空間に消え人が消えるなんて神の奇跡」
『そんな大げさなもんなのか? あの女が作ったらしいけどよ』
「作られた……! まさかあれは、【弟】が言っていた……魔女様!?」
『弟だぁ……?』
と、そのときである。
「魔女様! 完成しましたー!」
「でかした……! ほわぁああ……! たこ焼き! なんて……おいしそうなのかしらー!」
カイトがレストランのなかから魔女を呼び立てる。
その皿には、卵のような料理が載っていた。
見たことのない形だ。
「ま、魔女様! もしや、あなた様は弟の【ドード】が見たという、凄腕魔道具師の魔女様ではございませんか!?」
そう、なんとこのドワーフ、以前マリィがホウキと引き替えに、どこでもレストランをゲットした際に関わった、ドワーフの兄だったのだ。
弟から情報共有されていたのである。
「魔銀の加工に、その凄まじい魔道具! こんなのできますのは、凄腕職人のあなた様においてほかにおりません!」
「おお! 魔女様は強いだけでなく、職人として一流なのですね! すごいです!」
だが、そこへ……。
「うるさい黙れ【風槌】」
「「ぶふぅううううううううう!」」
船長達が部屋から追い出される。
かなり加減されていたのか、体にダメージはないようだ。
不憫そうな顔で、オセが彼らを見下ろしていう。
『わりいな、あの魔女様はメシの邪魔されるのが一番嫌いなんだよ。しばらくほっといてやんな』
「「は、はひ……わかりました……」」
オセがレストランへいくと、魔女がほふほふ……と幸せそうな顔でたこ焼きを食べていた。
「おいしいわ! 外はかりっ、中はとろっ、そしてタコの食感もあわさって、不思議な食べ心地! ああおいしい!」
「魔女様! ソースをかけるとさらにおいしいですよ!」
「なにぃ! おいオセ! 早くソースを出しなさい!」
はぁ……とオセがため息をついて、『なんかこう……こいつらの世話係みたいになってるの、なんなの……?』と独りごちるのだった。