20.食事の邪魔をする嵐を消し飛ばす
マリィたちはお寿司を食べるため、極東へ向かうことにした。
港町を占拠していた海魔蛇の群れを殲滅した後……。
マリィは、豪華な商船の、一等室のなかにいた。
商業ギルドの職員達は、あの海魔蛇の群れをたおしてくれたお礼に、船を手配してくれたのである。
「すごいお部屋です! 魔女様のおかげで、こんなにも良い部屋に泊まれるなんて! ありがとうございます!」
豪華な部屋を用意されようが、マリィには関係ないことだ。
椅子に座って、彼女は開口一番に言う。
「お腹が減ったわ」
『いやまたかよ!』
悪魔オセがツッコミを入れる。マリィはお腹を抑えながらカイトに言う。
「なにか手持ちの食材で、食べれるものつくれない?」
「そうですね……海魔蛇を使った……蒲焼きなどどうでしょうか!」
蒲焼き。なんだそれは、聞いたことがないぞ……!
マリィが笑顔になる。
『この魔女……メシのことになるとすんげえ笑顔になるよな……笑えばどんな男もイチコロだろうによ』
「カイト。それを作りなさい」
ケモミミ料理人カイトがうなずく。
「特殊な調味料がいるんで、オセさん、お願いします」
『ちっ。たくしょうがねえな……』
オセとカイトはどこでもレストランを出す。
この魔道具は異空間へ繋がっており、そこには調理場と客席が……レストランがあるのだ。
「さ、魔女様!」
「いや、私はここで待つわ。海を見ながら食べるのも……なかなか乙じゃないかしら?」
食にはどこで食べるというものの重要だ。
魔道具のなかの、高級レストランで食べるのもいいが、海を見ながら食べるのもまた、新鮮味があっていいかもしれない。
「わかりました! では、作って戻ってきますね!」
「早くしてちょうだいね」
カイトとオセが異空間に消える。
ふぅ……とマリィは息をつく。
「ふふ……蒲焼き……聞いたことない料理は、大抵美味しいんだわ……」
期待に胸を膨らませるマリィ。
しかし……。
ギギギギ……ギギギギギッ……ギギギギッ……。
「…………」
船が、きしんでいる。いや、揺れているのだ。
「なにかあったのかしら……?」
船の窓から外の様子をうかがう。
空が黒い雲に覆われていた。高い波に船が揺れている。
「……嵐……?」
窓を叩く雨音がやかましく、さらに揺れる船が不快感を増す。
イライラが募ってきた。
「せっかくあの子が、美味しいものを作ってるというのに……!」
それを邪魔するのであれば、たとえ相手が天災だろうと、関係ない。
マリィは船室を出る。
ズンズンと進んでいくマリィを、船員が止めようとする。
「どこいくんですか!」
「外よ」
「大嵐だぞ! 危険すぎる!」
だがマリィは船員の制止を振り切り、甲板の外に出た。
顔に雨が凄い勢いで当たってくる。
だがマリィは気にせず両手を広げる。
「い、一体あの人はなにを……?」
船員が怪訝なまなざしを向ける一方で……。
マリィは、魔法を発動させる。
「術式展開【天候操作】」
マリィを中心として、巨大な魔法陣が展開した。
それはマリィが作った、大規模な儀式魔法。
魔法陣から発せられた光が、天を貫く。
その瞬間……分厚い雲に覆われていた空が、一気に……晴れた。
「な、な、なんだぁ……!?」
船員があまりのことに腰を抜かす。
嵐が止んで、船の揺れが止まる。
マリィは満足げにうなずいて、部屋に戻る。
「ちょ、ちょっとまってお嬢さん……いや、そこのあなた様!?」
船員がマリィを引き留める。
「い、いまのは……一体……?」
「あなたに説明する義理はない」
ちょっと動いて腹が減ってしまったのだ。
さっさと部屋に戻ってご飯ご飯、と上機嫌のマリィ。
天候操作の術式は、高名の魔法使いが、何年もかけて完成させる物。
しかしマリィは単独で、しかも、ほぼ一瞬で魔法陣を完成させていた。
いにしえの時代でもそんな芸当ができる術者はいないだろう。
魔法の衰退した世界では、まさに、神が奇跡を起こしたとしか思われない。
「神……だ。海の神さまだ……!」
マリィを見て、船員が叫ぶ。だが当の本人はそんなの気にせず、さっさと部屋に戻るのだった。
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