19.出航の邪魔するモンスターを沈める
魔女マリィは次なるおいしいもの、【寿司】を食べるため、極東へ向かうことにした。
極東へは船を使う必要があったため、一度、王国の港町【ウォズ】へと向かうのだった……。
「ここがウォズの街ですね! 海の匂いだー!」
ケモミミ料理人カイトがキラキラした目を街に向ける。
だが彼の頭の上に乗ってる悪魔オセが、首をかしげる。
『なーんか街の雰囲気が暗くねーか?』
確かに人は多いのだが、うつむいたり、各所で困った顔の人たちが見受けられた。
「言われてみればそうですね。なにかあったのでしょうか……」
心配するカイトをよそにマリィはスタスタと港へと進んでいく。
『おおい魔女様よ、どうしたんだろうって気にならねーの?』
「ならないわ。どうでもいいもの」
マリィに取って重要なのはおいしいものをいち早く食べること。
町の人が困っていようがいまいが何も問題なかった。
マリィは船に乗るため、港へと向かう。しかし……。
「船が……出ないですって?」
ここは商業ギルド【銀鳳商会】の受付。
漁船は人を乗せて海を渡れない。人を乗せられるのは、商業ギルドが管理する大型船だけだという。
しかし商業ギルドの大型船は現在運行停止中らしい。
受付嬢は申し訳なさそうな顔をしながら説明する。
「現在、海に海魔蛇が大量出現しておりまして」
カイトが首をかしげる。そこに、こっそりとオセが説明する。
『海に住む馬鹿でかいモンスターだったな』
「なるほど……モンスターがうろついてて、船が出せないんですね」
どうやら海魔蛇の異常繁殖が起きてるらしい。
やつらは海に住んでいるため、陸地まではあがってこないが、漁船も商業船も出入りできず、大変困っているとのこと。
「理解したわ」
マリィは颯爽と、ギルドを出て行く。
カイトは首をかしげた後、すぐに何かに気づいた様子になって言う。
「魔女様! 海魔蛇どもを、倒してくださるのですね!」
ざわ……と商業ギルドにきていた人たち、またギルド職員たちがマリィに注目する。
受付嬢が恐る恐る進言する。
「お、お客様……やめておいたほうがよろしいかと。今まで何人ものベテラン冒険者が挑んで負けております。ついこないだ、Aランク冒険者パーティをたばねた、レイドパーティで挑んで壊滅にまで追い込まれましたし……」
それほどまでに、厄介極まる強敵ということだ。
しかしマリィはおびえた様子もなく、自信満々に言ってのける。
「問題ないわ。一匹残らず駆除してやる」
周りは困惑していた。いにしえの時代と違い、今は魔法が廃れてしまっている。
こんな非力でか弱そうな乙女が、恐ろしい化け物を倒せるものか。みな、そう思ってる。
しかし彼女が放つ妙な自信が、もしかしてと周りの人たちに希望を抱かせた。
特に、カイトはマリィに笑顔を向ける。
「さすが魔女様! 困ってる人たちを放っておけないなんて! なんて優しいのでしょう!」
「勘違いしないでちょうだい。別に、あなたたちのタメじゃあないんだからね」
カイトは思った。ツンデレだと。周りの連中も思った。なんだツンデレかと。
『これツンデレじゃなくて事実なんだよなぁ……。どうせ飯のためだろ、魔女様よ?』
「当然」
彼女は食欲を満たすことしか考えていない。
それを阻むものを退治してみせるだけだ。
しかしその姿を端から見ると、弱きもののために立ち上がる勇敢なる乙女に見えるから不思議である。
マリィは一直線に漁港へと向かう。
入り口は冒険者たちが封鎖していた。
「嬢ちゃん、どこいくんだ? 今は港は閉鎖中だぜ?」
無精ひげの冒険者が、マリィにそう言って行く手を阻む。
だが、彼らを無視してマリィはすたすたと中に入ってく。
「お、おい嬢ちゃん! やめときなって!」
「オセ。麻痺毒。弱いので良いわ」
オセが悪魔の力を使う。冒険者がその場にくたぁ……と倒れる。
「こ、これは……麻痺スキル? 嬢ちゃん! 待て! 危ないって!」
自分を阻む者がいなくなったのを確認し、マリィは漁港へと到着。
すると、大量の巨大なウミヘビが海中から出現した。
「ジュララララララァアアアアアアアアアアアアアア!」
『こいつらが海魔蛇か。Aランク冒険者が挑んで負けたっつーことだから、Aランクモンスターだろうな。しっかしこんだけ大量にいて……大丈夫なのか、魔女様よ?』
マリィはオセをつまんで、後ろに控えているカイトに放り投げる。
カイトは魔女が奇跡を起こし、街を救うことを信じて疑っていない様子だ。
「ジュラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
海魔蛇の1匹が、マリィに向けて、口から水のブレスを放つ。
高圧水流がマリィに襲いかかった。
「に、逃げろ! そのブレスは鉄の鎧も盾もバターみたいに斬っちまう!」
背後で冒険者が忠告する。挑んだことがあったのだろう。
マリィは右手を前に出す。
ぶぶんっ、と彼女の前に光のドームが展開。
ブレスはドームにぶつかった瞬間、かき消えた。
「なにぃいいいい!?」
驚く冒険者、そしてオセ。
『あ、ありゃあ……反魔法領域じゃあねえか!』
「なんですか、それ!」
『魔法を打ち消す魔法……反魔法のバリアだよ。信じられねえ……あれは高ランクの魔法使い複数名が、数十日かけて完成させるバリアだってのに……あの女はひとりで、しかも一瞬で展開させやがった……!』
悪魔オセは、人間より遥かに長生きしている。ゆえにいろいろなものを知ってるのだ。
いちいち解説しないマリィの代わりに、オセがカイトに説明してる……。
複数体の海魔蛇がマリィに対して、水ブレスを一斉に照射。
しかしそのことごとくを打ち消す。
やがて魔力が切れたのか、海魔蛇たちが攻撃を辞める。
「終わり? じゃ……次は私の番ね。【颶風真空刃】」
風の極大魔法、颶風真空刃。
海上に巨大な竜巻が出現する。
それはその場にいた海魔蛇たちを飲み込み、真空の刃でズタズタに引き裂いて見せた。
そして、バラバラになった海魔蛇たちは、マリィの空間魔法によって、1匹残らず別空間へと移動させられる。
海に……再び平穏が戻った。
「すごい! さすが魔女様! あんな化け物を倒してしまうなんて!」
わ……! とカイトが両手を挙げて喜ぶ。周りで様子をうかがっていた、商業ギルドのメンバーたちも、信じられない……と今目の前で起きたことに驚いていた。
「なんだいまの?」「風を発生させただって!」「これって……伝説の、魔法?」「いやいや、ありえないだろ! 魔法なんて使える人間はいないんだぞ?」「でも……現にあのお方が風を操り敵を倒しましたよ!」
カイトはギャラリーに対して言う。
「みなさん! もう安心してください! 皆様を苦しめていた悪いモンスターは、魔女様が倒してくださりました!」
「「「おおおー! ありがとうございます! 魔女様!」」」
『いや信じるの速すぎだろおめーら!』
オセのツッコミも、しかしスルーされてしまう。
『このガキが言って、はいそうですかって信じるか? 確かに目の前で魔法を起こしてみせたけどよぉ……それにしちゃ信じるの速すぎだろ。どうなってやがる……?』
首をかしげるオセをよそに、街の人たちがマリィに近づいて、口々にお礼をする。
だがマリィは実にクールに言う。
「お礼なんて必要ないわ。あなたたちのためじゃないんだもの」
「「「なるほど、ツンデレですね……!」」」
『馬鹿しかいねえのか……?』
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