17.悪魔と契約して悪魔的ハニトーを作って食べた
魔女マリィは妖精界で、花の蜜をゲットした。
カイトの魔道具【どこでもレストラン】のなかで、彼が作るハニートーストを心待ちにしていた……。
が、そこに現れたのは、猫の姿の悪魔、オセ。
悪魔。負の情念が形を成した、化け物。
契約を結び、力を与える代わりに、契約者に取り憑くことで、彼らのエネルギー源である負の感情を手に入れる。
たとえば、恐怖。たとえば嫉妬。たとえば憎しみ。
それは契約者本人のでなくていい。ようは、与えた悪魔の力を使って、人間に負の感情を発生させる。それを吸収することで、悪魔はより強くなれるのだ。
『魔女様、どうでしょう。このおれと契約して、さらなる強さを手に入れたくはありませんかぁ?』
「ハニトーまだかしら」
『おおい! 聞いてんのかよ!』
マリィは完全にオセをスルーしていた。もはや彼女に、この悪魔をどうこうする気はない。
こないだは、妖精の花を採取するのに、邪魔だったから消しただけだ。
『なあお願いしますよぉ。どうです? もっと強くなって、世界とか征服しちゃうのはどうでしょ! ねえ!』
「興味ないわね」
本当に、興味はない。世界とか征服して何になるというのだ。
それに悪魔と契約せずともマリィは十二分に強い。
契約するメリットなんて、一つもないのだ。
『おれはあらゆる毒を作り出すことができます! 即死性、遅効性、この世にある毒、次元を超えた世界の毒、どんな毒でさえも作り出すことができるんです!』
「いらないわ。毒なんて。使い道が限られるでしょ?」
相手を毒殺するくらいしか、マリィには思いつかなかった。しかし毒殺なんてしなくても、魔法を使えば敵なんて簡単に倒せる。
「ということで、契約はしません」
『そんなぁ……』
「私を動かしたいなら、おいしいを用意することね」
『無理だっつーの……おれ、肉体があるわけじゃあないし。あの小僧のように料理ができるわけじゃあない』
自分でおいしいものを捕まえることも、料理することもできないという。
「はい論外」
『うぐぅ~……』
と、そのときである。
「魔女様……ハニトーできました……」
「でかしたわ、カイト!」
さっきまでの退屈そうな表情から一転、マリィの瞳がきらきらと、まるで星空のように輝く。
しかしカイトはなんだか落ち込んでいる様子。
『おい獣人坊や。あとにしてくれよ。おれは今、魔女様を勧誘中』
「黙れ食事の邪魔をするな消すぞ?」
『さーせん! まじさーせん!!!!!』
猫悪魔はがたがたと震えながら地面にひれ伏す。
テーブルの上に、カイトがハニトーを乗せる。
「ああ! なんて、なんておいしそうなの! ハニトー!」
厚切りのパンの上には、白いアイスが乗っている。そして、その上からたっぷりと蜂蜜がかけられていた。
焼きたてらしいパンの熱で、アイスがとろけている。
蜂蜜と解けたアイスがパンににじんでおり、もう美味そうでしかなかった。
「魔女様、ごめんなさい。最高のハニトーを作る予定だったのですが……」
「? もうこれで十二分に最高じゃないの?」
「いえ、ほんとはバニラアイスを乗っけて完成なんです」
「バニラ……?」
聞いたことない単語だった。
「植物です。そこからとれる香料……バニラエッセンスとまぜたアイス……バニラアイスを使って作るハニトーこそが至高なんです。ですが……」
「ふむ……バニラエッセンスとやらがないのね」
「はい。ただ、ぼくの故郷でしか育たない、特殊な植物でして……」
なんてことだ。そんな特殊な植物からとれる、特殊な香料が必要だったなんて!
いやでもこの状態でも普通にうまそうだし……
いやでも、できれば完璧なハニトーが食べたい。ああ、今すぐに……。
『バニラエッセンスなら、おれが作れるぞ?』
「なにぃ!? オセ、本当なの!?」
悪魔はこくんとうなずいて説明する。
『おれさまはこの世に存在するすべての毒を分泌できる。毒ってのはようするに、化学物質だ。バニラエッセンスに含まれる化学物質を調合すれば……』
オセはしっぽを、ハニトーの上に伸ばす。
しっぽの先端から、透明な液体が一滴垂れる。
するとバニラの甘い香りが、マリィの鼻こうをくすぐった。
「なんていい香りなの! これが完璧なハニトーなのね! いただきます!」
ナイフを使ってハニトーを切る。
ふわふわのパンに、蜂蜜とアイスクリームがまざりあっている。
口の中にいれた瞬間、バニラの香りと、はちみつのコクのある甘味が広がる。かめばかむほどパンのふんわり触感に、はちみつ+アイスの甘味が加わってくる。
「うまい! おいしいわ! 最高よ!」
今まで食べたことのない、甘い、甘い、スイーツ。マリィはいたく感激した。
一方で、ケモミミ料理人カイトはオセにキラキラした目を向ける。
「バニラエッセンスが作れるんだったら、お醤油とかお酢とかも作れるの?」
『あ、ああ。香料だけじゃなくて調味料もな』
「すごい! オセさんがいれば、もっと料理の幅が広がるや!」
なるほど、とマリィはうなずく。
一方でオセは、『いやいや坊ちゃんよ。調味料や香料ってのは、おれの力のあくまで一部でしかなくてよ、おれの真の力は敵を苦しませて殺す毒なんだが……』
マリィはびしっ、とオセを指さす。
「あなた、採用」
『え!? い、いんですかい?』
「ええ。調味料、香料、ゲットできるなら!」
『だ、だからおれは……はぁ、まあいいや』
どんな形であれ、マリィと契約を結ぶことができたのだから。
これでマリィを使って負の感情を引き出してやる! と意気込むオセ。
一方マリィはうまいものをこれからもたくさん、山ほど食べられる。それを想像して、幸せな気分でいっぱいになる。
『ぎゃああ! やめろぉお!』
突如として悪魔が苦しみだす。
カイトが慌てて尋ねる。
「ど、どうしたんですか悪魔さん?」
『おれぁ正の感情が苦手なんだよ! いらねえんだよ! おれが欲しいの負の感情なの!』
「はぁ。おいしすぎて天に召されそうだわ」
『やめろぉおおおお! こっちも天に召されるわぁあああああああああ!』
なにはともあれ、魔女に新しい仲間が加わったのだった。
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