16.無欲なる英雄と賞賛されまくる(誤解)
魔女のマリィは妖精の世界にて、悪魔を撃破した。
「さ、帰るわよ」
『おまちくださいなのじゃ!』
そこへあらわれたのは、手のひらサイズの羽を生やした女。
頭には冠。ほかの妖精たちとちがって、魔力満ちている。
ほかの妖精たちは皆彼女のもとへかけよる。
『妖精王さま!』『元気になられたのですね!』『よかったぁ!』
泣いて喜ぶ妖精たち。
ケモミミ料理人カイトは、ハテと首をかしげる。
「魔女様。あのお方は?」
「チェリッシュよ」
「! じゃああれが妖精王……」
妖精王チェリッシュは、魔女マリィのもとへとやってくる。
そして、深々と頭を下げた。
『お久しぶりでございますじゃ、魔女神ラブマリィ様』
「元気そうね、チェリッシュ」
『ええ、おかげさまで』
マリィはかつて、チェリッシュがまだ女王ではないときに、命を助けたことがあった。
そのときの恩をチェリッシュは覚えていたのである。
「よく私がわかったわね」
『わかりますじゃ、その誰にも負けない強い魂の輝き。こんなにも強く美しい魂は、マリィ様をおいてほかにおりませぬて』
「あっそ。まあ良いわ。私はこれで」
さっさと立ち去ろうとするマリィ。
『お待ちください! まだお礼をしておりませぬじゃ! 世界を救い、そしてわらわを二度も助けてくださったことに対するお礼が!』
だがマリィは言う。その手に、先ほど手に入れた花を1本携えて。
「お礼はこれで十分」
そもそも花の蜜が手に入ればそれで良かった。
「それじゃ」
『うぉおおお! またれよおおおおおおおおおおお!』
マリィの前で妖精王が土下座する。
なんだ潰すぞ? と思ってるところに、チェリッシュが言う。
『そんな! そんな花一本ですむ問題ではございませぬじゃ! 世界と王の命を二回も救ったのですぞ!』
「だから、見返りはこの花で十分だって」
『なんと! なんと! なんとぉおお! お優しいお方じゃ!』
妖精王が言うと、ほかの妖精たちも涙を流す。
『世界を救って花1本でいいだなんて』『無償で世界を救ってみせる魔女様すてき!』『我らに恩義を感じさせまいという配慮、素晴らしい!』
どうやら妖精とカイトのなかでは、【助けたのにお礼を受け取らない、無欲の英雄】とマリィに見えているようであった。
大間違いにもほどがある。
そもそもこのエゴイスト魔女は、最初から欲しいもののためでしか動いていない。
マリィはもう、ハニトーに使う花をゲットした。目的は達したのだ。ほかにいらない。
本当の意味でそう言ってるのに……。
『金貨を用意してまりますじゃ! 8万枚ほど!』
「いらない」
『ならば伝説級の魔力結晶は!?』
「いらない」
『妖精界の秘宝は……』
「だから、いらない」
『おおお! 何とぉお! なんと無欲で素晴らしいおかたぁあああああ! うぉおおお!』
……そろそろウザくなってきた。マリィは、いらついていた。ハニトーをさっさと帰って食べたいのに。
邪魔するようなら消すぞ……と思ってる。
『おねがいしますじゃ! なにか、お礼させてください! さすがに心が痛みまする!』
「あー……」
ウザい。よし消すか。いや……待てよ。
「たしか……ここ小麦あったわね」
『はぁ……。小麦ですか。ありますが』
「それだ。袋にいっぱい、小麦を入れてきなさい。大至急。それでいいでしょ」
ハニトーに使うパン。それを作るのに必要な小麦。
たしか妖精界の小麦は、甘くておいしかったはず。
それを使ってパンを作れば、さぞおいしいだろう。
妖精の蜜+妖精界の小麦のパン(うまい)+凄腕料理人=ちょーおいしいハニトー(←結論)
『魔女様……なんて素晴らしいお方なんだ……助けられた我らが、気を遣わないようにと』
「もうそれいいからさっさともってこい。今すぐ。なう」
もうあと1秒でも無駄口叩いたら消し炭にするところだった。
妖精王、そして妖精たちはそれで手を打つことにしたのか、大至急小麦を用意してきた。
しかも、一袋でいいところを、山のように持ってきたのである。
「わぁ! すごいです! こんな上質な小麦みたことない! 本当のもらってよろしいのですか?」
カイトが妖精王に尋ねると、彼らは笑顔でうなずく。
『もちろんですじゃ。というか、本当のこの程度でよろしいのですか、魔女様?』
マリィは右手に炎の魔法をためだした。もうぶっ殺してしまおうかと。
「魔女様! これだけあればハニトー作った後も、ちょーおいしいパンが毎朝食べられます」
「うむ、許そう」
毎日ちょーおいしいパンが食えるならいいか。
マリィにとってはおいしいが何より優先されること。
しかしやはり妖精たちは、マリィのこの無欲さにいたく感激し、その場にひれ伏す。
『ありがとうございましたのじゃ、マリィ様。受けた恩は、子々孫々にまで伝えてまいりますゆえ』
「あっそ。じゃあね」
『ははあー! ありがとうございましたーーーー!』
そういって、妖精はマリィたちを、どこでもレストランへと帰してくれた。
マリィは限界だった。
「カイト……早く……ハニトー……」
「わかりました! すぐ作りますね!」
……マリィは椅子に座って、ため息をつく。
『お疲れだなぁ、魔女さん』
「…………………………は?」
テーブルの上に、1匹の黒猫が乗っていた。
左右で翡翠と金色の、違う色の目をしている。
「だれ、あんた?」
『お忘れかい? おれだよおれ! 悪魔のオセ!』
妖精界に混乱をもたらしていた悪魔が、マリィの目の前に現れたのだ。
それに対してマリィはというと……。
「ハニトー……まだかしら」
ふぅ、と悩ましげに息をついた。悪魔なんて、眼中にないのである。
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タイトルは――
『聖剣学園の特待生は真の力を隠してる(と思われてる)~聖剣を持たない無能と家を追放された俺、大賢者に拾われ魔法剣を極める。聖剣を使わない最強剣士として有名になるが、使わないけど舐めプはしてない』
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