14.荒廃した妖精の世界を救う
魔道具【どこでもレストラン】のなかにて。
マリィの元に、妖精たちが現れた。
「すごいです魔女様! 妖精を召喚してみせるなんて!」
ケモミミ料理人カイトが感心する。だがそんなのどうでも良い。
「しかし、どういうご関係で?」
「どうでもいいわそんなこと」
重要なのは、妖精の蜜をゲットし、最高のハニトーを食べることだった。
マリィは周りを見渡し、気づいたことを口にする。
「チェリッシュがいないようだけど?」
「ちぇりっしゅ?」
「こいつらのボスよ」
妖精たちの王のことだ。
だが……年老いた妖精が代表して言う。
『わが王は、今病床に伏しておいでです』
「病気……? 妖精が」
妖精は人間と違い、肉体を持たない。物理的な干渉は受けなかったはず。
『悪魔による、呪いを受けてしまわれたのです』
「あ、悪魔ぁ!? そんな……おとぎ話の化け物が存在するんですか!?」
老妖精が重々しくうなずく。
『突如我らの世界……妖精界に悪魔が出現したのです。悪魔の呪いを受けた女王は起き上がれない身体となり、妖精界を維持する結界が弱まったせいか、我らが故郷は今危機に瀕しているのです……』
「そんな……妖精の世界が、ピンチだなんて……」
カイトは、純粋に妖精たちの身を案じていた。一方で、マリィはというと……。
「じいさん。ゲートを開けなさい」
老妖精が目をむく。
『げ、ゲート……』
「妖精界につながるゲートよ。さっさと開きなさい」
『お、おおお! ありがとうございます! 魔女さまぁ!』
妖精と、そしてカイトはこう思った。妖精たちの危機を聞いた心優しき魔女が、悪魔を退治してくれるのだ! と。
「勘違いしないでちょうだい。私はただ、妖精の花からとれる蜜がほしいだけ」
現在倒れてしまっている女王。
その影響は、妖精界全体に及んでいる。
妖精の世界でしか育たない特別な花も、おそらくは枯れてしまっているだろうとマリィは考えた。
ならば直接出向き、結界を修復すれば、また妖精の世界にしか咲かない花が、咲いてくれるだろう。そうすればハニトーは食べられる。
……そう、妖精女王の安否とか、悪魔がどうとか、まったく関係なかった。彼女の興味関心は、あくまでも妖精の花、そしてそこからとれる蜜だけ。
世界のピンチとか、知ったことではないのだ。
先ほどの言葉は、文字通りの意味だったわけだ。しかし……。
「妖精の皆様、誤解無きよう! 魔女様のあれは、ツンデレですので!」
『『『なるほど、ツンデレか!』』』
まあ、勘違いしないで~は確かにツンデレの常套句ではある。
しかしあれは照れ隠しでもなんでもなく、本当の意味で使ったのだが……。
どうやらカイトは、そして妖精たちも、その言葉の裏にある魔女の優しさ(※ない)を感じ取ってったようだ(※誤解)。
さて。
妖精たちはゲートを開く。これは別の世界に存在する、妖精たちの世界と、マリィたちの住んでいる世界とをつなげるトンネルだ。
マリィたちはそれをくぐり抜ける……。
一瞬の酩酊感が彼らを襲った。
しかし次の瞬間、彼らはまったく別の場所に立っていた。
「ここが……妖精たちの住む、世界……?」
カイトが困惑しながら周囲を見渡す。彼の中では、妖精たちはもっと彩り豊かな、きれいな場所に住んでいると思っていた。
しかし目の前に広がるのは、想像とはかけ離れた、荒廃しきった世界。
草木は枯れ、花々はしおれてしまっている。空気はよどんでいた。
『女王陛下が倒れ、結界が不安定になったせいで、外界からの干渉を受けるようになってしまったのです』
結界を張ることで内部の秩序は保たれていた。もし女王が生きていたら、悪魔の呪いを受けても、世界は平和だったろう。
「じゃあ、この枯れ果てた世界は、悪魔の呪いのせい……? 直せないんですか?」
『無理です。この結界の修復は、女王様にしかできません。また、悪魔の呪いは、陛下ですら解除不可能で……』
「そんな……じゃあ、もうどうしようもないじゃあないですか」
妖精は人間よりも魔法力に長けると、おとぎ話では書いてあった。そんな彼らでも治療不可能なら、この世界で誰も直せないじゃないか……。
そう、絶望するカイトと妖精たち。
そう……あくまでもこの世界では、だ。
「【全回復】」
マリィが右手を掲げて、魔法を発動させる。
全回復。それは、どんな怪我や病気すらもなおしてしまう、治癒の魔法。
マリィの右手から放出された聖なる光が、みるみるうちに……全てをいやしていく。
『お、おおー! なんということじゃ! 結界が修復されていく!』
「す、すごいです魔女様! 呪いに犯された、妖精たちの世界が、一瞬で治ってしまわれました!」
荒廃した世界から一転、彩り豊かな世界がそこには広がっていた。
マリィの治癒魔法で、結界も花々も元通りになったのである。
『ありがとうございます! 魔女様!』
「妖精さんたちを助けるなんて! さすがです!」
だが……まあ言うまでも無いことだろうが。
「勘違いしないでちょうだい」
マリィはふんっと鼻を鳴らして言う。
「別にあなたたちのためじゃ、ないんだから」
エゴイスト魔女は、あくまでも自分のおいしいのために力を尽くす。
しかし、彼女の行為は、結果的には世界をピンチから救ったことになるわけで……。
「『『なるほど、ツンデレですね!』』」
と解釈されてしまうのであった。
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