129.妹は実は才能があった
マリィは王と上空にいた。
マーサがおとなしく外壁外へと出ていく姿を見て、マリィが感心したようにつぶやく。
「やるじゃあないの、あのクロネコ。ただの猫じゃあないのね」
まあオセは猫ではなく悪魔なのだが……。
「さて、じゃあ私は自分の仕事に専念しようじゃあないの」
マリィが眼下を見下ろす。
王都には汚泥でできた巨人が立っている。
禁書庫の番人ロウリィにほどこしたのと同じ魔法、有為転変が使われてるのだろう。
「大解呪」
マリィは蓬莱山で身に着けた魔法を使う。
あらゆる呪いを解除する魔法なのだが……。
ばしゅうぅ! という音ととともに、魔法が解除されてしまった。
「ふぅん……ちょっとはやるじゃあないの」
『オ、オロオロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』
おぞましい化け物の叫び声。
声のするほうを見やると、泥の巨人がマリィめがけて、腕を振るってきた。
マリィは結界魔法でそれを防ごうとする。
バキィイイイイイイイイイイイイイン!
結界が粉々に砕け散ってしまった。そのままマリィを張り倒そうとしてくる、が。
マリィは乗ってる箒を操作すると、敵の一撃を華麗によけて見せる。
「なるほどね……そういう仕組み」
『ちょっとちょっとちょおおっとあんた! 何やってるのよ!』
そのとき、マーサのやかましい声が聞こえてきた。キョロキョロと見回すと、マリィの魔女帽子の上に、蝶々が留まってるではないか。
マーサの使い魔だった。そこから、マーサは五感情報を共有し、声を送ってるようだ。
『何あんなのに苦戦してるのよ!』
「作ったのはあなたではなくて?」
『きっかけを作ったのはアタシ、だけど。でも、あの力はアタシが施した術式じゃあないわ』
術式。魔法の設計図のようなもの。ここに魔力を流すことで魔法が発動する。
そう、魔法なのだ。
「わかってるわ。あの術式はグリージョが生まれつき持ってるものでしょ?」
『そ、そうなの?』
「ふぅ……」
魔法の知識がなさすぎて、マリィはこの女が、自分と同じ魔女というカテゴリーにされてるのが、嫌な気持ちになった。
「多分グリージョには魔法使いの才能があったのね。あれは、すごい術式よ。そうね、名付けるなら【魔法錬成】かしら」
『ま、魔法錬成……? どんな魔法なの?』
「敵の魔法を分解し、自らの魔力に変える魔法ね」
『んな!? なにそれ! それって敵の魔法を解呪するだけじゃあなくて、その魔力すらも吸収できる……1つで二つの効果を持った魔法じゃあないの!』
マーサが驚くほど、その魔法は高度なものだった。
だからこそ、マリィは確信をもって言う。
「今わかったわ。グリージョは、この世界において、高い魔法適正を持っていたのね。だから、法力が弱かった」
法力。法術(※治癒魔法)を使うための力。
マリィもこの法力がよわかった。が、それは、マリィに絶大なる魔法の才能があったからだ。
「どうにも法力と、魔法って相反するようね」
法力の才能が高いと魔法がうまく扱えない。
逆に、法力の才能がないと、魔法適正が高いといえた。
『じゃあグリージョって子は、世が世なら、すごい魔法使いになってたってこと?』
「そうなるわね。まあ、その才能も、馬鹿に利用されて暴走させるようじゃあ、意味ないけどね」
マリィは少し、ほんの少しだけ……顔をゆがめた。
何か痛ましいものを見るような目だと、カイトやオセが近くにいたらそう指摘していただろう。
だがマーサは気づかなかった。
マリィがなぜ、この食べられない相手と戦うのか。
『で、どうするのこれから? あの化け物は、アタシの魔法で暴走したグリージョ。あの化け物に解呪の魔法をかけても、グリージョの術式魔法錬成によって、こっちからの魔法がキャンセルされちゃう』
グリージョが現状を説明する。
『なにお手上げ? じゃあアタシの勝ちってことで』
「ふん、馬鹿言ってるんじゃあないわ。あなたごとき、雑魚に負けるものですか」
マリィは杖を手に取って、泥の化け物となったグリージョを見つめる。
「かかってきなさい、グリージョ。最初で最後の、姉妹喧嘩、しましょ?」




