135.泥ひろがる
嫉妬の魔女の固有魔法、有為転変によって、グリージョは泥の化け物になってしまった……。
だがロウリィのときとは、少し異なる特性を持っているようだ。
「な、なんだこの泥……体がひっぱられて……う、うがあああ!」
「し、沈むぅううううううう!」
「ひぃいい! 溶ける! 溶けてくぅうう!」
グリージョの体から次から次へと湧き出る、汚泥。
それは城の中、そして外へと広がっていく。
その泥に少しでも触れると、体が泥の中へと引き寄せられる。
そう……他者を吸収しているのだ。
汚泥は人を吸収し、どんどんと大きくなっていく。
食べて、太り、また食べて……と泥の化け物は体積を増やしていく。
いつしかグリージョを閉じ込められていた地下牢は、限界を迎えて崩壊。
次第に大きくなる化け物の体。
それは膨らんでいく風船のようである。
地下の壁や天井をぶち破り、地上へと進出する。
「な、なんだぁあああああ!」「ひぃい!」「に、にげろおぉおおおおお!」
城にいた騎士たち、そして王の臣下たちはパニックを引き起こしていた。
誰もがこの異形の化け物を前に、恐怖を抱き、逃げるほかなかった。
あふれ出た泥は万物を取り込んでいく。
取り込まれた先に何があるのか不明だ。
だが凄い速度で膨張していくその姿は、人を食らって成長する、魔物に見えてしまう。
そうなると、食べられないよう、化け物から逃げようとするのは当然のリアクションといえる。
「こ、ここはおれが足止め……ぐあああああ!」
「こんなのどう止めろっていうんだよぉお!」
泥の化け物の体は、泥でもある。つまりは液体だ。
襲い来る大量の液体を、物理的に防ぎようがない。
土嚢を積み上げて……などと考える精神的余裕はない。
今のグリージョの、おぞましい姿を見て、誰もが恐れおののく。戦意をそがれた人たちは、ただ逃げ惑うだけ。
逃げても、泥の化け物に捕まって食われてしまう。
さらに大きくなった化け物が、人を、建物を、次から次へと食べていく……。
「あ、あの化け物には、聖女さましか太刀打ちできないぞ!」
「だ、だが……グリージョ様は偽物の聖女だった!」
「しかもそのグリージョ様本人が怪物化したらしいぞ!」
「なんだそれはぁ!」
聖女の浄化の力で、いっきにこの泥を消すしかない。
だがグリージョ本人が化け物になってるし……そもそも、無事だったとしても彼女にこれを浄化できるほどの、強い法力は持ち合わせていない。
城がやがて、まるごと飲み込まれる。
あふれ出た泥は王都へと侵食を開始した……。




