13.伝説の妖精を召喚して驚かれる
魔女マリィは、ケモミミ料理人のカイトの調理道具を、見事1つ回収した。
マリィたちは街の外に出て、調理道具の試運転をしにきた。
街中だと少し目立つからとのこと。
「で、これがあなたの故郷のおばあちゃんが作った、魔道具?」
「はい! その名も、【どこでもレストラン】です!」
「どこでもレストラン……?」
なんだか残念なネーミングセンスだった。
「変な名前」
「おばあちゃんのお師匠様からもらった魔道具を、調理用に改造したそうなんです。どこでも風呂敷って魔道具なんですけど」
「いずれにしろ変な名前ね。つけた人はさぞ残念なネーミングセンスしてたのね」
しかし実は名前を付けたのが、実は【マリィ本人】だったりする。
前世のラブマリィが残した成果物は、この世界では【遺物】といって、伝説級の魔道具になっているのだが……。
本人は、そのことをまるで知らなかった。
「名前はどうでもいいわ。重要なのは、その調理道具で、どんなおいしいものが食べられるか、よ」
エゴイスト魔女のマリィにとっては、自分の食欲を満たすことしか興味ないのだ。
「これ自体で特殊な料理が作れるわけじゃあないんですが」
一瞬、こいつ消し炭にしてやろうかと思った。
こんだけ苦労したのにおいしいのが食べられないだと? じゃあ苦労はなんだったんだ?
「おいしい料理が、どこでも作れるようになります!」
だがすぐに殺意を収めた。おいしいものがどこでも食べれる。最高じゃあないかと。
下手したら怒りで、この周辺一帯が消し炭になるとこだったとはつゆ知らず、カイトが説明を続ける。
「この調理マットをですね、こうして地面に敷きますと……」
簀巻きになったマットを広げる。
すると、1つの古びた扉が出現した。
「空間魔法?」
「そうでそうです! よくご存じですね! さすが魔女さま!」
何もないところから、何かを取り出す等、空間を操作する魔法を、空間魔法という。
かなり高等な魔法であり、それが付与されてる魔道具は、すさまじいレベルのレアアイテムなのだが……。
「説明が長い。今すぐおいしいものを作りなさい」
「はい! では、扉のなかへどうぞ!」
カイトが扉を引く。すると、信じられないことだが、扉の向こうにレストランが広がっていたのだ。
「まあ!」
キラキラと子供のように目を輝かせるマリィ。中は、高級ホテルもかくやといった客席があった。
シャンデリアに、白いクロスのかかったテーブル。落ち着いた、しかし豪華な客席に大満足のマリィ。
「食事は何を食べるかもそうだけど、どこで食べるかも重要よね!」
今まで森の中とかで食べていたときは、まあ味が良かったからいいものの、しかし野外での食事は気に入らなかった。
しかしどうだろう、この高級レストラン。しかも、貸し切り状態だ。
静かに食事を堪能できるこの場所を、マリィは大変きにいった。
「とてもいいレストランね。気に入ったわ。作った人をほめてあげる」
と、作った本人がいう。自分が満足いく空間を作ったのだ、満足して当然だった。
客室に併設されるかたちで、厨房まで設置されていた。
なかには魔法コンロ、水道まで完備してある。
なるほど、どこでもレストランとは言いえて妙だ。外でもいろんな調理が可能になる。
「これって外はどうなってるの?」
「扉が閉まると、扉自体は消えます。また、敷物は周囲の色と同じ色に変わり、背景に同化します」
「なるほど、他者からは敷物が消えて見えるのね。やるじゃない。作ったやつ」
だから作った本人(以下略)。
苦労に見合うだけの、調理道具であった。
マリィは客席に座って、うんうんとうなずく。
「魔女様! 何を作りましょうか! 何でも作りますよ!」
「そうね……今は甘いものの気分かしら。ああ、でもあなた料理人であって、菓子職人ではないのよね」
いえ! とカイトが首を振る。
「お菓子もつくれますよ?」
「……なんですって?」
聞き間違えだろうか。お菓子まで作れると?
「お菓子も作れます!」
「…………」
マリィは天を仰いだ。こいつ拾ってほんとよかった、と心からそう思った。
「では、甘いものを所望するわ。私が食べたことないようなものを用意なさい」
「そうですね……でしたら、ハニトーはどうでしょうか?」
「ハニトー! なにそれ、聞いたことないわ!」
未知なる料理にわくわくしながら、マリィが尋ねる。
「ハニートーストです。厚切りのトーストに、たっぷりの蜂蜜をかけて、バニラアイスやホイップクリームをトッピングするんです」
なんだそれは。神かな? 想像するだけでよだれが出た。
「パンなんて厨房に備えてあるの?」
「オーブンがありますので、パンを焼きます!」
なんだそれ。まさかパンまで焼けるとか、神か?
「小麦粉もミルクもありますし、あとは蜂蜜ですね」
「蜜……なら、妖精の蜜をかけるのはどうかしら?」
「妖精の蜜?」
「妖精たちが育てる花からは、特別甘い蜜がとれるの」
おいしいものに、おいしいものを掛け合わせることで、超おいしいものとなる。
完璧な方程式だ。宇宙の真理を見つけたかのように、マリィは自分の考えにうっとりした。
このケモミミ料理人なら、おいしいパンを作るだろうし、そこに妖精の蜜をかければ……じゅるり。
マリィのなかではもう、妖精蜜のハニトーを食べる気まんまんだった。
しかし……。
「……あ、あの、魔女様。それは無理です」
「無理? どうして?」
「だって、妖精なんてこの世には存在しないからです」
カイトに言われて、そういえばと思い出す。魔法の衰退したこの世界では、妖精は見かけなくなっているようだ。
彼らが食料とする、大気中に含まれる魔素(※魔力の源)が減っているからだろうとは、マリィは踏んでいる。
だが、だからどうした。
「彼らは絶滅したわけじゃあない。妖精界にいるわ」
「ようせいかい……?」
「私たちとは別の次元に存在する、妖精たちだけの世界のことよ」
「そ、そんなとこがあるんですね! 知ってるだなんて、すごい!」
魔王をぶちのめす魔法を求めて、あちこち探索したことがある。
その過程で、妖精界を訪れたことがあったので、知っていただけだ。
「でも、妖精界ってどこにあるんですかね? あんまり遠方だと、すぐにはハニトーは食べれないですけど」
「何言ってるの? 関係ないわ、遠さなんて」
「え? ど、どうして?」
「妖精界なんて行かなくても、呼べばいいのよ」
「よ、呼ぶぅ!?」
マリィは異空間に手を突っ込んで、そこから、1つの笛を取り出す。
エメラルドを削って作られた、美しい笛である。
「そ、それは?」
「妖精王からもらった笛」
「え、ええーーーーー!?」
カイトはどこから突っ込めばいいのかわからないでいた。
だが説明なんてしない。彼女はハニトーを食べたいから。
マリィが笛を吹く。
ぴぃいいいいっと、美しい音色が響き渡った。すると……。
目の前の空間にひびが入り、そこから、大量の妖精たちが現れたのである。
「え、ええええ!? よ、妖精がこんなにたくさん!? この世界では長い間、見たことすらなかった妖精が、向こうから会いに来るなんて! す、すごすぎる!」
大量の妖精たちはマリィの前で跪く。
『おひさしゅうございます、マリィ様。あなた様とまた再会できるなんて、思ってもおりませんでした』
ひときわ年老いた妖精が、うやうやしくこうべを垂れながら言う。
他の妖精たちも、彼女との再会を心から喜んでいるようだった。
妖精たちを従える魔女様凄いと、カイトは思った。
マリィは、そんなのどうでもいいから、さっさと蜜よこせや、とだけ思っていた。
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