11.伝説級の魔道具を作って驚かれる
魔女マリィと従者カイトは、コカトリスのケバブを食した後、街へと訪れた。
遅かったので宿で一泊し、翌日、目当ての場所へと向かう。
コカトリス騒動から一夜明けて、街は平穏を取り戻していた。
だがマリィたちは何が起きたのか知らないし、そもそもマリィがたおしたコカトリスのせいで、街に危機が訪れていたことも承知していない。
「ここね、魔道具屋」
「この中に、ぼくの調理道具がおいてあるんですね!」
魔道具。魔法の付与された特別なアイテムだ。今は作り手が絶無である。
魔道具屋とはいって、やってるのは、かつて存在したアイテムの横流しや、壊れたアイテムの修繕くらい。
「しかし、なんで調理道具が魔道具屋になんて売られてるのかしら?」
「ばーちゃんからもらった調理道具には、おのおの魔法が付与されてるんで!」
「ふぅん……そのばーちゃんが魔法を付与したの?」
「いいえ、かつて存在した魔道具を改造しただけって言ってました」
なるほど。魔法の使い手がマリィ以外存在しない世界では、そうやって既存の魔道具を組み合わせて、新しい魔道具を作るみたいなこともするようだ。
「ま、良いわ。さっさと回収するわよ」
マリィたちは魔道具屋の中に入る。
そこには、骨董品のようなアイテムが飾ってあった。
鎧や剣、水晶玉。どれもに魔法が付与されている。だが……。
「なにこの……質の悪い魔道具の数々……」
前世魔女神ラブマリィの記憶のあるマリィからすれば、店に並んでる道具は、どれも低品質なものばかりだ。
しかたないだろう。新しく魔道具を生み出せる人間がいないのだ。
古いものを今も使ってるのだから、経年劣化が起きてておかしくはない。
「マリィさまは、魔道具買ったことないのですか?」
前世では作る側だったし、今世では貴族令嬢なので、魔道具を買いに行く機会はなかった。
「ええ……しかしぼったくりじゃないのこれ」
すると……。
「なんじゃとっ!」
店の奥から、頑固そうなドワーフの老人が現れる。
ドワーフ。背は低いが筋骨隆々で、もじゃもじゃの髭を生やしている。また、手先が器用なのは、前世も今世も変わらない……と思う。
マリィはついくせで、魔力の有無を確かめる。ほどほどの魔力量だ。
「あなたが店主さん?」
「そうじゃ! わしの作った魔道具にケチをつけるのか貴様! このわしを誰だと思ってる!?」
キレ散らかすドワーフをよそに、マリィは平然と答える。
「知らないわ」
すごまれてもマリィは動じない。こんなドワーフごとき恐くもなんともない。
魔王と比べればである。
一方、ドワーフはマリィの持つ妙な気配に気圧される。
「……ふん。で、何しにきた貴様。わしの魔道具に難癖つけにきたわけじゃあるまい」
「ええ。ちょっと魔道具見せてもらえないかしら」
「そこに出てるので全部じゃ」
「店の奥に」
すっ、とマリィが指を指す。
「あるでしょ、とびきりの魔道具」
「! な、なぜわかる……?」
「逆に聞くけど、わからないの? その魔道具に込められた魔力を見れば、一発でしょ?」
マリィは超一流の魔法使いだ。魔法を使うだけで無く、魔力を感知する術にも長けている。
魔道具とは魔法が付与された道具。魔法には魔力が要るため、つまり魔道具にも魔力が込められている。
高い魔法の力を発揮する魔道具には、それなりの高い魔力が込められてる。マリィは、店の奥から、膨大な魔力量を感じられる何かを、感知していた。
「…………」
ドワーフはマリィがただものではないと悟る。彼はおとなしく店の奥へひっこみ、そして【目当てのもの】を取ってきた。
「あ! ぼ、ぼくの七ツ道具!」
「この敷物が……?」
カウンターの上に置かれたのは、1枚の敷物だった。それが簀巻きにされて置かれている。
「はい! 七ツ道具がひとつ、【魔法のクッキングマット】です!」
「クッキングマット……ただの敷物じゃ……ないわね」
マリィの目には、この魔道具に膨大な魔力が込められてるのがわかった。ふむ……。
「なかなかいい魔道具ね。一体誰が作ったのかしら……?」
「これくれたばあちゃんは、別の人からもらった道具を、改造した言ってましたけど……」
故郷のばあちゃんとやらとは、別の人間が作ったみたいだ。
「なんだおまえら? この魔道具の持ち主なのか?」
「ええ、この子のなの。返してちょうだい?」
「駄目だ」
「なぜ?」
ドワーフは魔道具をぎゅっと抱きしめていう。
「こんな素晴らしい、世界に2つとない最高の魔道具を、手放してなるものか!」
「はあ……」
「こんな凄い魔道具、世界のどこを探しても見当たらないだろう。この魔道具を参考にすれば、わしにも魔道具が作れるやもしれない」
どうやらこの職人は、自分で魔道具を生み出したいようだ。
魔力があるから、まあできないことはないだろうとマリィは思う。
「なるほど。それは参考書なのね。書じゃなくて物だけど」
「そうじゃ! だからこれは売れん! いくら金を積まれようともな!」
「そ、そんなぁ~……」
カイトの表情が絶望に沈む。彼にとっては大切な調理道具なのだ。
マリィは、その思い入れなんて知ったこっちゃなかった。ただ美味しいご飯を食べるために、このカイトには道具をそろえてもらう必要がある。
「店主さん。いくら金を積まれても譲らないって言ったわね」
「ああ、たとえ国家予算を積まれようともな!」
「じゃあ、代わりの魔道具と交換はどう?」
「なに? 代わりの魔道具……だと?」
「ええ。作るわ。今ここで」
「……素材となる魔道具はあるのか?」
「ない」
ドワーフは鼻を鳴らしてマリィの無知をあざ笑う。
「いいか小娘。魔道具の作るには現在、既存の魔道具を素材にして、それらを掛け合わせて作る以外に方法はない」
「それは事実かも知れないけど、真実では無いわ」
マリィは右手を前に出す。
すると、何もない空間に魔法陣が展開。
そこに手を突っ込むと、マリィは中から、1本のホウキを取り出す。
「あ、魔女様が乗っていたホウキ」
「なっ、なっ、なぁあああああああああああああああああああ!?」
ドワーフは目を大きく剥いてマリィを凝視する。
「お、おま……今なにを!?」
「異空間にしまっていたこれを取り出したのよ」
「異空間……だと。馬鹿な。それは空間収納の魔法……そんな……魔法を……どうしてこんな小娘が……」
マリィはホウキを手にとり、ずいっ、とドワーフに押しつける。
「これでどう? 空飛ぶホウキ」
「空……飛ぶ!? 馬鹿な! あり得ない! 空を飛ぶ魔道具なんて、この世には存在しないぞ!」
魔法が衰退したこの世界では、飛行手段は竜に乗る以外にない。
飛行魔法がそもそも高度な魔法であり、それを付与することはさらに高度な技術を必要とする。
ゆえに、この未来の世界で、飛行魔法の付与された魔道具が存在しないのだ。
「うそ……ではあるまいな」
「どうぞお使いになられたら?」
ドワーフはマリィに疑いのまなざしを向ける。しかし、空間魔法を使って見せたのは事実だ。
ドワーフは恐る恐るホウキを手にとり、またがってみる。
ふわり……と空中に浮かんだ。
「なっ!? なにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」
ふわふわと空を飛ぶドワーフ。魔道具は問題なく使えるようだ。
「これと交換して?」
「魔女様、よろしいのですか? ぼくのために……」
「いいのよ」
どうせ城のゴミ捨て場に置いてあったホウキに、適当に魔法を付与しただけの代物なのだから。
しかしカイトはまたしても、「ぼくなんかのために! こんな凄い魔道具を手放してくれるなんて! ありがとうございます!」と感激していた。
マリィはもう面倒なので流した。
一方で……。
「これでどう……て、何してるのあなた?」
ドワーフはホウキから降りて、地面に土下座していた。
「数々のご無礼誠に申し訳ありませんでした!!!!」
ドワーフは悟ったのだ。目の前に居るのは、失われたはずの魔法を使う……凄まじい人物であると。
探し求めた、魔道具の作り手であることを。
「なんとお詫び申し上げれば良いか!」
「わびは良いから、この子の調理道具かえして」
「それはもう! どうぞお持ち帰りください!」
マリィは嘆息を着いて、カウンターのうえの敷物を手に取る。
「ほら、手に入れたわよ」
「ありがとうございます! ああやった! 本当に魔女様はお優しいおかたです!」
別にこれで美味しいものが食べたいだけなので、感謝するいわれは無かった。
マリィは空間魔法でそれを収納する。
「邪魔したわね」
「お、お待ちください! 偉大なる魔女さま!」
……偉大なる魔女?
ドワーフはひれ伏したまま、マリィにお願いしてくる。
「どうかこのわたくしめを、素晴らしい魔道具の作り手であるあなた様の、弟子にしていただけないでしょうかっ!!」
マリィの返答やいかに。
「嫌に決まってるでしょ」
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