103.
マリィは禁書庫の番人ロウリィを救出した。
『改めて……魔女さん、自分を助けてくれて、ありがとうっす』
見上げるほどの大きな竜が、マリィの前に平伏する。
その姿にオーディエンス(カイトとリアラ)は、竜を従える魔女すごいと尊敬のまなざしを向けていた。
一方でマリィはその場にくら……と倒れる。
カイトは慌ててマリィを抱き起こす。
「魔女様! どうしたのですか!?」
「……お腹減ったわ。だいぶ魔力を使ったから」
ロウリィとの戦闘、そして時間を巻き戻す大規模な魔法を使ったことで、マリィは魔力を大量消費した。
その結果、腹が減ったのである。
「任せてください! 魔女様がご満足いただける料理を作ります……!」
「……そう、頼むわ。なにかこう……がっつりとしたものが食べたい……肉とか」
「肉……ですか……」
ジッ……とカイトとマリィの視線が、ロウリィに向く。
二人の視線に、よからぬ物を感じて、ロウリィが額に汗をかく。
『な、なんすか……』
「ドラゴン」「肉……」
『いやいやいやいや! やめてくださいよ! 自分、死にたくねーっす!』
「「肉……」」
『ああもう! ちょっと待つっす!』
ロウリィはそう言って翼を広げる。
ぼこっ、ぼこぼこぼこぼこ!
「! 急に湖のほとりの地面が、隆起しだしたぞ!?」
「これは……植物、でしょうか?」
一瞬で畑ができて、そこにはたくさんの緑がなっていた。
カイトが近づいて、すんすんと匂いを嗅ぐ。
「これ……じゃがいもです! ほうれんそうもあるし……お野菜たくさん生えてます! しかも凄いたくさんの種類があります!」
色とりどりの野菜が辺り一面に生えていた。
リアラ皇女が目を剥いて言う。
「すごい……さっきまで何もないただの地面だったのに、一瞬で植物を生やすなんて。これは……魔法?」
『そっす。うちの魔法は、超再生っす。あらゆる生命の成長を促進するすげえ魔法っすよ。どや!』
ふふん、と得意げのロウリィ。
ようするに再生の力を使って、そこら辺に生えていた植物の根っこから、このようなたくさんの野菜を作ったのだ。
しかし……。
「野菜か……」
今マリィはがっつりとしたものが食べたい気分なのだ。
野菜じゃ物足りないのである。
「やはり……ドラゴンステーキ……」
『うひぃいいい! 死にたくねーっす! おたすけ~!』
そこへ、黙考していたカイトが口を開く。
「これだけたくさんの野菜があって、満足が得られるというと……キッシュとか……どうでしょう」
「キッシュ! それだわ。直ぐ作ってきなさい!」
「あいあいさー!」
マリィに命じられて、カイトはウキウキしながら野菜を採取する。
リアラ皇女も「手伝おう!」と嬉々として野菜を回収してる。
「お、皇女殿下ともあろうおかたが、土いじりなど!」
「よいのだキール。私はここに来て何もしていない。せめて、魔女殿のお役に立ちたいのだ!」
「は、はあ……では、わたくしめも手伝うのであります」
とまあ部下達をこき使う一方で、マリィは木陰でのんびり休む。
オセはロウリィに尋ねる。
『しかしおまえさん、こんなすげえ魔法使えるのに、蓬莱山のその……嫉妬の魔女? ってやつに出し抜かれるなんてな』
『うう……めんぼくねーっす……。でもうちの固有魔法、戦いに向かないし……』
確かに超再生は凄い力だが、彼女が言うように、戦闘向きとはいえない。
回復や補助の技だった。
『番人が負けてちゃ意味ねえわな』
『うう……いやでも、しゃーないんすよ。嫉妬の魔女、めちゃんこ強くて……』
『竜が出し抜かれるほど、つええのか、そいつ?』
『はいっす。やばい強いっす』
オセはロウリィから情報を収集、カイトたちはマリィのために野菜を集め……。
当の本人はというと……。
「キッシュ~……たのしみぃ~……」
と食事に思いをはせているのだった。