100.
「あの泥の化け物が、禁書庫番人だと!?」
蓬莱山の、湖のほとりにて。
リアラ皇女は、泥の化け物を見つめながら声を張り上げる。
この化け物が、番人というにはあまりに異形すぎたからだろう。
何かを守るというより無差別に攻撃してきたことから、とても番人とは思えなかった。
『根拠はなんだよ?』
「体内に宿してる魔力ね」
『魔力……?』
「ええ、あの魔力の波長には覚えがあるわ。あれは……確かにこの禁書庫の番人のもの」
マリィはかつてこの禁書庫にきて、番人とあったことがある。
その際、番人の保有する魔力の波長を、一度感じ取ったことがあるのだ。
「番人のそれと、あの化け物の波長は一緒だった」
「ま、魔力に波長なんてあるのですか! すごい……そんなこと知ってるなんて、さすが魔女様!」
カイトが目をキラキラさせながら言う。
だが感心してる場合ではなかった。
『どーすんだよ、番人暴れてるけど。元からあんな感じなのか?』
「ぐぼぉろぉおおおおおおおおおおお!」
またも番人が泥を発射してくる。
マリィは風の魔法を発動。
泥は空中でボロボロと風化していった。
『武装解除の魔法……あんた、本当に器用だな』
武装解除の魔法とは文字通り、相手の武装をこわし、無力化させる魔法のことだ。
「番人はおそらく、蓬莱山の魔法使いによって、体を変質させられてるわ」
「! つまり……人面樹と同じく、あの番人殿も化け物にさせられてると……?」
リアラ皇女のといかけに、マリィがうなずいて見せる。
「人面樹をチョコにかえたように、番人を泥の化け物にかえたのね。性質を変化させる魔法が使えるみたいだし」
「すごい……さすが魔女殿! 我らでは見ただけでわからぬ事象を、一発で見抜いてしまわれるなんて!」
感心するリアラ。
だが次々と、番人は泥を打ち込んでくる。
マリィは武装解除で応戦してるが、防戦一方といったところ。
『これからどうするんだ?』
「とりあえず、相手を無力化するわよ。話を聞きたいしね、こんなこと誰がしたんだって」
蓬莱山の魔法使い(暫定)の情報を、番人から仕入れるため、マリィは戦うことにした。
「やれやれ……お腹の足しにならないバトルは、やりたくないんだけどね」