01.婚約破棄からの記憶復活
短編が好評のため、連載版始めました!
短編の続きは6話から!
「マリィ=フォン=ゴルドー。君との婚約を破棄させてもらう」
アイン王立学園のパーティ会場に、王太子ルグニスの声が響き渡る。
彼の前でうつむいているのはゴルドー公爵家の令嬢、マリィ。
マリィは呆然とした表情を浮かべる。ルグニスは、彼女が急な婚約破棄を言い渡され、衝撃を受けているからだと、【勘違い】していた。
実際には、マリィは別の意味で衝撃を受けていたというのに。
「なぜ婚約を破棄するに至ったのか説明してやろうか」
「え? ええ……」
思っていたのとリアクションが異なり、若干戸惑いながらも、気にせずルグニスは続ける。
「貴様が双子の妹にして、現状【大聖女】にもっとも近い存在であるグリージョに、非道を働いていたからだ」
ルグニスの隣にはマリィの双子の妹グリージョがいて、彼の腕をがっちりホールドして寄りかかっている。
ゴルドー姉妹は、二卵性双生児だからか、姿が全く似ていない。
ふわふわのピンクの髪に、庇護欲をそそるようなたれ目に、豊満な肉体を持つ妹のグリージョ。
姉のマリィはそのすべてが逆だ。黒い髪に釣り目、スレンダーな体つき。
並んで立つと妹のほうがより、男性受けしそうなパーツで構成されていることが際立ってしまう。
「マリィ。君はひどい姉だ。たしかに君は、世界で唯一、【法術】を使えない。出来損ないと言われてもしょうがなく、性格がゆがんでしまうのは仕方ないだろう」
法術。それは治癒術のことだ。かつて、この世界に存在した治癒魔法と同系統の、人を癒す奇跡の技である。
今この時代、魔法は衰退しており、唯一残っているのはこの法術のみ。
また、法術は女にしか扱えないことから、法術使いとしての手腕が、女の価値を決めるといっても過言ではない世界になっていた。
そんななかで、マリィは世界でただ一人、法術を使えない、【落ちこぼれ令嬢】と呼ばれる存在。
一方、妹のグリージョは、次世代の大聖女と期待されている存在だ。
大聖女とは、最高位の聖女(国に認められた高い法力を持つ女)に贈られる称号である。
誰もが知っている。ゴルドー姉妹は、妹が優秀で、姉が出がらしであると。
「妹に嫉妬し、毎日ひどい虐めをされて困っていると……グリージョから聞いたぞ」
「その通りです、ルグニス殿下。お姉さまってば、毎日陰湿ないじめを繰り返してて……」
無論、マリィはそんなことをしていない。グリージョの嘘だろう。
王子は親に決められた婚約者であるマリィのことを、あまり気に入っていなかった。
見た目もそうだが、なにより自分の婚約者が落ちこぼれ扱いされるのが我慢ならない。落ちこぼれしか婚約者にできないのだろう、と学園内でのそしりを受けているのが、彼のプライドをいたく傷つけていた。
そこに加えて、グリージョは見た目(だけ)はよく、中身も(王子と一緒にいるときだけは)よく、なにより高い法術力を持っている、世界最高の聖女だ。
グリージョこそ王子たる自分にふさわしい女である、と思っているところに、都合よくグリージョからのタレコミがあった。
これ幸いと、学園の卒業パーティの場で、マリィに断罪、そして婚約破棄を突きつけたのである。
さて……。
それを受けて、マリィはどういうリアクションを取るかというと。
「はいわかりました」
実にあっさりと、婚約破棄の事実を受け入れたのだ。ルグニス、そしてグリージョは困惑する。
彼女は、未来の王太子妃というポジションに固執していたはずだ。
ルグニスの隣に立つのにふさわしい女になろうと、必死になって勉学や習い事をしていた。
それもすべて、未来の王妃にふさわしい女となるため。法術が使えず、聖女の才能がないという、前代未聞のディスアドバンテージをはねのけるべく、必死になって努力し続けてきた。
それが、マリィという女だったはず。だから、婚約破棄を突きつけられたら、さぞ落胆するだろう、その場で泣いて縋り付いてくるだろうと、ルグニスたちはそう思っていた。
妹のグリージョはその様を見て高笑いしてやろうと、身構えていたところだった。
けれど姉のリアクションは、実に薄いものだった。それが意外であった。
「わたしはどのような処罰が下されるのでしょうか?」
「あ、ああ……わ、わが妃となるグリージョをいじめた罪は重い! よってそなたを国外追放とする!」
「……それは、御父上、国王陛下も承知していることでしょうか?」
「無論、知らない。これは私の独断だ。あとで父上には報告しておく」
「……委細承知いたしました」
マリィはカーテシーを決めて、その場からあっさりと退場していった。
おかしい……。王子は困惑する。なぜ引き下がるのか。あれだけの努力が水泡に帰し、国外追放の憂き目にまであうというのに。
彼女は涙一つこぼさず、パーティ会場を後にする。どういうことだ。自分に対して、何の感情も抱いていないのか?
「そうそう。最後に一言よろしいでしょうか」
ぴたり、とマリィが立ち止まる。やっと、自分に詫びを入れる気になったかと期待するルグニスであったが……。
「国を守護する聖結界の運用は、グリージョが行うということでよろしいですね?」
この世界にはモンスターと呼ばれる化け物がはびこっている。魔法が存在したいにしえの時代ならいざしらず、今その技を使えるものは存在しない。
そこで、魔道具師たちが開発したのは、聖結界と呼ばれる防御装置だ。
法術使いの女が、そこに聖法気(※法術を使うための力。魔法で言うところの魔力)を込めることで発動し、街を守る結界となる。
だいだい、王都の聖結界は、その時代で最も強い法力(※法術使いとしての総合力)のたかい聖女が務めることになっている。
「現在大聖女に近いのがグリージョなのだから、彼女がやるに決まってるだろう」
「そうですか。では忠告を。その女に任せると、王都は大変なことになりますよ」
「なんだと……?」
「彼女の法力は実は最弱です。強化の【魔法】によってブーストされていただけなので」
魔法。それはかつて存在した奇跡の術。しかし今は衰退しており、誰一人として、魔法を使うことができない。
だというのに、魔法で強化?
「ばかばかしい。魔法などこの世界に存在しない」
「もしわたしが、法術ではなく、魔法を使えるとしたら?」
その場にいる全員が、ぽかんと口を大きく開く。だが、爆笑の渦に包まれた。
「おねえさまかわいそぉ。妄想に取り付かれてしまわれたのですね」
「さっさと出ていけ狂人。貴様のようなイカレタ女がわが妻になるところだったと思うと、ぞっとする」
ルグニス他、誰もがマリィの苦し紛れの発言、あるいは、本当に頭がおかしくなって出た妄言だと思っていた。
魔法はおとぎ話の存在で、この世に存在しないものであると、誰もが知っている常識だからだ。
そうですか、とマリィは一礼して出ていく。
誰もマリィに同情しなかった。イカレ女が消えてよかったと、思っていた。
……だが。
残念ながら、彼らは近い将来、全員が後悔する羽目になり、泣きながらマリィに許しを請うことになる。
なぜならば。
マリィこそが、この魔法が衰退した世界で、唯一の魔法使いであり……。
魔女神ラブマリィの、生まれ代わりだったからだ。
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