輝ける暴力、晦冥の暴虐
「これで、もっかい吹っ飛ばしてやるっ!」
イリスの叫びと共に、彼女の『電子魔道書』が輝く、彼女の周囲に何重にも魔法陣が浮かび上がり、補助魔法とメインとなる攻撃魔法を自動でセットアップしていく。
今現在の彼女が持ちえる攻撃魔法の中でも、最大級の破壊をもたらす魔力と知識の暴虐、『魔力砲撃:偽・煉極災杖』が展開されていく。
魔杖の機関部、サリエルに莫大な魔力が集う。戦場に渦巻く魔力の金切り声にまぎれて聞こえないが、微かな唇の動きから音声詠唱まで入れている事を確認できる。決める気だ。
それに対してベィ・ルゥ・ジィは、敵の眼前で詠唱を行うと言うあまりにお粗末な相手に、万全にして鉄壁の構えで挑む。
彼女を正面に見据え、六本ある脚の内二本を伸ばす。暗い紫色の結界が幾重にも浮かび、天使人と悪魔の間を隔てた。
しかし、相棒は止まらない。詠唱を止めることも、射線をずらす事もしない。
「いっけええええええええええええええええええええええええええええっっっ!」
裂帛の気合と共に、術式発動。
放たれた一条の光が、大悪魔を後ろから貫いた。
どれほど結界を重ねようと、それは正面のみ。全く予期していなかった背後からの攻撃には意味を成さない、本体が大打撃を受けたことで、役目を果たすことなく雲散霧消していく。
――成功した。
何とか脱出したものの、受け身もとれずに地面に叩きつけられながら、思う。
何も炎に隠れていたのは僕だけでは無い。
彼女は彼女で勝つための行動と準備を終わらせていたのだ。
イリスは身の安全を確保しつつ、光学幻惑術式『魔道鏡像幻視』を発動、魔法による立体映像を展開。それを囮に接近したのだ。
無論それだけであの蠅を騙し切れる訳は無い。自身に対しては『光折幻影』を発動しての光学迷彩を纏って姿を消し、多数の虫による魔力的な感知を誤魔化す為に防御魔法をあえて弱め、虫自身の魔法による炎の強い所にわざと飛び込んでべィの魔力による隠れ蓑まで作る徹底ぶりである。
これだけの術式の多重及び連続発動。魔力の予備貯蔵庫でもある珠晶石を幾つ使ったのか考えたくも無い。正直、この戦いから生きて帰った所で、生活苦で死ぬかもしれない。
まぁ何はともあれ、彼女の最初で最後のチャンスと思われる『光学術式での奇襲攻撃』は無事に成功した。
先日のフードコートの様に威力を絞られておらず、むしろそれに回される筈だった魔力を全て喰らい尽くして放たれた紅蓮の閃光が横一直線に伸び、ベィ・ルゥ・ジィを吹き飛ばして天井に着弾、溶かしながら突き抜けていく。
蠅が急いで振り返るが、その間にも光と熱が悪魔の体を削り、消滅させていく。悪魔の腕がうごめき、その先で術式発動。
魔力と魔力のぶつかり合う、凄まじい轟音と目を潰さんばかりの光が満ちる。
そして、僕はその光の中央に、信じられない物を見た。
それは、体の何割かを失いながらも多重に防御魔法を展開、イリスの最大の魔法に抵抗している蠅の姿だった。
完全な奇襲を受け、体を焼き払われ、即興での術式展開であるにも関わらず、悪魔は結界術式を持って、相棒の放つ最大最強の術式に拮抗して見せている。
「くっそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!」
イリスが叫び、サリエルが答える。杖に仕込まれた遊底がブローバックして珠晶石を追加で消費。
底を尽きかけていた魔力が一時的に補充され、術式の威力が増す。
「ふはははははははははははははははははははっ! はっはあ! 成程、人にしてはやる……愉しい、余はとても愉しいぞ! ……だが!」
悪魔が哄笑。まだ笑う余裕があることに愕然とする。反対側ではイリスが歯を食いしばり、必死に杖を握りしめて悪魔に向けている。
悪魔の無尽蔵な魔力によって大量展開される盾と、人類の技術の粋を集めたイリスの超威力魔法がぶつかり合い、互いに喰らいあう。
ぶつかり合う光と光が少しずつ弱まってきた。決着の時が近い
イリスから伸びる光が弱まる。対するべィの盾も次々砕け、紫色の破片となって消えていく。
そして、魔術合戦が決着。
光が消え、結果が僕の目にも映る。
「………………」
僕は、何も言えなかった。
……僕の目に、鼻血を垂らし、肩で息をするイリスの視線の先で、悪魔が僕らを睥睨しているのが見えてしまったからだ。
結果を言ってしまえば、
超常の理により行使されるイリスの暴力は、
超常の存在により行使されるベィ・ルゥ。ジィの暴虐の前に完全に屈してしまったのである。
「うそ……でしょ」
イリスの翼から光が弱まる。力を使い果たしたイリスが、地面に崩れ落ちる。
一方で巨大な蠅がこちらを向く。体を新しい群れで体を修復しながらこちらへ飛翔。
拙い! 出血と肉体の損傷の回復が全然追いついてない!
迎撃どころか、回避だってままならない。
そのまま頭を掴まれ、力任せに後頭部を地面に叩きつけられた。
世界が僕を置いて高速移動したような錯覚を覚え、僕が地面に……いや、地面が僕に落ちる。
世、界が暗転す、る。音、が消え、意、識が混、濁。自、分の体がどう、な、ってい、るのか、すら解、ら、ない。
「てぇえええええええいっ!」
手に覆われた視界の端、僅かな隙間から、イリスが何とか飛び上がり、僕を助けるために特攻するのが見える。
攻撃魔法を展開する程の魔力を確保できず。消費の少ない『炎熱付与』だけを発動。魔杖先端部分、月と太陽をかたどった飾りが赤熱化し、即席の槍が誕生する。
「はあっ!」
全身を使って杖を振る。杖はその高熱で蠅の外殻を焼き切る。
通じる事が解り、今度は突きに行く。六本の脚の一本、根元に突き刺さり、嫌な匂いのする煙が傷口から立ち上った。
「食われに来たか? 小鳥よ。無粋にして小癪よな」
小さな言葉と共に杖の刺さった蠅の腕が爆発。
蠅の群れが闇の渦となり、杖に沿ってイリスの腕を飲み込み、喰らう。
「きゃああああああああああうっ!」
奔流が体にも向かう。即座に、最後の魔力で操作も何もあったものではない『魔導炸薬』を発動。爆発で群がる蟲と自身の体を吹き飛ばす事で、死の奔流から辛くも逃れる。
「ふふふ、ふふ」
笑い声。
僕を捕まえていたベィが黒い雲に成り。僕から離れていくのだけを、
急速に薄れていく意識のな かで とら え




