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癒しとの出会い① *ルディ視点



「ああ、カルディス君。

久しぶりだね。2年ぶりぐらいだろうか。

一度挨拶したことがあるんだけど、覚えてくれているよね?」


壮年の男性が、爽やかな笑顔でこちらに話しかけてきた。


「ええ。リーディア伯爵。お久しぶりです。

伯爵が勧めて下さったタユタマート産のワイン、あの後取り寄せて味わわせていただきました。

やはり伯の勧めは間違いありませんね。美味しかったです」


「そうか。それは嬉しいね、ありがとう。

ぽろりと口にした話まで覚えてくれているとはね。またおすすめのワインを紹介しよう。


そうそう、学生時代に君が開発した雷魔法と光魔法を使って熱に変換する術式だけど、あれにちょっと興味があってね。

息子も一緒にぜひ話を聞かせてくれないかね。一度食事にでも行こうじゃないか。

あーそうだな。しかし、食事をするなら娘が美味しいお店を沢山知っていてね。

やはり娘を含めて4人でどうだろう?」


「いえいえ、そんな。

私などが皆様とお食事などと」


「いやいや、遠慮なんてしなくていいんだよ。

君の部署のゲルグリード殿。そう彼、優秀だと有名な。いい上司じゃないか。

で、彼から来週の日曜日は休みだと聞いているんだが、何も予定など入っていないよね?君は休日は予定も何も入れないと有名だし。

うん、大丈夫だね。


じゃあよろしく頼むよ」











やあ。はじめまして。


たった今、面倒なオジサンに絡まれて貴重な時間を数分間も無駄にし、なおかつ来週末の予定まで仕事(仮)で埋まってしまったカルディス・フェルミアである。


こちとらほとんど言葉を発してないのに、食事に行くことが決定してしまった。


微妙に圧力をかけつつ、かといって威圧的でもない。

ちょうどいい具合に話を展開させながらも、返答を挟ませない手腕は見事なものだ。

しかもこっちの休日を把握した上で逃げられないように詰めてくるの、ほんとにやめてほしい。


……というか、ゲルグリード様も勝手に人の予定話さないでほしいんだけど。

あの人俺が迷惑してるの分かってる上で、色んなところにちゃちゃ入れてくるんだよなぁ。ほんとタチが悪い。

んで仕事は完璧に仕上げてくるから、仕事を理由に口答えするってタイミングもなくてむかつく。


あーあーしっかし、研究に興味があってとか言っていたが、おそらく娘を紹介するための口実だろう。

もしくは王太子派への顔つなぎとして俺を使おうとしているか。


リーディア伯爵家の御当主殿は何年か前に代替わりし、その後じわじわと影響力を増してきている家だ。

あの胡散臭いオヤジと息子とちょっと会話して、で、まあ有能そうだったらゲルグリード様に報告だな。


…完全に休日返上だし。

上司にいいように使われてることには、今度、休日手当を請求する決意は固めておく。




人使いの荒い上司、そして多すぎる仕事量とその仕事量に比例しない給金。心穏やかに過ごせる時間もなく毎日を過ごしている。

だが、しかし。

今の俺には癒しがあるのだ。


そう、それが〝ラピスラズリ〟


俺が休日に予定を入れない理由はこれだ。

それどころか、平日の仕事終わりや急に空いた隙間時間ですら通い詰めている。




あの店は今から約1年前、幼い頃からの友人と会うため平民街へ降りた時に偶然見つけた。


この国に広く知られている"シーナとユジス"という物語で登場する〝青月〟をイメージしての店名だろう。

看板の脇に描かれているデザインも恐らく青月だ。


入ってみれば店内は明るく落ち着いた雰囲気だった。

入店時、ちょうど3時頃だったためか、女性客が多くてなんとなく甘い空気が漂っていた。



「いらっしゃいませ。おひとり様ですか?」


店員が俺に気づいて話しかけてきた。


うっわぁ凄まじいまでの営業スマイルだなぁと、後の友人への第一印象はコレだった。

多分貴族社会の、さらに魔窟のような王城で過ごしている俺だからこそ抱いた感想だったんだと思う。



席へ案内されたので、ショートケーキなるものを一つ注文した。


まず、ケーキとはどんなものかも分からなかったが、とりあえず甘い食べ物ということだけは分かった。

普段は甘いものを好んで食べないのだが、なんとなく食べたい気分だったのだ。


そして、未知の〝ショートケーキ〟が運ばれてくる。


一口食べてみると……

懐かしいような新鮮なような、実に美味いものであった。


いや、過小評価だな。

いやはや、激しく感動してしまった。



にしても…と食べながら考えてみる。

平民街の中では、商人など比較的裕福な者が多い地域ではある。だが、それにしても、随分と丁寧な店だな、と。


メニュー表の文字は優美で美しいものだし、商品説明の欄には絵まで付いている。

なにより、店員の接客が他では見ないほど丁寧すぎる。

どこか教養や上品さを感じさせるのだ。

しかし商品の価格は一般的なものだし、むしろ相場よりも少し安いかもしれない。


ここまでのコストパフォーマンスをどうやって実現したのか。

または店員の接客の不思議という疑問を抱きつつも、癒しの時間をなんと2時間は堪能した。


そして、翌日もその翌日も、そのまた翌日も、4日連続で来店してしまった。





初めて店を訪れてから早1ヶ月。

俺はすっかりこの店を気に入ってしまった。


自分で言うのもなんだが、俺の顔は世間一般的に見て非常に優れているらしい。


おそらくそれが原因なのだろうが、外出先で落ち着こうにも落ち着けない。

周囲の人間からチラチラと視線を向けられたり、勝手にスケッチをされたり、こちらに話しかけてくるような人間もいる。


本人は俺にわからないようにしているつもりなのかもしれないが、されている側は普通にわかる。

しかも、ものすごく嫌だと感じる。

俺の顔面を意識してから話しかけてくるような人にも、普通にイラっとしてしまう。


まあつまり、外出時はたいてい嫌悪感と闘っているのだ。




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