思案
「そんなに仲が良かったんなら、手紙の送り合いとかしてないのか?」
至極真っ当な質問が飛んでくる。
「いやぁ、それがさ、お互いに筆不精すぎて多分途切れちゃうだろうねって話になって。
それならいっそ、カーラが卒業するまで一度も連絡を取らずにいようかって話になったんだよね。
卒業式の日にカーラの家に私が突撃して、どれだけお互いが変わったか笑い合おうかって。
カーラのお母さんのアリアおばさんにもこの事伝えてるから、お互いに今の状態は何にも知らない」
「セツもカーラも思い切り良すぎだろ」
急にルディがくっくっくっと腹を抱えて笑い出した。
涙まで浮かべている。
「笑いすぎだし息できてないし。
はぁ。でもそんな大変な立場になってるなんて知らなかったなぁ。
話とか愚痴とか、なんでも聞くからどこかの休日にお店においでよって手紙出そうかな。流石に心配だし」
「セツも、カーラのためならそんな顔もできたんだな」
余計なお世話だバーカ。
「しっかし今年いっぱいでバカも卒業なわけだよ。
つまり、シルヴィア様との結婚や立太子の礼に向けて、俺も含めバカ王子派は動いてるんだが……バカが18になって立太子の礼が行われるまであと丸1年だろ?
陛下が、王妃の生んだ第一王子を次期国王に指名するって明言してんだから、このままお飾りの王になることが決定してんだよ。致命的な何かをやらかさない限りは。
あーもう、ほんと頼むから何もやらかさんでくれと願う毎日……
つらい。精神が泣いてる」
ご愁傷様です。
てかお飾りの王なんだね、決定してるの。
王子への評価の低さを切々と感じる。
バカがやらかせば、自分の首も最悪の場合物理的に飛ぶ。
かといって安易に職を辞することもできない。
国王の馬鹿野郎!ってか。
つまり詰んでいる、と。
あっでも…
「むしろ王子がやらかしてくれた方がルディも自由になれるんじゃないの?
責任被って死刑とかにはならないレベルで止めて、貴族籍を抹消され平民に落とされる、とか」
「どんだけ難しいさじ加減だよ…」
そっかーいい案だと思ったんだけどだめか。
「でもまあ登場人物だけ聞いてたら完全に乙女ゲームだよね。なんか笑えてくるわ」
「乙女ゲーム?なんだそれ。
セツってちょくちょくよくわからん単語発するよな」
ありゃ?
あーそっか"乙女ゲーム"って向こうの言葉か。
無意識でポロっと出てしまうことが割とよくある。
「あーごめんごめん間違えた。何かの物語みたいだよねって言おうとしただけ」
「確かになぁ。男爵令嬢が次期国王の側妃だもんな。いくら側妃だろうと、最低でも伯爵家あたりまでが一般的。
普通は愛人だし、愛人って立場でも十分玉の輿だろ。
そういや本人も自覚してるのか、お花畑嬢もそんな事言ってたらしいぞ。
「これは私の為のお話で舞台なの」って」
え。ドン引きなんですけど。
というか、、、、、、、ん?ん?
「まあハニートラップでも仕掛けてたのかって調査に乗り出したんだが。調べても調べても背景は見えないんだよなぁ。
でも独り言とかまで報告させてたら、出るわ出るわナルシスト発言が。」
ナルシスト発言?
「自分はヒロインだの聖女だの。自分の事を愛さない人間は存在しないだの。なんなら私のためにこの世界は出来上がったの!!って。
一周回って恐怖を覚えた。
つーかアレは側妃どころか王妃の立場狙ってるぞ」
「えーと…そこまできたら、もう排除しちゃわないの?
王妃を狙う=シルヴィア様を蹴落とすってことじゃん。王太子の近くに居させていいの?」
「バカが執着しまくりだし、側近連中も完全に釣られてる。だからそれぞれの家から各々試されてるんだよ。
もちろんシルヴィア様父娘もそれを承知してるから、あんな不当な扱いに耐えてらっしゃるんだし。
猶予は学校卒業まで。卒業までに自分の意思でお花畑嬢から離れられなかった場合、勘当するらしいぞ。
俺はその日を楽しみに、頑張ってる。職場放棄せず頑張ってる。」
凄まじく荒んだ気力の保ち方ですね。
……ほんとに哀れだなぁ。
「はいはい。じゃあその日の為にまた明日から頑張りな」
「いやだぁぁぁぁ。それとこれとは話が別なんだよ嫌なもんは嫌だし耐えらんない!!!!!」
「幼児退行すんな。アップルパイお土産にあげるからもう今日は帰りなさいなー」
「えっセツが店のもの渡してくれるとか珍し!!
じゃあ、ありがたく!」
結果、本当に帰らせるまでに20分はかかったと思う。
なんて面倒な。
実は会話の途中、自分で言った"物語みたい"という言葉に強く引っ掛かりを覚えていた。
さらに、ルディが話してくれたお花畑嬢の言葉にはもっと大きな違和感を感じた。
どういうことだ?
お花畑嬢も転生者ということで良いのだろうか。
私という存在がいる以上、他に転生者がいても不思議ではない。
「大賢者カズヤ様」だっておそらく転生者だろう。
ハンガーやカイロ以外にも現代の地球を思わせるものは、こちらにもたくさんある。
カズヤ様以降の時代にも、地球出身者が存在した可能性は高いと思っている。
お花畑ちゃんも、転生者なら転生者で、現代知識を活用して名声とか資産とか好きに得ればいいと思う。
そこは正直どうでもいい。
だが、「乙女ゲーム」の件は別だ。
待って待って。
ほんと考えれば考えるほど乙女ゲームじゃん。
物語は物語だからこそ美しく成立するんじゃないの!?
別にお花畑ちゃんが国妃になったってぶっちゃけ構わないけど、国が傾くのだけは勘弁してよ!?
リアル楊貴妃とか望んでないからね!?
いや、それ以前の問題か?
もし、なにか世界がひっくり返って、私が一国の王妃になるような事件が起きたとしても断固拒否すると思うよ。
現代日本でもただの一般人。無理。ホント無理。
そもそも王族に生まれて、成長と共にその立場に見合う教育を受けられているならまだしも……
お花畑ちゃん、大丈夫?
国って人間の集合体だよ?
人って思い通りに動いてくれないよ?
え、本当に大丈夫…?
お願いだから。
国、破滅させないでね………?