シルヴィア様とカーラ
いや、うん、まあ、ここらで一応フォローを入れてみる。
「ただただ文章に興したり、人に説明したりが苦手なだけって可能性は?
本当に天才だけど、そんな疑念を抱かれちゃったっていう」
「実際に俺も本人と話したことあるけど、ポーション作りの基礎とか薬草の種類とか、簡単な話題でも理解出来てなかった。
あれは人と話すのが苦手とかそういうんじゃなくて、純粋に分かってなかっただけだと思うぞ。
それに、ポーション以外にもマジックアイテムとか魔法の回路や導線についても画期的な発明をしてる。
それぞれの話題も振ってみたけど、やっぱり会話にならなかったし。
まず研究の範囲が広すぎる。
お陰で裏に優秀な研究者を何人も囲ってんじゃないかって噂になってんだよ。
でも男爵家にそんな大金は無いだろうから…まあ世間一般では魅力的な部類に入る、彼女自身を対価に交渉したんじゃねぇかって話までセットで。」
生々しすぎやしませんか?お貴族さんたちや。
「しっかしシルヴィア様もあんなバカが婚約者とはホント運がねぇよなぁ」
それは本当にそう思う。
心底、いや心の奥底から同情する。
「だよねぇ。
あっ今日はシルヴィア様と会う機会あった??」
「セツはほんとシルヴィア様のこと好きだな。今日は会ってない。」
シルヴィア様とは全公爵家の中でも、最も大きな力を持つミリラトジェ家の御息女だ。
そしてバカの婚約者という、同情を禁じ得ない肩書きも持っておられる。
実際に会った事も見た事もないが、貴族内で一、二を争う美しい令嬢だと言われている。
ルディも女性の容姿を褒めるなんて珍しいのに、彼女については「えらい美人だよな」なんてサラッと言っていた。
平民の間でも姿絵が出回っているが…うん、すんっごく麗しかったよ。
まあ姿絵なんて大してアテにならないんだけど。
私がシルヴィア様のファンになったのは、彼女のカッコよ過ぎる言行動に惚れたからだ。
自分の婚約者が堂々と浮気してたら普通に苛つくよね?
過失が明らかに王子側にあって、しかも浮気相手は下位貴族。
なら、公爵家の権力ゴリ押しで十分排除できたはずだ。
でも彼女は口頭注意に留めた。
さらに、高位貴族との適切な接し方が分かっていないのかしれないお花畑ちゃんに対して、懇切丁寧に対応した。
お花畑ちゃんのやらかすあれやこれやにシルヴィア様がフォローに回っていたのだ。
マジ意味わからん良い人すぎる。
まあ正確には、お花畑ちゃんのフォローじゃなくてバカ王子のフォローだったんだろうけど。
尚更すごいわ。
在学中のルディは、もちろんバカ王子の側近になるだなんてノミ程も考えていなかった。
そのため、シルヴィア様のこれまでの苦労を卒業後に知り、本当に深く深く共感したそうだ。
幼い頃から、十何年という単位でバカの後始末に奔走してきたシルヴィア様。
そんな話を聞かされた私も、好意、なんなら尊敬の念を抱いてしまったのは当然のことだと思う。
「えー。じゃあ何かシルヴィア様のお話ないの?」
「そうだなあ…最近は学校内でのお立場が特に悪くなってきてるって話は聞こえてくるが」
!?!?
「いや、そんなおもろい顔いきなりすんなよ」
え、だってシルヴィア様の事嫌う人間がいると思わなかったし。
いやぁ流石に全人類から好かれるなんて人は存在しないと思ってるけどさぁ。
でもあれだけ筋をきちっと通す方なのに。
逆に正道すぎて疎まれているとか?
んんん……?
「なんか、嫉妬に狂ってお花畑嬢をいじめだしたって噂だ。
んで、それを聞いたバカがシルヴィア様に詰め寄ったと。一時騒然とした空気にもなったらしい。
バカがお花畑嬢とシルヴィア様のどちらに愛を傾けてるかは、誰が見ても明らかだろ?
その上、お花畑嬢にはバカの側近全員が取り巻きになって守ってて、かつ、お花畑本人も画期的な発明をいくつもしてる。
寮生活で外の空気と触れていないお子様たちだ。
お花畑嬢を持ち上げた方がいいって判断したらしい。
一歩学校から出れば異常な状況だってわかるのにな。
報告が上がるたびに王城で流れるあの白けた空気を感じてほしいわ。社会勉強しろ社会勉強!」
ありゃ、また遠い目をしてらっしゃる。
にしてもシルヴィア様はつらいなぁ。周りにバカとアホしかいないなんて。
マジで国の将来が不安。
「他にはないの?できれば明るい話希望で!!」
「明るい話……
んんと、今のシルヴィア様にとって学校内の人間は皆ほぼ敵に等しいんだが、カーラって平民の学生だけは完全に味方してるんだと。
で、シルヴィア様もカーラを友人と呼んで自分の庇護下に入れてるみたいだ。
カーラが周りに手を出されないよう守って、シルヴィア様もカーラの存在に助けられているらしい。
そうして二人で戦ってるって。
平民なら大多数が所属する派閥に入って、静かに身を守るのが普通だろ?
貴族学校ってのは、平民たちにとっちゃ良い職場、もしくは資格のいる職に着くための通過点って考え方するよな?
危ない立場にはなりたくないはずだし、貴族たちとはできうる限り関わらず卒業したいはずなのにな。
やっぱ青い血ばっかり誇ってるようなのはなぁって改めて思ったわ。
本気で努力して、希望して学校に通ってる人間の方が、視野も広くて正しいものを見分けられるもんだろう」
そっか。一応味方は居るんだ。よかった。
ん?でも待って。
貴族学校に通ってる平民のカーラって……
「あのカーラか!懐かしいなぁ」
「へぇ、知り合いだったのか」
懐かしい名前が出てきて嬉しくなる。
「平民学校でもね、君は天才だ!って何度も何度も言われてて。でもその度に照れて、すごい可愛かったの覚えてる」
「へえ。俺も研究会で少し喋ったことあるぞ。カーラは学校代表として来てたんだったか。
知識も深いし発想も面白かったからよく覚えてるわ。
何より、学びたいって意欲が気に入った」
ああ、ルディはマッドサイエンティストだもんね。
しかしカーラもそうだったとは知らなかった。二人は案外気が合うのかもしれない。
「実は貴族学校に入学するまでは、何度かこの店でバイトしてたんだよ。
幼い頃はよく遊んだし、カーラのお母さんが焼いてくれるクッキーがもうほんと美味しくてさ。
言われてみれば、もう4年会ってないんだ。ほんとびっくりする」
昔を思い出して、心が温かくなるのを感じた。