貴族学校
優雅にアップルパイを頬張りつつも、ルディのマシンガントークは止まる気配ゼロである。
寧ろどんどん加速していく。
「というかさぁ!あのバカ今年で17だよな!?
どうしてあんなにバカが治らないんだ?致命的すぎるバカなのか??」
仮にも一国の王子に対して不敬すぎる不敬…
まあ私も人のこと言えないけどさ。
「バカがバカな事にはある程度諦めがつくようになってはきたが、俺以外の側近連中には苛立ちしかねぇわ!!
どぉーしてお前らも一緒になってバカとバカやらかすんだ?
制止しろよ!!!頼むから!!!」
あーうん、同僚が無能だとムカつくよね。
「バカが学生であって俺がもう卒業してしまっている以上、学校内でやらかす問題には干渉できねぇんだよ!!」
店に来るようになった頃、ルディのこと22、3歳だと思ってたのに実は18歳だったんだよね…
実年齢知った時は本当にびっくりした。
苦労が顔に滲み出ていたのだろう。完全に老け顔。
お労しや。
「それなのに知らない所で起きた問題を事後報告され後始末に奔走しなきゃならないとか。なんなんだよ!
つーか王城でのあの冷めた目!!バカどもが何かやらかすたびに向けられるあの哀れんだ目!!
その割に誰も俺をこの最悪な職務から救ってくれない…
はぁ。せめてバカの蛮行を事前に知ることができればなぁ。
妨害なり誘導なり出来るのに。」
哀れみの視線に耐える日々、お疲れ様です。
もはや説得や矯正という選択肢は存在しないようだ。
「というか頼むから誰も俺に絡まないでくれ!しがない子爵家の四男に権力なんてもんほぼ無いに等しいだろが!!高位の貴族に寄って来られちゃ退けるのにどれだけ苦労するかわかってんのか!?!?
ああ、権力なんざ絶対いらねぇって思ってたのにこんな時俺が公爵家にでも生まれてたらゴリ押しで色々と通せるのにって何度思ったか。
下位貴族は正攻法でいくしか無いし、それだと時間はかかるしよ。
最近はなんとか無理矢理作りまくったコネでマシにはなったが、それでもやっぱりしんどい……」
お疲れ様としか言えない彼の現状に同情してしまう。
空になっていたカップにカモミールティーを注いでやった。
彼の後ろに真っ暗な闇が広がっている気もするし、当のご本人様は血の気の失せた真っ白な顔だ。
せっかくの整った顔もこうなりゃただの死相のある。
若くして可哀想に。南無南無。
「何を手合わせてんだよ」
暫くして私の奇行に気づき、ジト目で睨んでくる。
ジト目をスルッと見なかった事にして、自分の為に残しておいたケーキを厨房へとりに行く。
背後でため息を吐かれた気もするがおそらく幻聴であろう。
幻覚やら幻聴やら、最近私も疲労困憊気味なのかもしれない。
誰かさんのようにはなりたく無いので、何処かで臨時休業にしようか。
そしてストレス解消のために、久しぶりにがっつり商品開発でもしよう。そうしよう。
「お待たせ〜」
私が席を離れている間に、いくらか落ち着いたようだ。
「しかしセツもセツで大概変わってるよな…」という小さな呟きを拾ってしまった。
ぬ。
私は平々凡々を自覚しているが?やはりまた幻聴か?
「にしてもさぁ、マリアンヌ嬢ってそんなに優秀な訳?
バカとは言え王子とずっとくっついていられるってのは、少なくとも平均値以上ではあるんだよね?
まさか金掴ませて同じクラスに?」
貴族学校では上級・下級の2つのクラスに分けられる。
入学してすぐの1年生は、自身の生まれた爵位に沿ったクラスに決まる。
王家・公爵家・侯爵家、辺境伯爵家までは上級クラス。
伯爵家・子爵家・男爵家は下級クラスに編成される。
数年に1度という頻度ではあるが、優秀な平民が下級クラスに入れられている年もある。
家の爵位によって…まあ、言い方を変えれば、お金がどれだけあるかによって、入学以前の家庭教師の質や生活環境は変わる。
そもそも求められるレベルも違ってくる。
国を代表して他国の人間と接する機会があるのは、基本的に上級クラスの者だけだ。
国家や公的な大きな組織の重要なポストに就くのも、大抵は上位貴族である。
そう考えるとこの分けられ方は効率的と言えるのかもしれない。
2年生以降も上級・下級に分けられるのだが、ここからは前年の成績をもとに決定される。
明確に上級・下級と分けられ、目に見える形でそれが表されるのだからなかなかシビアな制度だと思う。
毎年、下級から上級に上がる者は数名いても、上級から下級へ落とされる者は中々いない。
高位貴族の子供たちも、そこは必死こいて成績を維持しているのだ。
そんなシステムの学校な訳だから、男爵令嬢が最初に入るクラスは下級クラスだ。
もちろん王太子であるバカは上級クラス。
流石に自国の王子を下へ落とすというクラス編成は出来ないであろうし、やはりお花畑嬢が何年生かの進級時に上級クラスへ上がったのだろうと考えるのが自然だ。
しかしそこで疑問が湧く。
…え?あのお花畑ちゃん優秀なの?
「いや、国庫からも王家予算からも金の不審な流出は無かった。
恐らく自力なんじゃ無いか?」
「まじか。まあ言動が変わってても学問とか魔術は優秀って話はよく聞くよね。もしかしてそうゆう感じだった?
そうだよね。金掴ませたは流石に言っちゃダメか」
「うーん優秀かどうか……
アレはそこに至るまでのプロセスが全く見えない研究成果資料を、ポンと出してくるんだ」
ん、どゆこと?
「例えばさ、効能がSSランクのポーションが開発されたってつい最近話題になっただろ?
あれの開発者はお花畑嬢なんだよ。
でもアレが書いた論文資料を見ると、研究過程はぐちゃぐちゃだし仮定の段階で色々破綻してた。
もしかすると、秘密にしておきたい彼女独自のやり方があったのかもしれないけど…それにしても酷過ぎたわ。
誰か他の人から作り方だけポンと教えられて、その出来上がったものを発表したんだって言われた方がしっくりくる。
でも、学会や研究者協会から上がってくるそんな疑問には、「彼女は天才だから」ってバカがその一言で片付けやがる」
ほえー、王子はほんとに全肯定なんだなぁ。
愛の力ってヤツか?