表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/28

白月の日



数分後。

普段と同じ穏やかな顔をしたテオと、先ほどの興奮はどこへやら。

なぜか疲れを見せた表情のトムが帰ってきた。


「えっと、大丈夫だった?」


「おう。大丈夫だ。にしてもこれ美味いなぁ。」


微笑むテオの傍らに座るトム。

真剣な眼差しでパウンドケーキを見つめていた。


「わかった。セツが家に来てくれないなら、自力で作ることにする。」


「あ、、なるほど?」


「大丈夫だ。セツには迷惑はかけない。

あくまで自力で、だ。作り方は聞かないとする。」


それ、かなり難しいんじゃないだろうか。

こちらの世界には、似たような食べ物はあまりないし…

私だって、うろ覚えの材料とうろ覚えの計量で何度も失敗を繰り返しながらお菓子を作っている。


「ヒントくらいなら出しましょうか?」


バッと目を輝かせる。


「いや、大丈夫だよ。

トムなら試行錯誤しつつ、それなりに形にすると思う。

コレの集中力、というか没頭力?っておかしいから」


リアがケラケラと笑う。

対して、トムは輝かせた目をしゅんとさせて、今度はクッキーを貪り始めた。












「じゃあね。今日は楽しかった」


気づけば外は真っ暗。


トムに敬語を使う度、リアにキッと睨まれるので、その内タメ口になってしまった。

トム自身も、敬語だろうが何だろうが気にしていない様子であった。


「みんなの意見を参考に、店に並べる商品を考えてみるね」


「頼むぞ。やはり私は1番右の、甘すぎず重すぎずのものが最高だった。それにーーーーー」


トムの言葉を遮って、リアが口を開く。


「でも、ごめんね。急に参加者が1人増えて。

約束の時間も、かなり過ぎてたこともごめん。」


「良いって言ってるのに。」


しょんぼりとした様子のリアに、つい、頭をなでてしまう。


「大丈夫だよ。ありがとう。

時間がある時には、また来てね。」


リアはきゅっと目を瞑って、そしてパッと見開いた。


「分かった」


何かを決意したようなリアの表情に、少し、疑問が残った。




じゃあ、とテオに向き直る。


「テオ、これお土産ね。おうちで食べて。

こっちはリアの分ね。2人分持たせちゃうけど重くない?」


「あはは。

どうせリアは持たないから。俺が持つしかないな」


「ふふ。奔放なお姉ちゃんを持つと大変だね。

そうだ、次はいつ頃来れそう??」



忙しい2人のことだ。かなり先になるのだろう。


そういえば、学校がそろそろ始まるとルディが言っていた気がする。

始業式には、バカ王子による挨拶がある。

ああ、原稿つくらなきゃ…と嘆いていた。


でも問題児のバカだし、何を言わせてもむだじゃね?

大抵のやつが鼻で笑うに決まってんじゃん…とか言ってたな。



テオ、リア、トム。

3人ともおそらく貴族だ。

前々からそうだろうとは思っていたが、今日で確信に変わった。

年齢を聞いたことはないが、見た目から学校に通っている年代だろう。

………ルディのことがあるから、見た目で確実に当てられるかと言われれば、なんとも言えないが。


まぁ、新学期の準備だとか、いろいろあると思う。



「そうだなぁ。少なくとも数ヶ月はむりだろうな。

ま、ちょくちょく時間を見つけて顔出すよ。あんまり長居はできないと思うけど」


「ん。分かった。待ってる」


最後に、トムに向き直る。


「はい、これトムへのお土産ね。

これで研究してもらっても良いけど、食べ物を無駄にすることのないように。じゃ、元気で」


「おい、私にだけ別れが短くないか?」


いやいや、そりゃそうでしょ。


「テオとリアはずっと通ってくれてる常連さんだし、大好きだし。でもトムは会ったばっかりだしねぇ。

今日だって飛び入り参加だし。びっくりしたんだからね」


「……それはすまなかった。

しかし、セツの菓子は本当に美味い。自宅でも試行錯誤してみる」


トムの素直な姿には、純粋に好感が持てる。


「うん。頑張って」





裏戸口から、3人の後ろ姿を見送る。

リアとトムが何か言い合いをしていて、テオがそれを見て笑っていた。


仲良く横並びになって、月明かりに照らされている。


今日は、白月の日だ。

普段は白月の元を離れない青月が、山間に隠れて出てこない。


いつもより幾分明るい夜空に包まれながら、3人は帰って行った。




最初は、ところどころ気まずい空気の流れる瞬間があった。

しかし、いつのまにだろうか。

普段の楽しい時間になり、最後には穏やかに3人を見送れた。



「トムと、リアとテオ。

確執があったのかもしれないけど。

心の底では、険悪な関係性では無いんだろうな」


最終的には2人とも、トムへの当たりは最初ほどきつくなくなっていた。

本来はかなり親しい関係にあるのだろう、と思う。





「よっし!

厨房を片付けたら、明日の仕込みをして、、、

ついについに魔法書だ!!」


気合いを入れつつ、足取り軽やかに建物内に戻って行った。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ