表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/28

トム



所在なさげに立っていた青年に目を向ける。


「一旦3人でお話した方が良いと思います。店側に案内しますね。私は厨房に居ますので。」



厨房と店との区切りにある扉を開けつつ、声をかける。


「じゃあ、後で何か持ってくから。」


「申し訳ない」


今日会ってから、テオってば謝罪の言葉しか吐いてないんじゃない?

そんなに気にしなくていいのに。


寧ろリアの堂々とした姿こそ、いっそ清々しくて良いよね。

あの青年も私のことガン見するだけで、何も言わないし。


テオは苦労人だなぁ。



店でお客さんに出す時と同じように、ティーポットと、カップを人数分。

そして、昨日から用意していたクッキーと、パウンドケーキ3種類を皿に盛り付けた。



いざ3人の元へ持って行こうとすると、リアの大声が聞こえた。



「だから!!!!!

なんで来てんのって聞いてんでしょ!!いつも通りあの子に引っ付いていれば良いじゃない!!」


……店内に入ってまだ数分なのに、ヒートアップするの早くない??


「なんとなくだ!!!」


ん?答えとんでもなくバカっぽくないすか。


「邪魔されたくないの!私はココに癒されに来てんの!!わかる??分かったら帰れ!!!」


「ほぉ。ますます気になるな。

何がそんなに癒されるのか」


「……だめだこりゃ」


まじか。リアが折れた……





「セツ、入ってきて良いぞ」


テオに声をかけられた。


「ごめん。盗み聞きしちゃってた。

言い訳してもいいなら、入っていくタイミングが難しくて…」


「いや、大丈夫だ。そうだろ?」


まあ、とリアが頷く。


「では、自己紹介させてもらおうか。

そうだな、私の名はトムだ。よろしく。

ああそれと、ついでに言うなら、そこのリアの婚約者で、テオは未来の義弟だな」


え??????


「リアの婚約者…ですか?」


そうだが?となんでもないように青年が言う。


「え!?!?!?」


リアが誰かの婚約者って全くイメージが湧かない。

まあ貴族なら勝手に決められてってパターンも多いのかもしれないけど。


というか、この2人って兄弟だったんだ…

幼馴染とか、もしくは従者とお嬢様とか、もし兄弟だったとしても、テオが兄でリアが妹だと思っていた。



…………トムってなんだよ。

偽名なの丸わかりじゃねぇか。


まあいいけどさ。





「はぁぁぁ。いろいろ新事実だわ。」



「ねぇセツ。でも気にしなくて良いわよ。コレは今後ここには来ないから」


「は?なぜだ?」


「来させないから。」


「なぜ?」


眉間に皺を寄せて、苛立ったように「来させないから」を連呼するリア。

いつもの、のほほんとした雰囲気とは打って変わって、険悪なムードを醸し出している。


「まあまあ、リアもその辺にしておいて。

試作品なんだけど、今回のはパウンドケーキなんだよね。さ、感想聞かせて。

トム様も是非。」


セツの明らかに話題を変える言葉に、リアも渋々頷いた。


「わかった。食べても良い?」


「良いよ良いよ!どんどん食べて!」


トムも少しホッとした表情を見せて、フォークを手に取った。

堂々とした態度ではあったが、多少の居心地の悪さは感じていたようだ。



「美味しい!」


リアが目を輝かせる。


「おお、美味いな。俺はこの1番左のやつが好きだ」


テオも顔を綻ばせながら咀嚼する。


トムはというと……

「う、美味い!!!!!!」


むしゃむしゃと、貴族というより、飢えた野良犬のように貪っていた。


「そんなに急がなくても、大丈夫ですよ。

見た目が悪くていいなら、焦がしてしまったものもあります。

お土産に渡そうと思っている分だって。」


思わず声をかけても、貪る手は止まらない。


「む、こっちはなんだ?」


「クッキーといって、テオとリアが好んでくれているお菓子です。

作り方も簡単ですし、手軽に食べられるので普段からよく作りますね」


「ほぉ。」


また、むしゃむしゃと手と口を動かす。



この人、いつもこんな感じな訳?

テオ、リアに目線を向ける。


「いや、これは…」

「うん、そうだね…」


???


「昔から、何か気に入ったものとかハマったものが出来ると、周りが見えなくなるタイプでさ」


と、テオ。


「一心不乱にって言葉はこの人のためにあるんだと思ってた」


と、リア。


「えっと。じゃあ相当お気に召したってことで良いの?」


「「まあそうだね」」


なんでそんなに嫌そうにしてるんだろう…

2人の反応、かなり怖いなぁ


「でもトムって食に興味ないから、こうなるとは予想してなかったわ。

食べられればなんでも良いだろうって、前に言ってたし。」


「へぇ。よっぽど口に合ったのかな」



ひと段落済んだのだろうか。

不意に手元から目線を上げたトムが、とんでもないことを言い出した。


「君、私の家で働かないか?」


ん??


「十分な給金だって保証するし、設備だってきっちり整えてやる。職務条件も、君との話し合いで、ある程度の譲歩だってできるぞ」


え??


「どうだ?悪くないだろう?平民街で日夜働くよりも、私のためにこれらを作った方が、労働環境としてかなり良いのは間違いない」


は??


「決まりだな。契約書を結ぼう。」


んえ????



「おい。」


急に立ち上がったテオが、トムの襟首掴んで男子トイレに引きずっていった。


「すぐ戻るから」


と言い残したテオの様は、かなり怖かったです。



「ねぇリア、あれ大丈夫なの?」


「大丈夫。トムが全面的に悪いから。

………昔、私たちが家に来てほしいって勧誘した時も断ってたけど、今でもその気持ちは変わってないよね?

もしかして、トムの出した条件に揺れてたりする??」


「いや、ないかなぁ。

ありがたいことだとは思うけど、私はここで店を続けていたいし」


「そっか。よかった」



あとさ、トムに気を遣わなくて良いよ、とポツリと言った。


「カップ差し出す時は最初にしたり、座ってもらう位置は上座にしてたり。ちょっと気を遣ってるでしょ。

いらない要らない。あんなヤツには必要ないよ」


「ええ?だって…」


「あと敬語もなし。なんかムカつくから」


「えええええ」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ