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似た者同士




「友達としては良いやつだと思うよ?

素直でまっすぐで欲望に忠実で何も考えてなくて。

でも付き合うとかまじで無理だわ」


「またその答えかよ。まあ良いけど」


「かなり稼いでるはずなのに預金ゼロなんでしょ?

よく分かんないガラクタやらオモチャにお金投げ込んで、大した貯金もないやつは怖いわ」


セツの言葉に対し、リックの声のトーンが急激に上がった。


「はぁ?ガラクタじゃねーし!!

かの有名なユルゲリアルスニアーズ博士が遺した遺物シリーズの価値がわかんねぇとは可哀想なやつだな!!

これまで買ったやつらも、まあ、ちょっとばかし高かったのは否定しねぇけど、でもやっぱあのカラクリには感動するだろ!!!

いやーあれは魔術もそうだけど魔導も関わってて複雑なのにその複雑さが美しくて、魔導士じゃねぇ俺でも感動するし、世界中の奴らが心惹かれるのにも納得だって!

んでやっぱり魔法なんだよ!!魔術と魔導が複雑に混ざり合っていて、でもそれだけじゃどうしても解明できない部分があんだよ!ロマンだろ????

ああ、そうそう。今回ゲンミュアで買ったやつはユルゲリアルスニアーズ博士の弟子のキーアリトッソニビリクツ博士の手も加わってる気配があったし、家に帰ったら魔術具のーーーーーーーーーーーーー」



あ、やばい。がっつりスイッチを押してしまった。



「ーーーーーーーーーーで、ユルゲリアルスニアーズ博士がーーーーーーーーーその代表作のーーーーーーーーーーーーなんだけど、そんときのキーアリトッソニビリクツ博士はーーーーーーいやぁやばすぎねぇか??だけどーーーーーーーーーーーしっかしルドリーエハーラルパーレ博士もーーーーーーーーーーーーーーーでもそん時のルカルルララカラーニ博士は圧巻でーーーーーーーーーーチュカニユニには仕掛けがーーーーーーーーーーーーーーー」



昔の博士の名前って、どうしてこう覚えにくくて長ったらしい名前なんだろうか。

テストの度に幾度その名を恨んだことか。



………お土産見たいんだけど。


とりあえず気を鎮める効果のあるシューユ茶を用意してカップに注いだ。





「ねえ、ゲンミュアのお土産は?」


シューユ茶を飲んで、先ほどよりは多少落ち着いたリック。

もうそろそろ、いい加減出せ、と目でも訴える。


「おっと、悪い悪い。」


ハッとした表情を見せながらも、大して悪びれもせずそう言って、


「よいしょっと」


テーブルに、ドンと置かれたのは、幅7、8センチもありそうな、分厚い本だった。



「え、、、、これ、魔法書、、?」


「ああ」


「ふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」



気がつくと、普段ならイラっとするようなリックのドヤ顔にも気付かないほど、舞い上がって奇声をあげていた。


「まっえっえっがち?」


「がち。」


「おーいリック天才かっっっ!!!!!」



その舞い上がりっぷりといったら。

リックのために入れたシューユ茶が、逆にセツに、無言で差し出されるまで続いた。






「落ち着いたか?」


「うん」




「うん」の一言が言えるようになるまで、30分はかかっている。



「ダンジョンから見つけてきたの?」


「そー。

ゲンミュアって、はっきり言ってあんま発展してないだろ?治安も悪いし。だから護衛依頼の褒賞も高かったんだけど。

で、行ったついでに、まあダンジョンでも入るかぁって入ってったら、まさかのレアなアイテムに当たりまくるわ出まくるわ。

その中の一つに魔法書もあって、やっぱセツだな、と思って持って帰ってきた。」



ダンジョンから魔法書が出てくること自体は、実はそこまで珍しくも無い。

いや、珍しいといえばしっかり珍しいのだが、魔法書を見て発狂するほどではない。

しかしそれが平民の元で出回るかと問われれば、答えはノーなのだ。なんなら皆無。


基本的にダンジョンから出てくるときに、何を得たのか何を狩ったのかは報告しなければならない。その際、魔法書は国家の安全保障に関わるとやらで、そのダンジョンを有する国に買い取られることになる。

冒険者側からも、この制度に対する不満は、特には挙がっていない。

魔法書の文字は、理解できないから活用もできない。金儲けしようにも、厳しく規制されていてリスクの方が圧倒的に高い。

結果、きちんと申請して、そこそこ良い値の礼金を貰った方がお得になるのだ。よって、このルールを破る者はまず居ない。


街にいる魔導士に聞いたところ、貴族でも限られた人物しか読むことはできないそうだ。


ちなみに魔導士は大抵、口伝での術の受け渡しとなる。

また、流派によって術も異なっていたり、その特殊な受け渡し方法から、さまざまな作法にまで違いがあるとされる。



「もーリック!まじかー好きだわー」


「惚れてもいいんだぞ?」


「あ、それは却下で。」



セツはもうニヤけが止まらない。

臨時休業にしてお菓子作りに没頭できるし、魔法書も手に入るし、良いことしか起きていない。


とりあえず、今日と明日はお菓子を作ると決めている。魔法書はそれ以降の日に取り掛かろう。

書は古代文字での記述らしく、実際に読めるかどうかは分からない。だけど、古代語に基づく現代語も多いと聞くし、自力でなんとかならないだろうか。街の魔導士達にそれとなく助けを求めれば、ヒントくらいは貰えるかもしれない。

単なる趣味なんだから何年かかってもいいのだ。地道に進めようと思う。

というか、もはや魔法書が手元にあるというだけでも興奮する。楽しい。


……当局に見つからないようにしないと。





リックは、そういえば、と、急に思い出したように呟く。

そして、自身の"空間"を展開し、ポンッと1枚の小さなカードを取り出す。


「これさ、凄くない?

もうそろそろ来店50回目。今回の滞在期間で達成しそうだろ。

いやぁもうそんなに経ったか」



リックが取り出したヨレヨレのカードには"ラピスラズリ・無料券"と書かれていた。




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