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来訪者



ガチャ。



「セツ!!愛してる!!」


あ?


「会いたかった!!!」

「……」



バタン!!!



closeの札には目もくれず、開けるのが当然とでも言いたげな顔。そこから、愛してるだの会いたかっただのと口走る客。

若干イラッとして、で、ドアを勢いよく閉めた。


「ちょっおい!セツ!開けろ!」


「今日は臨時休業なんですー。お客様はお断りしてるんですー。あらー?文字が読めなかったのかしらー?また明後日お越しくださーい」


バタン!!!!!!


なんやらかんやら騒ぐ声に背を向け、また店の裏に戻ろうとしたら。


「えっちょっおい!!おーいセツさーん?

………ほんとに追い返して良いんだな?」



呼び止める声のトーンが変わった。



「え」


知っている。

セツは経験上知っているのだ。


冒険者をやっていて世界各地を飛び回るこいつは、数ヶ月に一回ラスターに帰ってきてはお土産をくれる。


その度に、各地の名産品やら特産品やら食べ物やら、私に与えて餌付けを始める。

だが、一度拗ねさせるとお土産を一切くれないのだ。


いや、でもこっちは数ヶ月ぶりのお楽しみデーなわけよ。

テオやリアとは違ってアイツは大騒ぎするタイプなんだよ。お菓子作りに没頭出来ないだよ!!


「あああああめんどくさい。めんどくさいけどお土産は欲しい。食べたい。……はぁ。」




ガチャリ。




「よう!久しぶりだな。」


男は満面の笑みのまま仁王立ちし、腕は前に開かれる状態をキープしていた。

やはりイラッとしたが、「お土産のためだ」と自らに言い聞かせる。

流石にハグ待ちの腕は無視したが。


我ながら、完全に餌付けされてるとは思う。

でもコイツ、リックは私の好みを完璧に把握してて、期待外れだったためしがない。

その一点においてのみ信頼している。



「あーそーだねぇ何ヶ月ぶり?

今回はどこ行ってたの?ザルツァだっけ?」


「そう!ザルツァ。でもその後にゲンミュアも行ってきた。」



「ほー。それは遠いとこまでご苦労様でした。んじゃあ大儲けだろうね」


「ははははは。笑いが止まんねぇくらいだぜ。ゲンミュアまでの護衛任務と向こうでの仕事で、もうガッポリ」


"笑いが止まらない"が比喩でも何でもなく、実際にニコニコ、いや、ニヤニヤしながら話す様子に、もはや微笑ましくなってきた。


「あっそうだ。いま裏でお菓子作ってんの。裏で話そうよ。

向こうにテーブルと椅子持ってきて。

そんで、リックもお土産買ってきてくれてるでしょ?テーブル運んだらお土産ショーね。よろしく!

休日に店内に入れさせたんだから今更無いとか許さんよ?」


「へいへい」







「おーいセツ!運んだぞー

ショーが開催されちまうぜ!」


「おっけー。あ、でもあと3分待って!」


オーブンにパウンドケーキ型を突っ込んだら、リックが持ってきてくれた椅子に着席した。


「はい。じゃーまずはザルツァでの分な。

とりあえずいつものフルーツ盛り合わせ。」


ドンッと一つのカゴが置かれた。


「うわーありがと!えっ待って今回トンナあるの?やった!」


ザルツァはセルバクラッツェの隣国の都市で、リックもよく行く場所だ。ザルツァでのお土産はフルーツ盛り合わせが多い。

トンナは地球で言うマンゴーのような味を持つフルーツだ。

生息地が結構な南部のため、セツの生活範囲内で見かけることはかなり少ない。


「んで、あと加工花」


「おっ!」


加工花とは、名前そのままに魔術で加工された花である。

みずみずしい姿を数週間留めるだけでなく、花の香りを少し強める。そして、キラキラとした細かな鱗粉のようなものが花の周りを飛んでいて、とても綺麗だ。

女性への贈り物の代表例になっている。


「枯れるまでお店に飾っとくわ。んーやっぱり良い匂い」


加工花の匂いにうっとりした後。

戸棚から花瓶を持ってきて、加工花用の透明の液体と共に生け、テーブルの端に置いた。


「でー、次はゲンミュアな。」


「よっ!待ってました!!」


わくわく、どきどき、という言葉が聞こえてきそうなセツの様子にら思わず笑ってしまうリックだった。


「はははっ!」


「んえ?なに?こわ」


「いやお前が可愛くてさ」


「…………冷めるわー」


いきなり笑い出したかと思うと、今度は可愛いときた。

怖すぎる。


「リックさー、私相手にそれやめてって何回言ってると思う?軽く100は超えたよね。寒気が、、寒気がすごい。」


驚くなかれ。

こいつ、この粗雑なナリと言動にも関わらずモテるのだ。ムカつくことに。

で、数々の女の子たちに発してきたであろう言葉を、なんと私にも向けてくる。しかもさらっと言ってきやがる。


多分ほとんど無意識で発せられているのだと思うが、それがまた余計に悪寒が走る。


また、元来の整った顔立ちとS級という冒険者ランクが起因してか、現地妻ならぬ現地彼女?が至る所に存在する。


ちなみに冒険者とは、冒険者または探索者と呼ばれる、魔物や植物を狩ったり、あるいは雑用仕事をこなしたりもする職業者のことだ。

SSS・SS・S・A・B・C・D・E・F・Gまでランクがあり、最高位であるSSS級ともなると世界に2人だけだと聞いている。

SS級は5人、S級は12人だったっけ?

一般的にD級やC級で冒険者生涯を終えることから考えても、S級はかなりの上位だ。さらに、25歳という若さでS級認定されているリックはかなり特殊だと言えるし、まだまだ伸び代も期待できる。

将来性は抜群。かなり有望で安泰だと思われる。




「あんたが絡んでくるせいでラスターでの女は私だと思われてんだからね?ほんっとにいい迷惑」


「周りにそう思われてんならもう良いじゃん。名実ともにそうなっちまえ」



分かるだろうか、この軽薄さが。こうやってほいほい女を増やして。

いつか刃傷沙汰になって刺されてしまえ。

いや、一般人にS級を刺せというのは酷か。逆に刺し返されるな。


何という理不尽。




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