世界三大美女と噂されるフレデリカ姫が、なぜか僕に恋してるらしい
こちらは長岡更紗様主宰「小鳩さんブッ刺せ企画」に参加作品です。
(大幅に遅刻したうえコメディ寄りになりました、ごめんなさい)
「ふぅ」
これで何度目だろうか。
朝から僕は馬車の中でいくつもため息をついていた。
「アルフレド様、そんなに緊張なさらず」
隣に座る老執事のジェームズがいつものような穏やかな顔で語り掛けてくる。
「リラックス、リラーックスですぞ」
「いやいや、緊張するよ。これから隣国の姫と初めて会うんだから」
僕の国マクドミア王国は四方を大国に囲まれた小さな国だ。
戦乱激しいこの時代、僕の国を足掛かりに勢力を拡大しようという国は多かった。
そんな中、父が手を結んだのは比較的安定したミア王国。
ミア王国は神龍に守られし神聖王国で、誰も手出しができない超大国だった。
なぜそんな超大国と手を結ぶことができたかというと……。
「大丈夫です、なんせ相手はアルフレド様にぞっこんのようでございますからなぁ」
そう、ミア王国の第一王女フレデリカ姫が、なぜか僕に一目惚れしてしまったらしい。
フレデリカ姫といえば世界三大美女とも噂されている美しい姫君だ。
僕は会ったこともないけれど、そんな美しい姫君が僕と結婚したがったため、国の立ち位置に困っていた父はすぐにその話に飛びついた。
もともとどこかと同盟を結ぶつもりではいたので、ミア王国のこの申し出は渡りに船だったわけだ。
そんなわけで、今僕はミア王国へと向かう馬車の中にいる。
「多少の失敗も大目に見てくださいましょう」
執事らしからぬ助言をするジェームズ。
こういう時は「失礼なことがないようお気を付けください」と言うべきだろうに。
にしても解せない。
超大国で世界三大美女のフレデリカ姫であれば相手などより取り見取りなはずなのに、なぜ選んだ相手が僕なんだろう。
そもそも、どうして僕のことを知っていたのだろう。
ミア王国とマクドミア王国はそんなに交流はなかったはずだ。
実際、僕はいまだにフレデリカ姫の顔を知らない。
僕は懐にしまっていた手紙を再度広げてみた。
『親愛なるアルフレド殿下。あなたと再会できる日を心からお待ちしております』
手紙には「再会」と書かれている。
ということは以前会ったことがあるということだ。
しかし記憶をたどっても思い出せなかった。
「うーん……」
腕を組んで唸っていると、ジェームズが心配そうに声をかけてきた。
「大丈夫ですか? アルフレド様」
「え? あ、ああ。大丈夫」
「トイレでしたら早めに言ってください。アルフレド様は昔から我慢するクセが……」
「違うわ!」
失礼なことを言うジェームズの頭にチョップをかましてやった。
※
「ああ、アルフレド殿下! お会いしとうございました!」
ミア王国の大きな宮殿に着くと、これまた大きな庭園から噂のフレデリカ姫が出迎えてくれた。
噂通り、いや、噂以上に美しい人だった。
金色の髪に透き通った白い肌、純白のドレスにキラキラと光り輝く装飾品をたくさん身に着けている。
「これはこれは、フレデリカ様自らお出迎えとは。恐れ入りまする」
馬車から降りたジェームズはスッと礼儀正しくお辞儀した。
「あ、ど、どうもこんにちは……」
僕はというと、予想以上の美しさに見惚れてしまい、変な挨拶をしてしまった。
瞬間、ざわっとフレデリカ姫の背後にいるたくさんの衛兵たちがざわつく。
「……あ、じゃなくて、えーと、本日はお招きいただだだだ」
ヤバい、緊張しすぎてろれつが回らない。
そんな僕にフレデリカ姫はクスッと笑った。
「そんなに無理なさらないでくださいまし。アルフレド様のそんな着飾ってないところが好きなんですの」
ポッと赤らむフレデリカ姫を見て、僕は余計ろれつが回らなくなった。
「今日は顔合わせということで、大事な話は抜きにしてまずはゆっくりと旅の疲れを癒してください。私が客室まで案内いたしますわ」
「あ、ああ、はい。お願いします」
さっそうと歩き出すフレデリカ姫のあとを追って僕も歩き出す。
そしてその後を数十人の使用人と衛兵がついてくる。
すごい。
やっぱりミア王国ともなると使用人や衛兵の数も全然違う。
マクドミア王国では僕が歩いても誰もついて来なかったしな。
ちらりと後ろを振り返ると、ジェームズがミア王国の使用人にちょっかいを出していた。
何やってんだ、あのオヤジ……。
「どうぞ、ごゆっくりとおくつろぎください」
客室に着くと、フレデリカ姫はぺこりと頭を下げて退室していった。
すごい……。
この客室だけでもうちの客室3部屋分くらいある。
しかも超豪華。
「見てくだされ、アルフレド様! ふかふかのベッドでございますぞ!」
嬉しそうにベッドの上を飛び跳ねるジェームズ。
こいつは執事という立場を忘れてるんじゃないか?
「ううう、ありがたや。一度、こんなベッドで寝てみとうございました……」
「悪かったな、うちのベッドが安物で」
どこまでもマイペースな執事だ。
「ところでアルフレド様」
「なんだ?」
「フレデリカ様に見覚えはありませんでしたか?」
「うん、そうなんだよ」
フレデリカ姫は確かに美しかった。
美しすぎて目を奪われた。
だから逆にわからなくなった。
あんなに綺麗な人、見たら絶対覚えてるはずなのに。
「いっそのこと、本人に聞いてみては?」
「いやいやいや、失礼すぎるだろ」
「出迎えの段階で十分すぎるほど失礼でしたが?」
痛いとこ突くな。
「まあ、記憶と言うのはひょんなところで思い出すものですからな。焦らずじっくりと思い出しましょう」
「ああ、そうだな」
僕はとりあえずふかふかのソファに座って「ふぅ」と何度目かのため息をついた。
※
夢を見ていた。
いや、夢なのか?
よくわからない。
目の前に泣いている子どもがいる。
ボロボロの衣を着た女の子だ。
身体中汚れていて、髪の毛なんかボサボサだ。
そんな女の子に一人の男の子が駆け寄っていく。
その手には大きなパンが握られている。
男の子が女の子の頭をポンポンと叩くと、女の子は顔をあげて男の子を見た。
男の子が黙ってパンを差し出す。
女の子は嬉しそうに受け取ると、むさぼるようにパンを食べ始めた。
ああ。
なんか覚えてる。
これは僕がまだ子どもだった頃のことだ。
父の目を盗んで城下町に遊びに行った時、道端でお腹を空かせていた女の子に会ってパンをあげたんだっけ。
どこの子かわからなかったけど、何度か遊んで仲良くなって……いつの間にかいなくなったんだ。
あの子、今どうしてるだろう……。
「……レド様、アルフレド様!」
ジェームズの声で目が覚めた。
あたりはすっかり暗くなっている。
どうやらソファに座ってそのまま眠ってしまったらしい。
「お加減はいかがですか? アルフレド様」
「寝てたのか、僕は」
「はい、それはもうグースカピーととても心地よさそうに」
なんか恥ずかしい。
招待された場所で爆睡だなんて。
「ご夕食の時間だそうでございますよ?」
「ゆ、夕食?」
なんてこった。
4時間以上も眠っていたのか。
さすがに失礼すぎだろ。
「一度フレデリカ様がお見えになられましたが、アルフレド様が爆睡……ごほん、お眠りになられていたのでそのまま出ていかれました」
「ひいい!」
何やってんだ僕は!
さすがに呆れられたんじゃないか?
この婚姻がなかったことになったらどうしよう……。
「ご安心ください。フレデリカ様はアルフレド様の寝顔を見て大層お喜びになられてましたから」
「よ、喜んでた?」
「おそらく緊張して欲しくなかったのでしょう。リラックスされてるアルフレド様を見て安心なされてる感じでした」
「な、なるほど」
確かに逆の立場だったら招待した相手がガチガチに緊張してたら申し訳なく思うものな。
「ということで、このリラックスムードのまま晩餐といたしましょう」
「うん、そうだな。緊張してたら相手にも失礼だしな。よし、ミア王国の豪華な食事を堪能するとしよう」
※
リラックスムードとか馬鹿か、と僕は思った。
マクドミア王国より数倍も広いダイニング。
その中央に巨大なテーブルが置かれ、奥の席にミア王国の王、右に王妃、そしてフレデリカ姫、さらに見たことはないけど王家に連なるであろう方々。
そんな人たちと一緒に僕は席についていた。
──そして思いっきり震えていた。
「マクドミア王国のアルフレド殿下、ようこそ我が国へ」
王がワインを手にニコリともせず挨拶を述べる。
「お、お、お、お初にお目にかかれて光栄です……」
ぶるぶる震えながら返事をする。
まさか今に至るまで王への挨拶を忘れてただなんて……。
前代未聞だよ。
父が知ったら卒倒するぞ。
「殿下との謁見の場がこんな場所で恐縮だが……」
「い、いえ……とんでもございません……。素敵な場所でございます……」
クスクスクスと周りから失笑が漏れる。
ヤバい、これは本格的にヤバい。
近くにいるジェームズも「やっちまったー」って顔をしている。
彼もふかふかのベッドに浮かれて王への挨拶を失念していたらしい。
二人そろって王への挨拶を忘れてただなんて、縁談がご破算になっても文句言えない案件だぞ、これは。
「アルフレド殿下、ひとつよろしいかしら?」
今度は王妃がニコリともせず聞いて来た。
「は、はい、なんでございましょう」
「今の今まで、どこで何をされていたのですか? 私たちへの挨拶もなしで」
「はい! 寝てました!」
ブフーッとそこかしこで笑い声が起こる。
ああー、バカバカ。
なに本当の事言ってんだよ。
でも王妃のあの迫力。
とてもウソなんてつけない。
「寝てた? アルフレド殿下、あなた、ここに来てからずっと寝てたというのですか?」
「は、はい。ふかふかのソファが気持ち良すぎて……」
ブフーッとさらに笑い声が聞こえてくる。
ああ、ヤバい。
今夜殺されるかも……。
「それで、私たちへの挨拶を忘れたと?」
「はい、忘れてました」
まわりの笑い声とは対照的に王と王妃は無表情だ。
っていうか、怒ってますよね?
絶対怒ってますよね?
フレデリカ姫も神妙な顔つきをしている。
さすがに愛想をつかしたか。
「アルフレド殿下」
今度は王が尋ねてきた。
もうやめて。
「今一度聞く。我らへの挨拶、本当に忘れていたのだな?」
ですよねー。
王としてはそこはきちんと確認しときたいですよねー。
普通、王様への挨拶をし忘れるなんてないですもの。
でもウソを言ってもすぐにバレるだろうし僕は本当の事を言った。
「はい、忘れてました」
すると、それまで無表情だった王と王妃の顔がムズムズと動き出した。
「……?」
「ほ、ほんとに?」
「はい、本当です」
「忘れてた?」
「忘れてました」
瞬間、王と王妃が口を大きく開けて笑い出した。
「ブワーッハッハッハ! 忘れてた! 忘れてたか! ワーハッハッハ!」
「ホホホホ! ちょっとあなた、笑いすぎ……ホホホホ」
あ、あれ?
なんか大笑いしてる。
なんで?
「忘れてた、忘れてたって……ひーっひっひっひ」
「あなた、やめてちょうだい……ほほほほほ」
「ひいーひいー、腹が痛い……」
どういうこと? とジェームズに顔を向けるも、ジェームズもさあと首を傾げた。
「ひーひー、さすがフレデリカが見初めた相手だ。型にとらわれぬ自由奔放な男よな」
「ええ、ほんと。今まで見たこともない方だわ」
ほ、褒められた?
よくわからないけど、褒められたの?
挨拶を忘れたのに?
さすが超大国の懐の深さというか、なんというか。
「ふふふ、ワシも堅苦しい挨拶は嫌いでな。アルフレド殿下、気に入ったぞ。そなたのような人物のほうが気楽でいい」
「私も可愛い息子ができたみたいで嬉しいわ。私のこと、お母さんって呼んでちょうだい」
これは気に入られたのだろうか。
なんだかこうして見ると僕の父と母とまるで変わらない普通の親だ。
まあ、王と王妃という立場上、普通ではいられないのだろうけど。
「お母様、気が早くてよ。私とアルフレド殿下はまだ顔合わせの段階なのよ?」
「あら、そうだったわね。でもいいじゃない。気に入ったわ。もうこの場で結婚しちゃいなさいよ」
「お、お、お、お母様!」
顔を真っ赤に染めるフレデリカ姫の可愛いこと可愛いこと。
っていうか、この王と王妃もなかなか無茶苦茶な人たちだな。
「まあまあ、積もる話はあとにして、まずは食事にしよう」
王の一言で、晩餐が始まった。
※
「え? フレデリカ姫ってさらわれたことがあるんですか?」
豪華な食事を堪能した後、締めのデザートを食べている最中にフレデリカ姫の出自の話になった。
というよりも、なぜ彼女が僕を選んだのか、それを聞きたくて質問したらそんな流れになったのだ。
「うむ。あれはフレデリカが10歳のころだ。西の森の魔女にさらわれてな」
「魔女……?」
「王家の子はいけにえに捧げるのに適しているからな。フレデリカも悪魔のいけにえとしてさらわれてしまったのだ」
そんな恐ろしい体験をしていただなんて……。
チラリとフレデリカ姫に視線を向けると、当の本人はたいして気にしていない様子だった。
見かけによらずタフな女性なのだろうか。
「すぐに討伐隊を派遣して魔女を退治しフレデリカを取り戻したはいいが、魔女の最期の一撃がフレデリカに当たってな。転移魔法でそのまま遠くに飛ばされてしまったのだ」
「遠くに……?」
「その飛ばされた場所というのが、マクドミア王国だ」
「うちの王国だったんですか?」
まさかフレデリカ姫がマクドミア王国にいたなんて知らなかった。
知っていたら大問題だったろうけど。
「転移魔法で飛ばされたフレデリカだったが、すぐに人に拾われてな。しかし拾った相手がこれまた悪い女で家事や仕事を全部フレデリカに押し付けた上、食事もろくに与えず暴力までふるっていたらしい。そうした中、出会ったのがあなただったのだ」
僕は夢で見たあの女の子の姿を思い出した。
もしかしてあの子がフレデリカ姫だったのか?
「娘はあなたからもらったパンが嬉しくて忘れられなかったそうだ。泣いてる時に現れたアルフレド殿下を見て一目で恋に落ちたらしい」
「あの時のアルフレド殿下はキラキラと光り輝いていて、まるでナイトのようでしたわ」
僕は頭をかいた。
別に褒められるようなことじゃない。
そんな事情があったんなら、もっと早く気付いてやるべきだった。
「ほうぼう探してようやくフレデリカにたどり着いた我々は、金を渡して娘を取り戻したというわけだ」
なかなかハードな幼少時代を送っていると思った。
毎日お城でのほほんと暮らしていた僕なんかとは真逆の境遇だ。
僕は初めてフレデリカ姫に尊敬の念を感じた。
「まあ、そんなわけでフレデリカは君にぞっこんなのだよ」
そんな話を聞かされたあとだと、逆に引け目を感じてしまう。
あの時、僕が彼女を救い出してやればもう少し早くこの王と王妃の元へと返してやれたのに。
「娘との結婚、このまま進めてよいよな?」
僕は王に「もう少し考えさせてください」と伝えた。
※
「アルフレド様、そのようなことがあったのですか?」
客室に戻るとジェームズが興味津々といった顔で聞いてきた。
「うん、みんなには内緒にしてたけどね。こっそり城下町に遊びに行った時、確かに一人の女の子と出会ったんだよ」
「まさかその女の子がフレデリカ様だったとは……」
奇妙な偶然というものもあるものだ。
「これはもう、運命だったのかもしれませんぞ?」
「運命?」
「出会うべくして出会った二人。みたいなものです」
「そうかな? だとしたらもうちょっと早くに出会えていれば、あんな過酷な環境に置かれてなくてもよかったと思うのに」
「そうかもしれませんな。ああ、それとアルフレド様」
「なんだ?」
「眠いので寝ます」
「寝ろよ!」
マイペースすぎるぞ、このオヤジ。
ジェームズはふかふかベッドに横たわるとものの数秒で寝息を立てはじめた。
すごい、さすがふかふかベッド。
僕はジェームズが寝たのを見計らうと、窓を開けてテラスに出た。
夜風が冷たくて気持ちいい。
空には満天の星空が輝いている。
マクドミア王国の空も綺麗だったけど、ミア王国の空もとても綺麗だった。
そんな夜空を眺めていると、カタンという音が聞こえた。
振り向くと、そこにはフレデリカ姫の姿があった。
「ひ、姫?」
ビックリした。
まさかこんな夜中にやってくるなんて。
「アルフレド殿下。いてもたってもいられず来てしまいました」
そう言って胸に飛び込んでくる。
甘い香りが鼻腔をくすぐった。
「ちょ、ひ、姫……」
「ああ、殿下。やっと……やっとお会いできた……」
「ちょちょちょ、ちょっと待って!」
フレデリカ姫の肩をつかんでガバっと引き離す。
「あの、えーと、姫……結婚のことなんだけど……」
「お慕いしております、殿下」
「うん、まずは人の話を聞いて!?」
僕の周りにはマイペースな人しかいないのか。
「フレデリカ姫は確かに美しいよ? 僕にはもったいないくらい綺麗だよ? マクドミア王国だってミア王国の庇護を受けられるし……。でもやっぱり結婚は考えさせてほしいんだ」
「どうしてですか?」
「フレデリカ姫の幼少時代の境遇を考えると、僕は相応しくない気がして……」
「……やはり責任を感じてらっしゃるのですか?」
責任というとそうかもしれない。
僕は王子のくせにフレデリカ姫の境遇にまったく気づかなかった。
城下町で出会った女の子と遊ぶのが楽しくて、ボロ衣をまとった彼女を気にしてやれなかった。
「殿下が責任を感じることはございませんよ?」
「でも……やっぱり姫の境遇には気づいてあげるべきだったと思う。僕は、王になれる器じゃない」
「そんなことありませんわ。殿下は他の王にはないものを持っています」
「持っていないもの?」
「優しい心です」
「優しい心?」
「あの時、私のためにパンを買ってきてくれたでしょう?」
「それは……お腹が空いたって泣いてたから」
「身なりの汚い私に構わず遊んでくれたでしょう?」
「それは……僕も遊びたかったから」
優しさからじゃない。
全部自分のためだった気がする。
でもフレデリカ姫は笑みを浮かべて言った。
「それでも、当時の私はとびきりに嬉しかったのです」
「フレデリカ姫……」
「殿下、最後に言った約束、覚えてますか?」
「最後に言った約束?」
「アルくん、大きくなったら私を迎えに来てね」
あれ?
その言葉……。
覚えてる。
確かに覚えてる。
「うん、フゥちゃん。大きくなったら迎えに行くよ」
確かに僕はこう言ったんだ。
でも、次の日にフゥちゃんはパッタリといなくなって。
すっかり忘れていた。
「あの時の約束、果たしてくださいまし」
そう言うフレデリカ姫の顔が、当時の女の子の面影と重なった。
「王族は約束は守らないといけませんわ」
痛いところを突く。
でもその通りだと思った。
王族は一度口にした約束は守らないといけない。
「……本当に僕でいいの?」
「はい、あなたがいいのです」
「ありがとう」
僕はゆっくりともたれかかるフレデリカ姫の肩を抱き寄せた。
空には満天の星がキラキラと輝いている。
マクドミア王国でもきっとこんな星空が輝いていることだろう。
おしまい
最後までお読みくださってありがとうございました。
そして企画参加の許可をくださった長岡様、ありがとうございました!m(__)m