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 フェリシアと婚約してから、サイラスはよく父を訪ねるようになった。アシュフィールド家のパーティー前日も、父に何か相談に来ていた。

 もしかするとフェリシアとデートする回数より、父を訪ねてくる回数のほうが多いかもしれない。


 書斎から出てきたサイラスとばったり鉢合わせし、冗談でそんなことを言うと、サイラスは顔を真っ赤にして「大事な用があるんだっ!」と唾を飛ばした。


「何もわからないくせに、口出しするのはやめてくれ」

「口出しをしたつもりはないわ」


 困惑しながらもフェリシアは言った。


「私と会うよりも、お父様と会うことのほうが多いわねって言っただけじゃない」


 ちょっとした冗談から剣呑な空気になってしまい、フェリシアは心の中でため息を吐いた。


 気分を変えるためにお茶に誘うと、サイラスは気まずそうにしつつも、了承してついてきた。

 居間の扉を開けると、なぜかそこにはメイジーがいた。


「サイラス!」

「え、あ……、メイジーも来てたのか」


 メイジーなら、ほとんど毎日来ている。

 いつも、いつの間にかエアハート邸にいるのだ。


 ほかに行くところがないから、とメイジーは言う。

 自分の家にも居場所がないと言っているが、なぜエアハート侯爵家ならいつでも来て構わなくて、しかもメイジーの居場所があることになるのかはイマイチよくわからなかった。

 

 家の者が何も言わないのは、メイジーはフェリシアに会いに来ていると思っているからだろう。

 フェリシアには、メイジーを招いた記憶も何か約束をした覚えも全くないのだけれど。


「サイラス、明日はトビーたちとどこか行くの?」

 

 勝手に侍女にお茶の支度を命じてから、メイジーがサイラスに質問する。


「トビーたちと? どうして?」

「だって、明日はフェリシアとのデートがないでしょ? どうするのかなぁと思って……」


 サイラスは特に何も考えていなかったようだが、パーティーのことを思い出したらしく、やや不機嫌になった。

 フェリシアを振り向いて、嘆くように言った。


「結局、フェリシアは、バーニーの家のパーティーに行くつもりなんだね」

「前から決まっていたことよ。それに、お父様にも頼まれてるの」

「エアハート侯爵に……。だったら、仕方ないけど……」


 別に、そうじゃなくても行くけど。


 心の中で思ったけれど、一応、黙っていた。


 バーニーはサイラスが言うような人ではないが、今のサイラスにとっては面白くない相手なのだ。

 バーニーの人柄については、いずれわかる日が来るだろうから、それまでは、嘘を吐くことまではしないけれど、わざわざ不快にさせるようなことを言う必要はないと思った。

 

 フェリシアなりにサイラスの気持ちを考えたつもりだった。

 ところが……。


「フェリシア……、少しは、サイラスの気持ちも考えてあげて……」


 メイジーは、責めるような口調で言った。

 そして、「私は絶対に行かないわ」と言って、挑むようにフェリシアを睨んだ。


 いや、行かないも何も、あなた、招待されてないよね。

 前回のデートの時にも思ったことを、頭の中で繰り返す。


 というか、あの後もメイジーは、なんとかしてアシュフィールド家のパーティーに呼んでもらえないかと、フェリシアに三回は頼んできた。

 父の仕事関係のパーティーだから無理だと言って諦めさせたのだ。


 なのに、いったい何を考えてるんだ?


 脳内を疑問符でいっぱいにしていると、メイジーはサイラスのほうに大きく身を乗り出した。

 地味で大人しい印象が強いメイジーなのだが、時々、妙に動きが大きいことがあって、ビックリする。 


「サイラス、だったら私たちは私たちでパーティーを開かない?」

「え……? パ、パーティー?」

「トビーとニールとあなたと私で……」


 あまりに唐突な申し出にサイラスも面食らっている。

 引きつった笑いを浮かべるサイラスを見て、メイジーは、これまた唐突に肩を落としてうなだれた。


「嫌なら、いいけど……」


 小さい目をパチパチ瞬かせ、無理に涙目を作ってサイラスを見上げる。


「私……、お休みの日に一人じゃ寂しいなって……、ちょっと、思っただけなの……」


 サイラスは、引きつった顔のまま、不用意にも「別に、嫌ってわけじゃ……」と言ってしまう。


 パッと顔を輝かせ、再び身を乗り出すメイジーを見て、フェリシアは乾いた笑いを浮かべるしかなかった。


たくさんの小説の中からこのお話をお読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ここまで読んで、メイジーにイラッとしてしまいました。しばらくこのフラストレーションは続くんでしょうね。 イライラしながらも、いずれ来るスカッとのために続きを楽しみにお待ちします。
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