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「離婚ですって?」


 フェリシアの母、クリスティーナ・エアハートが青い目を見開いて聞き返す。

 叔父のバーナード卿は肩を落として頷いた。


 突然、メイジーの母であるダフニーが離婚したいと言ってきたらしい。ほとんど押し切るようにしてゴダード家の後妻に入り、意地でも出ていかないと頑張っていたのに、どういうことだろう。

 叔父にもさっぱりわからないらしかった。


 しょんぼりとうつむく叔父に、母はただ「よかったじゃない」と言って笑った。


「あなたは人がいいから、押しの強さに負けて結婚してしまっただけでしょう? 家同士の複雑な事情があるわけでもないし、愛情だってないのと同じなんですもの。いい機会だから別れたらいいわよ」


 慰謝料とメイジーの持参金を要求されたと聞いて眉を吊り上げつつ、それで縁が切れるなら、この際出してしまったほうがいいと言い切る。


「あの人たちとは縁を切るべきよ」


 数年間、仮にも妻と娘として暮らした相手だから、元々人のいい叔父には寂しさもあるだろう。けれど、母だけでなく父もフェリシアも、ローズマリーまでもが同じ意見だった。


 いつまたダフニーの気が変わるかわからない。

 せっかくの機会を逃してはいけない。

 すっきりさっぱり縁を切ろう。


 エアハート家総出で背中を押すと、バーナード・ゴダード男爵はようやく心を決めたらしく、王室に出すことになっている離婚報告書類にサインをした。父が預かり、提出することになった。


「それで、ダフニーとメイジーはどこへ行くつもりなんだ」

「とりあえず、ヘイマー侯爵家に身を寄せるつもりだと言っている」

「ヘイマー家に……?」


 エアハート家の面々は、一斉に眉間に皺を寄せた。


「メイジーが嫁ぐことは決まっているらしいから、なんとかなるんじゃないかな」


 そうだろうか。

 あのヘイマー家にメイジーが嫁いだところで、いったい何になるのだろう。


 だが、いずれにしても、もう関係のない人たちだ。


「一刻も早く、これを提出したほうがいいようだな」


 エアハート侯爵はソファから腰を上げ、執事に命じて馬車の用意をさせる。そして「ちょっとひとっ走り王宮まで行ってくる」と言い残し、さっと居間から出ていった。


「お昼には戻るでしょうから、お祝いでもしましょうか」

「姉上、お祝いというのは……」

「あら、ごめんなさい。ちょっと言い過ぎたわね。だったら、バーナード、あなたを慰める会にしましょう。アグネスも呼んで、お庭でパーティーを開くわよ」


 ローズマリーが「私が迎えに行くわ」と言って立ち上がる。バーサを呼んで「ゴダード家まで行きたいの。馬車をお願い」と頼んだ。


 はっきり言って、みんな大喜びだ。

 それを隠そうともしない。


 バーナード卿は複雑な笑みを浮かべて、エアハート家の人々を見回していた。


(叔父様……)


 フェリシアは黙って叔父の隣に腰を下ろし、膝に置かれた手に自分の手を重ねた。叔父が顔を向けて、ほっとしたように笑う。


「フェリシア……」

「残念だけど、仕方ないわ、叔父様。きっとまたいいことがあるわよ」

「ありがとう。メイジーがずいぶん世話をかけたようだ。今まで、本当にありがとう」


 最後は冷たくしてしまったけど……。

 叔父の気持ちを思うと、少しだけ後ろめたくなった。


「サイラスと、うまくやっていけるといいわね」


 皮肉や意地悪からでなく、自然と言葉が零れ落ちた。


 何かを許せたわけではないし、これからもメイジーのことは好きにはなれないだろう。サイラスのことも……。

 でも、だからと言って二人が不幸になればいいとも思わない。


 どうでもいい、という気持ちの奥に、知らないところでそれなりにやっていってくれればいいと願う気持ちがあった。

 そんな気持ちが自分の中にあることに気づいて、なぜかフェリシアはほっとした。


 そして、その安堵の中に、また詩が書けるかもしれないという光を見た気がした。 


たくさんの小説の中からこのお話をお読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >そして、その安堵の中に、また詩が書けるかもしれないという光を見た気がした。  この文章に私もなんだかすごくホッとして嬉しくなりました。
[良い点] 作品が書けなくなる、ということが心情的によく分からなかったのですが、書けるようになりそうな希望が見えたこの回で少し共感できた気がします [気になる点] この先メイジー親子がまた縋ってきそう…
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