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 フェリシア自身はサイラスとの婚約解消については何とも思っていなかった。

 得意になって鼻を膨らませているメイジーを見ても、なんだかなぁと心の中でため息を吐くだけだ。


 メイジーはずいぶん気分をよくしているようだけれど、大丈夫なのだろうか。

 そんなことさえ、冷静に考える。


 ヘイマー家の財政は火の車だと父から聞いている。なのに、贅沢をやめる気も自分たちで考えて収入の道を増やす気もないらしいから、援助はできないのだとも。

 だから、フェリシアがサイラスをなんとも思っていないのなら、喜んで今回の話を白紙にしようと父は言ったのだ。

 下手に親戚にならずに済んでよかったとも言っていた。


 母の弟でありフェリシアには叔父にあたるゴダード男爵は、優しい穏やかな人だが、やや押しに弱いところがある。

 真面目に事業に取り組んでいるので資産はそれなりにあるのだが、メイジーの母親と再婚してから彼女の尻に敷かれっぱなしだと母が時々嘆いていた。


「ダフニーはよくわからない人だから、心配よ。ゴダード家の財産がアグネスのものになっていてよかったわ。バーナードの名義になっていたら、今頃全部あの人に盗られていたかもしれないもの」


 ダフニーというのはメイジーの母親の名前だ。バーナードは叔父のゴダード男爵のことである。

 叔父は婿養子だったので、前の男爵夫人が亡くなった時、財産は全て、彼女が産んだアグネスが相続した。叔父はアグネスの後見人として男爵の地位にあるが、その爵位の継承権も、叔父の子ども全てにあるわけではない。

 次期男爵はアグネスの夫になる人と最初から決まっている。


 後妻の連れ子であるメイジーには、財産も地位も一切与えられない。

 嫁ぎ先に応じて、一定額の持参金くらいは持たせるだろうが、財産と呼べるほどの額にはならないだろう。


 お金のことが全てではないだろうが、お金のためにフェリシアの婿養子になろうとしていたサイラスと、男爵家を出れば一文無しに等しいメイジーとが結婚したとして、どうやって生きていくつもりだろう。

 他人事ながら心配になるではないかと苦笑する。


(まあ、どうでもいいけど……)

 

 所詮は他人事。

 一応、親戚なので、全くの他人とは言えないけれど。

 

 ただ、エアハート家とつながりがあるのは、やはり叔父のゴダード男爵とその血を継いでいるアグネスだけなのだという気持ちがエアハート家にはあった。

 叔父の新しい家族を受け入れられないというわけではなく、その新しい家族があまりに胡散臭いために、受け入れる気になれないのだ。


 なんというか、感覚的に合わない。

 もっと、「ふつう」の人たちなら仲よくできたと思っている。

 実際、最初のうちは母はフェリシアに「従姉妹になったのだから、メイジーと仲よくしなさい」と言っていたのだし……。


 感覚的に合わないという時の「感覚」を説明するのは難しい。

 ふつうはそんなことしないだろうと思う時の「ふつう」も説明しづらい。


 美意識と言うと、なんだかお高くとまって聞こえるかもしれないが、結局はそういう言い方でしか表現できない部分なのかもしれない。

 あさましく自分の欲のままに人に寄りかかる生き方には誇りもないし、美しさの欠片もない。そのことに、かすかな嫌悪感を抱くのだ。


 フェリシアはできるだけ美しい生き方をしたいと思うし、美しい生き方をしたいと願っている人が好きなのだと思う。

 人の都合などお構いなしに、自分さえよければいいと思うような生き方をしたくないし、そばにそういう人がいると「うわぁ……」と思ってしまう。


 たとえ貧しくても心は美しく。

 理想ではそう思っている。


 今のように経済的にも社会的にも恵まれた立場にいるならなおさら努力するべきだと思っている。

 それは、父も母も妹のローズマリーも同じだろう。

 

 叔父も。


 その叔父は何やら蚊帳の外に置かれたままらしかった。

 

 メイジーとサイラスの婚約は、先に本人同士から話が出て、男爵夫人とヘイマー家の間で進められたようだ。

 そのやり方もあまりに常識外れで呆れるばかりだが、結局、そのせいで彼らはわかっていないのではないだろうか。


 侍女のカーラと一緒に屋敷への道のりを歩きながら、フェリシアは思った。


 メイジーには爵位の継承権も財産も全くないということをヘイマー家は知らないし、ヘイマー家が困窮していることをメイジーとその母親は知らないのではないだろうかと。




たくさんの小説の中からこのお話をお読みいただきありがとうございます。

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