表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/48

(19)

 その日の帰り道、フェリシアは侍女と二人で王都の貴族街を歩いていた。

 メイジーがついてこないだけで、なぜかとても晴れやかな気持ちだった。

 

(本当に、私、自分で思ってたより、メイジーのことが好きじゃなかったのね……)


 ひどい嫌がらせをされたり、あきらかな悪意を向けられたりしたわけではない。

 なのに、なぜこんなに嫌いなのだろう。


 人に聞かれても絶対にうまく説明できない。

 詩の内容や、おすすめの店をパクられたからなどと言っても、きっと誰も理解しないだろう。

 けれど、もう、それでいいと思った。


 メイジーは今日、フェリシアやレイチェルとあまり親しくないクラスメイトに、自分はいじめられている、そのことが悲しいと話していたようだ。

 少し前のフェリシアなら、メイジーを嫌ってしまう自分に後ろめたさを感じたと思う。

 レイチェルやキャシー、ブリトニーと一緒になって、メイジーを仲間外れにした自分を恥じたかもしれない。


 けれど、今日は、それもどうでもいいと思った。


「ちょっと、カフェで休んでいきましょうか」


 年の近い侍女のカーラに声をかけた。

 カーラは嬉しそうに頷いた。


 思えば、このカーラもメイジーのせいで割を食っていた一人だ。

 メイジーがついてくると、貴族の令嬢であるメイジーとフェリシアだけがテーブルに着く。

 カーラは店の外で待機だ。


 メイジーがいなければ、フェリシアが一人にならないようにカーラが同席する。

 今もそうだ。


「好きなものを頼みなさい」


 カーラにメニューを渡して、フェリシアは店内を見回した。

 ふだんは窓側の明るい席に案内されることが多いが、今日は侍女と二人ということもあり、店の奥の目立たない席に座っていた。

 ほとんどの席から死角になる場所だった。


 カーラに視線を戻した時、店のドアが開いて大きな声の集団が入ってきた。

 中央付近の席に案内されてきた彼らを、フェリシアはなんとなく肩越しに振りかえってチラリと見た。


「え……?」


 サイラスたちだった。

 トビーとニール、そしてメイジーが一緒にいる。


 衝立に遮られて、すぐに姿は見えなくなった。

 けれど、案外席が近いようで声は聞こえてきた。

 やや大きな声だったこともあり、わざわざ聞き耳を立てるまでもなく、会話の大半が聞き取れてしまった。 


「一人も、友だちを誘えなかったって、マジで……?」


 トビーの声だった。

 メイジーが何かもごもご言ったようだが、それはよく聞き取れなかった。

 

「誰も仲よくしてくれないって、どういうこと?」


 ニールが聞き、メイジーがまた何か言う。

 サイラスの声がそれに続いた。


「なるほどな。フェリシアのやりそうなことだ。要するに、レイチェルたちとつるんで、メイジーを仲間はずれにしたってことか」

「本当に……、なんで、あんなひどいことするのか……、私、わからなくて……」


 今度はメイジーの声も聞こえた。


「本当は、ずっと……、意地悪されてたの……。いつも、自分たちだけで、楽しいことをやろうとして……、私だけ誘ってくれなくて……」

「わかるよ。僕にも、メイジーとは付き合うなとか言ってきたしな」


 カーラが気づいて眉を顰める。

 フェリシアは「しー」っと唇の前に指を立てた。


 もともとフェリシアだけが誘われた集まりに、しょっちゅう「自分も行っていいか」と割り込んできたのはメイジーだ。

 メイジーの言い分には耳を疑った。

 それに、メイジーは結局、どこにでもついてきたではないか。なにしろデートにまで毎回ついてきた。

 

 だが、サイラスの答えにもビックリである。


 フェリシアは自分はメイジーと距離を置くとは言ったが、サイラスに向かって、サイラスもメイジーと付き合うなとまでは言っていない。

 言ってはいないが、婚約者である自分を抜きにして、その従姉妹であるメイジーと会っている意味も、ちょっとよくわからない。


「サイラス、フェリシアの言うことを聞かなくて大丈夫かい?」

「婚約者を怒らせるとヤバいんじゃないか?」


 笑いながらトビーとニールが言った。


「構うもんか。だいたいフェリシアは、勝手なんだよ。バーニーとは付き合うなって、僕が言った時は聞く耳を持たなかったくせに、自分がメイジーを嫌いになったからって、僕にそんなことを命令するんだから」

「そうよね……。フェリシアこそ、どうしてバーニーの味方をするのかしら……。サイラスの気持ちを考えないのかな……」

「本当だよ。あんな女、本当は僕の婚約者にはふさわしくないんじゃないかな」

「私も……、そう思うわ……。だって、ちっとも、サイラスに寄り添ってないんですもの……」


 自分はサイラスの味方だとメイジーは繰り返す。


「全くだよ。メイジーのほうが、よほど僕のことを考えてくれてる。僕がこうしてメイジーに会うのは、フェリシアが至らない婚約者だからさ」


 サイラスはすっかり調子に乗っていた。


「よし、決めた。婚約破棄だ!」

「マジか!」

「冗談だろ!」


 わはははは、と四人分の笑い声が響いてきた。

 メイジーも笑っていた。


 真っ青になったカーラがおろおろするのを横目に見ながら、フェリシアはすっと椅子から立ち上がった。




たくさんの小説の中からこのお話をお読みいただきありがとうございます。

下にある★ボタンやブックマークで評価していただけると嬉しいです。

どうぞよろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ