(18)
翌日から、フェリシアはメイジーと離れて過ごした。
教室に着くとすぐにレイチェルたちと合流して、メイジーが近づいてくると揃って場所を移動した。
事情をよく知らない友人たちに、「なんだか避けられているみたい……」とメイジーが悲しそうに話すのが聞こえたけれど、一切反応しなかった。
レイチェルは完全にメイジーを敵視していた。
「言いたいように言わせておけばいいわ。そのうち全部、明るみに出る時が来るんだから」
キャシーとブリトニーも思い出したように言う。
「前から思ってたんだけど、メイジーがみんなに教えてるお店や本って、全部、フェリシアの受け売りでしょ?」
「私たちと行ったことがあるお店のことも、メイジーは自分で見つけたみたいに言ってたわね」
みんなの前でわざわざ言うことでもないと思って黙っていたが、いつも気にはなっていたのだと言う。
「ああいう時って、ふつうは、フェリシアに教えてもらったって言うと思うのよね」
「ちょっとしたことだけど、なんだかモヤッとしたわ」
レイチェルが鼻を鳴らす。
「だいたい、メイジーは図々しいのよ。誰も誘ってないのに、すぐ、『私も行っていい?』って聞いてくるし。今だってあんなふうに、弱い立場の人みたいに振る舞ってるけど、メイジーは根っこのところが本当に図々しいと思う。だから、平気で人の書いたものを盗めるんだわ。根性が卑しいのよ」
吐き捨てるように言ってから、ふいに眉を寄せて「フェリシア、ごめん」と謝る。
従姉妹なのに、と。
フェリシアは首を振った。
自分も同じ詩の中でメイジーに模倣されていたのだと、三人に言う。
キャシーとブリトニーだけでなく、レイチェルも驚いたようにフェリシアを見た。
「ほかのところもよく書けているところがあると思ったら、そういうことだったのね」
レイチェルの眉間に皺が刻まれる。
「メイジーの詩は、すごく陳腐なところと妙に上手く書けているところが混じってたわ。その理由がはっきりわかった」
フェリシアは三人の顔を見ながら言った。
「でも、誰のどの詩を真似したかまでは、ほかの人が見たんじゃわからないのよ。言われるまで、私の詩と似てるなんて思わなかったでしょ? 気づくのは、たぶん、やられた本人だけだと思う」
三人が真顔で頷く。
レイチェルが言った。
「だったら、ほかでも、いろんな人の詩を真似して書いてるかもしれないわね」
少しずつ細部を変えてあるから、盗作だと証明することは難しい。
他人が見ても「言われてみれば、似ているかもしれない」と思うだけだろう。
その程度の模倣では、騒いだところでメイジーが罪に問われることもないだろうし、まわりが気に留めることもない。
騒げば逆に、騒ぐ側が「自意識過剰」だと笑われる可能性が高いくらいだ。
「だからって、許されていいことなの?」
創作の模倣というのは、する側は軽い気持ちでしただけでも、される側は大きなダメージを受ける。
自分の内面から湧き出た創作物は、意識していなくても、やはり自分の一部なのだ。
それを他者が我が物顔で扱っている気持ち悪さは、されてみると本当にひどいものだった。
「メイジーに盗ませるために書いたんじゃないわ」
レイチェルが悔しそうに顔を歪めた。
「また盗まれるかもしれないと思うと、詩を書くの嫌になるのよ。もう二度と、今までみたいに、ただ楽しく書くなんてできないと思う」
「わかるわ」
フェリシアも同じ気持ちだった。
創作物を盗むことの最も大きな罪は、美しいものを作りたいと願う純粋な歓びを奪うことだと思った。
踏みにじられた心は、二度と元に戻らない。
何かを書こうとするたびに「盗まれた」という思いが頭の隅を掠めて、黒い靄が創作の歓びに影を落とす。
「私も、詩を書く楽しさが、どこかに消えてしまったわ」
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