表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/48

(16)

「フェリシア、どうしたんだい?」


 自宅の居間で考えこんでいると、父の書斎から出てきたサイラスが声をかけてきた。


 フェリシアは自分の心の中にあるモヤモヤを誰かに聞いてほしかった。

 サイラスに理解できるだろうかという不安が心のどこかにあったのに、それに気づかないふりをして話し始めてしまった。


「メイジーのことで、ちょっと……」

「メイジー? また何かしたのかい?」

「またって……?」

「ああ、いや……。ほら、デートについてきたりして、ちょっとあの子のことは、面白くないと思ってるんじゃないかと思って」

「それは……、まあ、そうだけど……」


 最初から負のバイアスをかけられたようで、なんだか少し話しにくくなる。


 名前を出してしまったことを悔やんだ。

 悪口になるかもしれない話をする時には、その人の名前は出さないほうがいい。いつもそう思っているのに、つい口にしてしまった。


 けれど、考えてみると、そうしてしまった背景には、サイラスが言うようにメイジーへの不満がフェリシアの中に溜まっていたからかもしれない。


 自分で思っているよりも、ずっと。


 そう思い始めると、すごくそんな気がしてきた。

 フェリシアはメイジーのことがずっと不満で、嫌いだったのではないか。


 気づいてしまうと、それはどんどん明確なものになっていった。


(私、メイジーが嫌いなんだわ……)


 一見控えめに見せかけた図々しさが。

 人のものを平気で盗む卑しさが。


 なぜ、あんな子とずっと一緒にいたのだろうとさえ思い始める。

 いくら従姉妹でも、そばにいれば利用されるばかりだと知っていたはずなのに。


 フェリシアが見つけた店も本も、今までもずっと、自分が見つけたかのようにメイジーはみんなに教えて得意になっていた。

 そのことに気づいていたのに。

 そんな小さいこと、わざわざ言うようなことではないと思って、目を瞑ってきた。


 けれど、根っこのところは同じだったのだ。


「メイジーが、私の詩を盗んだの」


 フェリシアの口からするりと言葉が滑り落ちた。


「え……?」

「ある新聞に投稿した詩の中に、私が書いたのとそっくりな場面と表現が出てくるのを見たの。すごく、気持ち悪かった」

「そ、そうなんだ……」


 サイラスは、一応驚いてみせた。

 

「私、メイジーとは距離を置くわ。もう、デートにもついてこさせない。今まで、邪魔させちゃって、ごめんなさい」

「いや。別に、いいよ。なんだかんだ言って、メイジーとも、すっかり知り合いになっちゃったし……」

「そう……? まあ、そうね」


 思えば、サイラスはあまりメイジーのことを迷惑がっていなかった。

 図々しく仲間に入ってこられても、ほかの友人たちほど困惑することもなく、すんなり受け入れていた。


 なぜだろう。


 フェリシアの疑問にはサイラスが答えた。


「なにしろ、最初からだったからね。初めのうちこそビックリしたし、引いたけど、今じゃ、なんだかふつうに思えてきたよ」

「そうね。確かに……」

「きみの従姉妹なんだし、僕にとっても親戚になる子だ。仲よくしておいたって、別にいいんじゃないかな」


 あはは、と笑うサイラスに、フェリシアはなぜか苛立ちを覚えた。


「でも、私は、メイジーとは距離を置くことにしたから」

「ああ、うん。わかった。そうしたらいいと思うよ」


 まるで、自分はこれからもメイジーと仲よくするつもりだけどね、と言わんばかりの言い方だった。

 どこか満足そうに笑う意味がわからなかった。


 誰かに聞いてほしくて話したのに、なんだか逆に胸のつかえが大きくなった気がした。

たくさんの小説の中からこのお話をお読みいただきありがとうございます。

下にある★ボタンやブックマークで評価していただけると嬉しいです。

どうぞよろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ