(16)
「フェリシア、どうしたんだい?」
自宅の居間で考えこんでいると、父の書斎から出てきたサイラスが声をかけてきた。
フェリシアは自分の心の中にあるモヤモヤを誰かに聞いてほしかった。
サイラスに理解できるだろうかという不安が心のどこかにあったのに、それに気づかないふりをして話し始めてしまった。
「メイジーのことで、ちょっと……」
「メイジー? また何かしたのかい?」
「またって……?」
「ああ、いや……。ほら、デートについてきたりして、ちょっとあの子のことは、面白くないと思ってるんじゃないかと思って」
「それは……、まあ、そうだけど……」
最初から負のバイアスをかけられたようで、なんだか少し話しにくくなる。
名前を出してしまったことを悔やんだ。
悪口になるかもしれない話をする時には、その人の名前は出さないほうがいい。いつもそう思っているのに、つい口にしてしまった。
けれど、考えてみると、そうしてしまった背景には、サイラスが言うようにメイジーへの不満がフェリシアの中に溜まっていたからかもしれない。
自分で思っているよりも、ずっと。
そう思い始めると、すごくそんな気がしてきた。
フェリシアはメイジーのことがずっと不満で、嫌いだったのではないか。
気づいてしまうと、それはどんどん明確なものになっていった。
(私、メイジーが嫌いなんだわ……)
一見控えめに見せかけた図々しさが。
人のものを平気で盗む卑しさが。
なぜ、あんな子とずっと一緒にいたのだろうとさえ思い始める。
いくら従姉妹でも、そばにいれば利用されるばかりだと知っていたはずなのに。
フェリシアが見つけた店も本も、今までもずっと、自分が見つけたかのようにメイジーはみんなに教えて得意になっていた。
そのことに気づいていたのに。
そんな小さいこと、わざわざ言うようなことではないと思って、目を瞑ってきた。
けれど、根っこのところは同じだったのだ。
「メイジーが、私の詩を盗んだの」
フェリシアの口からするりと言葉が滑り落ちた。
「え……?」
「ある新聞に投稿した詩の中に、私が書いたのとそっくりな場面と表現が出てくるのを見たの。すごく、気持ち悪かった」
「そ、そうなんだ……」
サイラスは、一応驚いてみせた。
「私、メイジーとは距離を置くわ。もう、デートにもついてこさせない。今まで、邪魔させちゃって、ごめんなさい」
「いや。別に、いいよ。なんだかんだ言って、メイジーとも、すっかり知り合いになっちゃったし……」
「そう……? まあ、そうね」
思えば、サイラスはあまりメイジーのことを迷惑がっていなかった。
図々しく仲間に入ってこられても、ほかの友人たちほど困惑することもなく、すんなり受け入れていた。
なぜだろう。
フェリシアの疑問にはサイラスが答えた。
「なにしろ、最初からだったからね。初めのうちこそビックリしたし、引いたけど、今じゃ、なんだかふつうに思えてきたよ」
「そうね。確かに……」
「きみの従姉妹なんだし、僕にとっても親戚になる子だ。仲よくしておいたって、別にいいんじゃないかな」
あはは、と笑うサイラスに、フェリシアはなぜか苛立ちを覚えた。
「でも、私は、メイジーとは距離を置くことにしたから」
「ああ、うん。わかった。そうしたらいいと思うよ」
まるで、自分はこれからもメイジーと仲よくするつもりだけどね、と言わんばかりの言い方だった。
どこか満足そうに笑う意味がわからなかった。
誰かに聞いてほしくて話したのに、なんだか逆に胸のつかえが大きくなった気がした。
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