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 バーニー・アシュフィールドが王立騎士団に入ってきた時、サイラスはわりと目をかけてやっていた。

 人懐こい性格のバーニーに剣の腕を褒められて、悪い気がしなかったからだ。


 ところがある日、サイラスがせっかく声をかけてやったのに、バーニーはたいして嬉しそうな顔をしなかった。


「バーニー、少し剣の相手をしてやろうか」

「ああ、えーと……。ありがとうございます」


 口ではそう言いながら、仲がいいと噂のケヴィン殿下を振り返り、肩をすくめてにやりと笑ったのだ。

 まるで、ケヴィンが相手をしてくれるからいいのにと、そう言わんばかりの態度だった。


 サイラスはムッとして「別に必要ないなら断ってくれて構わない」と言った。

 バーニーはあっさりと「それでは、また今度」と言い、ケヴィンと顔を見合わせてにやにや笑っていた。


 その時から、サイラスはバーニーのことが気にくわなくなった。

 トビーとニールにも「バーニーは生意気だ」と話すようになった。二人は同じ意見だった。


「入団したばかりのくせに、態度がでかいよな」

「ちょっと、調子に乗りすぎじゃないか?」


 その年の秋の剣技大会で、サイラスとケヴィンが当たり、ケヴィンが勝つとバーニーは大声で「やったー!」と叫び、みんなを巻き込んでケヴィンを讃えた。

 サイラスのそばにはトビーとニールしか来なかった。


「なんだい、一回、勝ったくらいで」


 大声で盛り上がるバーニーの声を聞きながらケヴィンのまわりの人垣に背を向けた。

 トビーとニールが「何、次はサイラスが勝つさ」と言って励ましてくれた。


 しかし、春の大会でも年度末の初夏の御前試合でも、サイラスはケヴィンに敗れた。


 トビーとニールと昼休憩を取りながら、「残念だったな」と話していると、通りかかったバーニーは偉そうにアドバイスをし始めた。


「サイラスは構えが大きすぎるんだよ。見た目は派手でカッコいいけど、あれじゃあ、隙がありすぎだ」

「バーニー、年下のくせに生意気だぞ」


 トビーが睨む。

 バーニーは「ええっ?」と大袈裟に驚いた。


 それから、なぜか肩をすくめて、何も言わずに行ってしまった。


「なんなんだよ、あいつ……」

「ホント、腹が立つよな」

「アシュフィールド伯爵家の嫡男だからって、のほほんとしやがって」


 トビーとニールがバーニーを面白く思わないのは、家柄のせいもある。

 どちらも子爵家の次男である二人は、王立騎士団で働いたあとは、軍隊に志願するか、国の行政機関に職を得なくてはならない。

 近衛兵に近い位置づけの騎士団は、おおむね二十五歳くらいまでには退団するのが習わしだ。


 将来の心配がない大貴族の嫡男は羨望と嫉妬の対象になりやすかった。

 

 二人がサイラスにくっついているのも、万が一、働き口が見つからなかった時にヘイマー侯爵家の領地のどこかで職を世話してもらえるかもしれないと考えているからだ。

 あいにく、サイラスにその権限はなかったし、あってもヘイマー家にはそんな余裕もなかったが、わざわざそんなことを教えてやるつもりはなかった。


 そんなさまざまな事情が絡み合って、三人はバーニーを嫌っていた。


 サイラスは、自分がバーニーを疎ましく思っていることを何度かフェリシアにも伝えた。

 けれど、フェリシアは少しも気にすることなく、バーニーと付き合い続けている。

 エアハート家の事業にはアシュフィールド家が関係しているらしいが、サイラスが侯爵家を継いだら、縁を切りたいと思っているくらいなのに。


 何度言っても聞く耳を持たないフェリシアに、サイラスは内心苛立ちを覚えていた。


(メイジーにだって理解できることが、どうしてフェリシアにはわからないんだ)


 メイジーはよくわかっている。

 サイラスたちにとってバーニーが面白くない存在だと知ると、すぐに自分はサイラスの味方だと態度で示してきた。

 

 近しい人間なら、ああいう態度を取るのが当然ではないか。

 自分側の人間だと示せないなら、フェリシアとも、もう……。


 サイラスは首を振った。

 終わりにできればいいのだが、そうはいかない。


(別れることはできない。フェリシアと結婚することは、ヘイマー家にとって必要なことなんだ)


 家のために自分を犠牲にすることなど、貴族の世界では当たり前のことだ。

 なんで自分が婿養子になど行かねばならないのかと腹が立ったこともある。

 だが、その不満もなんとか乗り越えた。


(僕が、嫌々結婚に応じていると知ったら、フェリシアはどう思うだろうな)


 そう思うと、少しばかり笑みがこぼれた。


 小賢しくて、なんでも自分が正しいと思っている婚約者のすました顔を思いだし、サイラスは意地の悪い満足感を抱いた。 


 


たくさんの小説の中からこのお話をお読みいただきありがとうございます。

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