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 第一令息であるサイラスがエアハート侯爵家に婿入りすることになった背景には、ヘイマー侯爵家の借金問題が関係していた。

 家柄という点では釣り合いの取れた両家だが、経済面ではだいぶ事情が違っていたのだ。


 そのことをフェリシアが知ったのは最近のことだ。

 バーニーに「よく婿養子になんてなってくれたな」と言われた後、確かに、あのプライドの高いサイラスがよく了承したものだと思い、父にきいてみた。


「フェリシアは何も心配しなくていいんだよ。サイラスを我が家に迎えることと、ヘイマー家への援助は別問題だからね」

 

 父はそう言ったが、そんなはずがないことくらいフェリシアにもわかった。


 エアハート家にはフェリシアとローズマリーという姉妹しかいないので、どちらかに婿養子を取る必要があった。

 逆にヘイマー家には、サイラスの下に十六歳と十四歳の弟がいて、三人の息子のうち、二人はどこかに養子に出さなければならない。


 それが長男のサイラスになったことは想定外だったかもしれないが、エアハート家と親戚関係になって援助を得るために、ヘイマー家のほうで折れたのだろうと想像できた。


 フェリシアに会った時、サイラスはとても嬉しそうに笑った。


「きみみたいな人を妻に迎えられるなんて、僕はなんて幸せなんだろう」


 そんな言葉までくれた。

 だからフェリシアも、この結婚は素晴らしいものだと思うことができた。

 

 すべてのことが理想的に調っているうえに、お互いの間にも好意があるというのは、貴族の結婚においては珍しいことかもしれない。

 お金のことや事業のこと、家と家との力関係や結びつき、いろいろなことが絡んだ政略結婚ばかりなのだから。

 中には少しも好みではない男性に嫁ぐ友だちもいる。


 若くて、そこそこイケメンで、剣の腕もある上に侯爵家の第一令息であるサイラスを射止めたフェリシアは、友人たちの間でも羨望の的だった。

 ただ、ふつうなら羨ましがられる「侯爵家の第一令息」という立場、つまり家督や領地や財産を継ぐ立場にある人物であることは、フェリシアの場合には、あまり重要ではなかったけれど。


 学園の友人たちには、サイラスが婿養子に入ることまでは言っていなかった。


 たぶん、メイジーも知らない。

 言っていないから。


 バーニーが知っていたのは、アシュフィールド家が父の事業提携者で、家を継ぐのが誰かということが重要だからだろう。


 ヘイマー家に借金があっても、フェリシアの結婚にはそんなに関係はないという父の言葉は本当だと思う。

 サイラスはいつもフェリシアに優しいし、不満を持つのは贅沢と言うものだ。

 時々、サイラスの物言いに気になる点はあっても、全体的なことを考えたら、やはりフェリシアは恵まれているのだから。


 公園のボート遊びから帰ったフェリシアはそう自分に言い聞かせた。

 フェリシアくらい幸せな結婚ができる娘はそう多くはない。

 メイジーが毎回デートに割り込んできても、サイラスがちょっと嫌な言葉を口にすることがあっても、いちいち目くじらを立てるべきではない。


 そう言い聞かせた。


 そんな小さな我慢の糸がプッツリ切れる出来事に遭遇したのは、それから数日後のことだった。

たくさんの小説の中からこのお話をお読みいただきありがとうございます。

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[一言] いよいよ次回事件が? 続きが気になるところです!
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