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「いつも、ごめんね……」


 メイジー・ゴダードは口では申し訳なさそうに謝りながら、どこかうきうきとした気配を漂わせて笑みを浮かべた。


「せっかくのデートなのに……、邪魔してないといいんだけど……」

「いいんだよ、メイジー。気にしないで」


 サイラス・ヘイマーがメイジーににっこり笑いかける。


「ね、フェリシア」


 笑顔のまま振り向かれて、フェリシアは顔に笑みを貼り付かせて頷いた。


 サイラスはフェリシアの婚約者だ。

 三月に婚約が調ったばかりで、五月の終わりの今日は十一回目のデートである。


 フェリシアの実家であるエアハート侯爵家とサイラスのヘイマー侯爵家は家格も釣り合い、今年、学園を卒業する十八歳のフェリシアに、王室騎士団で修行を積んでいる二十二歳のサイラスは、年齢的にもちょうどいいと、とんとん拍子で話がまとまった。


 鳶色の瞳と濃い茶褐色の髪を持つサイラスは、わりとハンサムな部類に入る。

 プラチナブロンドに青い目を持つフェリシアとは、見た目にも、とてもお似合いだとみんなが褒めた。


 周囲からのあたたかい祝福。

 お互いに特に嫌なところがあるわけでもなく、むしろ気が合って、この調子でいけば穏やかで幸せな家庭を築けるだろうと、まわりはもちろん、自分たちも結婚を楽しみにしていた。


 順風満帆、まさに幸福の絶頂にあるはずだったが、一つだけ気になることがあった。

 メイジーの存在である。


 過去十回のデートに、メイジーはもれなくついてきた。

 十一回目の今日も、同様だった。


 エアハート侯爵家の馬車で、王都に近いハンティントン郡の湖まで遠出をしようと決めたのは木曜日のこと。

 湖のほとりにシートを広げてピクニックをしようと、父に用事があって屋敷を訪ねてきたサイラスと、居間で相談していた。

 すると、なぜかメイジーが現れて「一緒に行ってもいいか」と聞いてきた。

 

 メイジーはフェリシアの従姉妹なので、サイラスさえよければ、と暗黙の問いを投げる。

 サイラスは「もちろん、いいよ」と言うしかなく、過去十回と同じ流れで三人で出かける運びとなった。


 初夏に差し掛かり、輝きを増した湖水がキラキラときらめいていた。


「私……、引っ込み思案で、お友だちがいないでしょ……。みんなに虐められてて……、だから、こんなふうに誰かとどこかに行けるのが、本当に嬉しくて……」


 もじもじしながら、メイジーが上目遣いでサイラスに言う。

 前回も、前々回も、同じようなことを言っていたが、サイラスは初めて聞いたような顔で「だったら、よかった」と微笑むのだった。


 一度だけ、フェリシアは「サイラスをメイジーに取られる」的なことを冗談交じりに口にした。

 顔ではにこにこと笑いながら。


 サイラスも笑った。「まさか」と言って、どこかバカにしたように笑った。

 そして、メイジーが離れたすきにフェリシアに身を寄せ、「本当に、冗談じゃないよ」と真顔で言ったのだ。


「きみとメイジーでは月とスッポンじゃないか。あんな地味でぼんやりした子に、僕が靡くと思うのかい?」


 薄茶色の髪に色のはっきりしない小さい目、全体的に地味なメイジーの容姿をあからさまに嘲笑した。

 

「しかも、しがない男爵家の娘じゃないか」


 サイラスの言い方に、フェリシアは不快感を覚えた。

 けれど、メイジーにサイラスを取られるようなことはないと、その点だけは確信した。


 ……つもりだった。

 

 この時のフェリシアには、人の心の機微というものが、まるでわかっていなかったのだと思う。

たくさんの小説の中からこのお話をお読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] こりゃフェリシアが悪いな メイジーはフェリシアの従姉妹なんだから、フェリシアがO K出したりサイラスに返事を促すならサイラスはOK出すしかない。 いい子ぶってはっきり断らず他人に責任を丸投げ…
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