memory of the student council~来栖編~
外伝です。
75話で軽く触れた過去編です。
なので、75話を読んでいないと話がわからないと思うので読んでくださいね♪
それは東海林桜が中学二年生のときのお話…
75話『西園寺七海』の続きのお話。
西園寺七海が来栖という他校の不良の前で倒れているところに桜はでくわした。
そして、桜は相手が誰なのか、それはわからないが、来栖と喧嘩をしていた。
長い時間の二人の暴力は互角の力であった。
桜が殴れば、それ以上、または同等の拳が返ってくる。
逆も同じく、来栖が蹴れば、桜も同じ以上、同等の蹴りを返す。
二人は長い時間、どう見ても学生の喧嘩の範疇を超えた殴り合いをしていた。
身体が軋む。
自分の祖母以外でこれ程の力を持った人物は初めてかもしれない。
東海林桜は身をもってそう実感していた。
身体が悲鳴をあげ始めた。
警告。
いうならば、ボロボロの状態である。だが、それは相手も同じことであり、先に
根を上げるなど、言わば心の敗北はしたくない。そういった喧嘩をしている。
「うりゃあああ!!」
「ぐおおぉぉ!!」
お互いの拳が頬に直撃する。
「はぁ…はぁ…」
「フゥ…フゥ…」
二人は一度距離をとり、呼吸を整えた。
「ったく、化け物って呼ばれたことない?え~っと…」
「“来栖”だ。そう言うお前こそ、化け物って言われてるんじゃないのか?え~
っと?田中だったか?」
「知ったかぶりすんな。まだ名乗ってもいないよ。東海林桜だ、貴様を倒す記念
すべき女の名だ。」
「あら、いやだ。私に勝つ夢でも見てるのかしら?」
軽口を叩きながらも、正直な話、双方ともあまり余裕はない。
雨の降りが強くなり、すぐそこにある川の流れも勢いを増してきた。
二人の拳が交差する。
頬にあたると同時に雨が強くなり、雷が落ちる音がした。
「っ!!」
「っ!?」
拳が落ちる。そして、最初に地面へひざをついたのは桜であった。
「…」
来栖は膝をついた桜を見下ろす。
「姉御?」
いつまでも棒立ちする来栖へ声をかける来栖の部下達。
来栖は未だ動かない。部下達が前へ回り目を見た。
「あ…姉御…」
勝者の目ではなかった。
目の光が失われて、意識はもうなかった。
すると、
ビシャっと来栖は前のめりに、地面へと倒れた。
同時に、膝をついていた桜も倒れた。
二人の戦いはドロー。引き分けとなった。
「おいおい、姉御と引き分けだと?」
「こいつ…どうする?」
「いっそここで川にでも流しちまうか?」
部下達の中で倒れた桜をどうするか、議論が始まった。
「待てぃ!!」
声が響く。ただの大きな声というだけではなく、人の芯にまで響くような声がした。
部下達が声のした方向を見ると、一人の大柄な、2mくらいの男性が近づいてきた。
「誰だてめぇ!」
「この闘争、しかと見させていただいた。この引き分けに手を下すなどの下劣な行為。それがし、“本多忠勝”が許さぬ。」
「てめぇ関係ねぇだろ!引っ込め!」
部下達からブーイング、罵声の嵐。
「いた仕方ない。」
本多忠勝は息を吸い、睨みつける。
「っ!!」
バタバタバタっと不良たちが意識を失っていく。
その様子を見て、本多忠勝の背後から一人
「忠勝、何やってる。余計な時間を…。ってお前…、こいつらどうするつもりだ?」
「…」
「はぁ、雨も振っているし、風邪引かすわけにもいかないから、救急車でも呼ぶか。」
「申し訳ございません。“徳川陸”様。ぬ、この者は…」
「どうした?」
忠勝は、七海を見る。
「西園寺組の令嬢です。この者を病院へ連れて行くと問題が。」
「ああ、西園寺組か。そうだな。こいつは、学校にでも送っておくか。」
東海林桜、中学二年生。
雲の上学園中等部。
まだ、中学二年の時、西園寺七海は不良であった。
その西園寺七海は、現在包帯をグルグルに巻いている。その怪我は先日喧嘩した“来栖”につけられたものであった。
七海は屋上で昼食をとっていた。
「っつ!…口の中、切ったか…。それにしても…どうして、殴られて目が覚めたらここの保健室に…。誰かが傷ついた私を運んだとしか考えられないが…。」
湿布の貼ってある頬を触る。
「そういえば、あいつ、今日は来ないな…。」
“あいつ”とは、昼飯時にいつも七海の周りに出没する人物、東海林桜のことであった。
その東海林桜はというと…
「いでええぇぇぇぇ!!!!」
「我慢なさい!」
桜邸の自室ベッドの上で包帯巻きの入院患者のような状態になっていた。
「まったく。どの生物と喧嘩したらそこまで怪我をするんです!」
「だから“人”と喧嘩したんだって!」
「嘘おっしゃい!その怪我、大事故にあったようにしか見えません!」
満身創痍の桜に対して、言葉を浴びせているのはメイドである茜。
「あの“来栖”のやつ…。今度あったら決着をつけてやる…。絶対に…。七海をあんな目に合わせて…」
桜は悔しかった。
一方的な友人ではあるが、その友人が痛めつけられたこと。
そして、来栖を倒せなかったことが。
その一週間後、桜の怪我は怪我を完治させ、雲の上学園へと、登校した。
「東海林さん。これ休みの間に配られたプリント。」
「お、ありがとう。南嶋。」
ぐるぐる眼鏡をかけた少女が言った。
「珍しいじゃん、南嶋がこんなことしてくれるなんて。」
雲の上学園中等部では、南嶋木葉は暗い雰囲気を持った少女であり、滅多に人と
は話さない人物であった。
「クラス委員だから。」
それだけ言うと、南嶋は自分の机へと戻っていった。
それと入れ替わるようにやってきたのは、西園寺七海であった。
「東海林ちょっと付き合え。」
「一週間ぶりの登校なのに、“お久しぶり”とかないの?」
「ない。」
「ひど!あとこれから授業が…」
「サボれ。」
ということで、桜と不良である七海は教室を出て、屋上へと行った。
「なあ、お前この一週間どうしたんだ?」
「あ、ウチがいなくて寂しかったんだ♪」
「ばっ!そ、そんなわけねーだろ!そうじゃなくて、どうして休んでいたのかっ
て!」
七海は桜に対して一つの疑惑を持っていた。
来栖にやられたとき、誰かが助けに入ってくれた。その人物は雲の上学園の制服
を着ていた。
まさかとは、思った。だが、どうしてもその人物が桜である可能性を否定はでき
なかった。
「学校の帰り道、熊に襲われた。」
「嘘つけ!!」
「そそそ、そんな疑うなんて、ひ、ひどいなぁ。」
「そんな目が泳いでるやつの言うことなんか信じられるか!」
「それでも僕はやってない!」
「いきなり冤罪映画のタイトル言うな!」
桜は何かを隠したまま、喋ろうとしない。
こいつは私のことにはまとわり付くのに、大事なことは何も言わない。
まったくムカつくやつだ。
でも、私自身気づいていた。
私は、この東海林桜と話している時間が、楽しい時間になっているコトに。
七海はため息をついて、真相を聞き出すことを諦めた。
「もういい。じゃあな。」
「どこ行くの?まだ授業間に合うよ?」
「サボるんだよ。クラス委員のえっと…南嶋には適当言っておいてくれ。」
「じゃあ、ウチも一緒にサボろうかな?」
「…」
「?」
桜は違和感を感じる。
普段なら七海は、「来んな」などと突き放すのだが。
「勝手にしろ。」
それは「一緒にサボってもよろしいですことよ」という意味だろうか。
心を少し開いたってことか?
桜は呆然とする。
「おい、来ないのか?置いてくぞ。桜。」
ああ、やっぱりそう言う意味だったらしい。
「ツンデレ?」
「ッ!バカ!」
顔を真っ赤にして、屋上のドアを勢いよく閉めた。
「やっぱりツンデレじゃん。」
こうして桜と七海のサボりライフは習慣化していくのであった。
こののち、サボりメンバーに南嶋木葉、今で言う南が加わるのは、少し後の話で
ある。
次回予告
東海林「どうも、作者の東海林です。今回は外伝的なエピソードである、桜の中
学生時代の話でした。これをシリーズとして、今後ちょくちょく本編の間に挟んでいきたいと思います。さて、次回は予告通り反省会をしたいと思います。
では99話でお会いしましょう