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雲の上学園生徒会記録  作者: skyofnet
第7章『雲の上期末テスト』
96/119

96 妖怪との戦い方

テストが返却されたのその晩、桜は屋敷を抜け出した。


「ふう…。」


屋敷のセキュリティが今日は通常モードであったため、引っかかることがなく抜け出すことが出来た。


桜が抜け出しそうな日などは、茜の手により、セキュリティレベルが上げられ桜でも痕跡を残さず脱出することは不可能である。


「最近はいい子にしていたからね。助かった。」


独り言をぶつぶつと言い、目的地まで走る。


桜の目的地、それは雲の上学園の旧校舎であった。




「よう、桜。準備はいいのか?」


旧校舎へ入ったとき、聞こえた第一声はこれであった。


「座敷わらし。ええ、準備は出来ている。」

「それか?」


桜の手にはA4サイズの鞄が持たれていた。

その中には、二宮金次郎を救うためのモノが入っている。


妖怪メリーさん。やつとの取引で、桜がテストで100点を取れたときに捕まえてる二宮金次郎を解放するという約束をした。


「あの…」

「あ?」


桜は少しいいにくそうにモジモジとした。


「悪いんだけど、あんたもここら辺で待っててくんない?」

「はぁ?何いってやがる?私達の仲間が囚われてるってのに何を!!」

「いや、だからさ。相手が相手なだけにあいつら絶対にタダで解放したりなんかしないでしょ。」

「…足手まといか。」


桜は黙ってしまった。

はっきりと言いたいことを言われてしまった。


「だが、それは聞けん。私にも意地がある。他の奴らの願いも聞いてる。」


今日、他の妖怪がいないのはそのためか…。

ウチの邪魔にならないように、他の妖怪を今日は呼んでいなかったのか。

それでも。それでもどうしても…


「おい、いくぞ。」


思考が切断された。


「あ、え、ちょっと!」


座敷わらしに先導されて、強制的に座敷わらしを同伴する形になってしまった。




旧旧校舎。

取引の場所である。

約束の十分前。緊張した空気が流れる。座敷わらしからしたら、自分の身近な友の存在をかけた取引なのだから当然である。


桜は腕時計を見る。


針が12時丁度を指したその時、ある地面に黒い円が現れた。


「来たか。」

「(ゴクリ)」


桜は唾を飲む。いつの間にか手に持っていた木刀・村雨に力が入る。


そして黒い円の中からずぶりと、沼から出てくるようにドロドロと謎の液体をたらしながらそいつは現れた。


「テケテケ。」


真っ黒そして、下まで、地面まで伸びている身体。

まさに外見からして妖怪といえる格好。

桜も妖怪を数体見てきたが、ここまでわけのわからない容姿は始めてである。


「よう。」

「テケテケテケ。」

「おい!メリーはどうした!」


桜は物怖じせずと、あえて大きな声を出した。


「テケテケ!すぐにくる。金次郎も一緒だ。」


その時、風が流れる。


「っ!!な!なんて殺気!」


そこにはいつの間にかメリーと捕らえられている二宮金次郎がいた。

二宮は気を失っているようだ。


「座敷!」

「二宮!今助ける!」


カアァァンっと金属音がなる。

それはテケテケが座敷わらしと二宮金次郎の視線を切る軌道、そして音であった。


「テケテケテケ、だが、その前に。」

「私、メリーさん。私、約束をしたもの、見せてほしいの。」


桜は歩く。紙を持ち。


カツカツと、一歩ずつ桜はメリーと二宮へと近づく。


全員が見守るなか、それは突然だった。


座敷わらしが走る。走り、外へ出るドアを蹴破る。

テケテケとメリーは何事かと、座敷を見た。


そして…


「(二ノ型・応用・)瞬ッ!!」


桜が高速で走る。注意を座敷へと移していたメリーの手から、簡単に二宮を奪取した。


「飛翔ッ!」


木刀を投げる。標的は誰かではない。部屋の窓に向かってであった。

パリーンっと窓ガラスが割れた。


「な!何だ!?」

「今だ!」


テケテケは未だに状況がつかめていない様子であった。メリーに関しては呆然と立ち尽くしていた。


割れた窓に向かって桜はヒュっと二宮をかかえて飛び出す。

旧旧校舎の外へと桜は脱出することに成功した。


一方内部では…


「あのヤロウ!俺達を騙したな!デケデケェェ!!!」


テケテケは怒りをあらわにし、ドアから桜を追撃しようとする。


「…」


メリーは黙っている。


「メリー様??」



「『ごごあえdこんgヴぁうdhッッ!!!!』」



メリーは突然意味不明な言葉を大声で発した。

その声は、雲の上全体に響く。

声と同時に妖怪の力である“妖力”による凄まじい“威圧”を撒き散らす。



「ぐっ!!」


外で旧校舎へと逃げていた桜であったが、メリーの“威圧”により、動けなくなり、地面へと膝をつく。


「なっ!?こっこれは!?動けない…!!」



内部では、メリーが落ち着きを取り戻す。


「メリーさん。二宮金次郎さんを『取り返してきてほしいのぉおぉ』」


テケテケはその言葉に威圧された。


「ひっ!」


それだけを言い、メリーは粉のように消えていった。


「まずい…、あいつを取り戻さないと、俺の存在が…消える…」



外では、やっと動けるようになった桜。再び二宮を担いで走り出す。

が、


「追いついたぞ!!!」

「はやっ!」


テケテケの鎌が振り下ろされる。


「うお!!」

「ちっ!」


どうにか避ける。避ける時に、桜は二宮を放してしまった。


「しまった!って座敷わらし!」

「二宮はまかせろ!」


桜を待っていた座敷わらしが、二宮を担ぎ、桜を先導するように走り出す。

だが、桜はそれを追うことはできなかった。目の前の敵に遭遇してしまったから。


「先に行って!」


そうこうしていると、テケテケとの距離が、戦闘する距離になっていた。


「ちぃ!この卑怯者がぁ!」

「何が!」


鎌と木刀がぶつかり、互いにはじく。


「騙しやがって!」

「拉致ったやつらが言うか!」

「で、本当は何点だったんだよ!」


鎌を大振りに構える。

桜は勝機と見て、足に力を入れる。


「99点!!」


高速移動での一撃、“瞬”による一撃。


(捕らえた!)


だが、不可思議なできごとが起こる。


「あり??」


風を切るというか、空を切るというのか。感触がまったくない。


「なぜ?」

「よう、99点とったご褒美に教えてやるよ。」


桜は距離をとる。


「お前、俺のようなタイプの妖怪と戦うのは始めてだろう。」

「タイプ?」

「“妖力”タイプだ。」

「何?」

「まぁ、簡単に言うとだな、お前が人間の域にいる限り、俺は倒せねぇ!」


テケテケは加速する。

桜は防戦一方となることを強制される。


(こちらの攻撃が効かないとなると…。いや、待てよ…。)


木刀と鎌がぶつかるのを見て、桜は思考する。


(どうして“鎌”は木刀とぶつかる?…ってことは、“鎌”は妖力で作られたものではない…。かと言って、鎌を手元からはじくなんて、あいつも素人ではないだろうし。)


「うわ!」


考え事をして、少し動きが鈍っていたのか。テケテケの鎌が身体をかする。


(どうすれば、当たる?妖力?婆ちゃん…織田との戦い…威圧…そして……)


「ういぃぃぃ!!!」


テケテケは奇声を上げ、鎌を高々と上げた。


「なっ!何だ?あれ…」


桜が目にしたのは、テケテケの鎌が光を纏っている光景であった。

薄く、鎌に膜を張るように光を纏う。


「おい!テケテケさんよ!」

「なんだ!人間!」

「今何やってんの?」

「テケテケテケ!これはな!妖力を鎌に込めてんだよ!そうするとな、こういうことが出来るんだよっ!!」


鎌を振る。すると、鎌から光が、まるで鎌鼬カマイタチのように弧を描き、桜へと飛んでくる。


「まずっ!」


だが、鎌鼬は桜を通りすぎ、後ろの壁を破壊した。


「今のは威嚇だ。さぁて、次は…俺の大好物…足をいただく!!」

「“ありがとう”」

「何!?」


急に礼を言われて、テケテケは困惑した。

対する桜は口元を歪め、笑みをこぼしていた。


「あんたの今の説明。とても為になったよ。」


桜は木刀を構える。


「視線で妖力を飛ばせるなら…、出来るはずだ…。力を刀へ。」

「しまった!つい説明しちまった!」


桜の木刀に薄い膜ができる。


「させるかあぁぁ!!!」


テケテケは鎌を振り上げる。

それより早く、動いたのは桜であった。


「“飛翔”ッ!!」


木刀を投げる。弾丸のように真っ直ぐ、風を切り進む。


「ぐげッ!」


テケテケへと直撃。妖力を込めた木刀はテケテケへとあたった。

その怯んだ隙に一気に間合いを詰める。


「妖力パンチ!」


ただのボディーブロー。と言っても、桜の繰り出すパンチは一般人のとは桁が違う威力である。

木刀へ妖力を込めることができたのだから、拳にもそれはできるだろうという桜の考えは的中し、拳がテケテケの腹部へと突き刺さる。

ついでに木刀を回収。そして刀を後ろへと引き、


「さらに、一ノ型“獣牙”」


強烈な“突き”。テケテケはその場に踏みとどまることはできず、遥か後方、旧旧校舎の中へと送られる。


「ありがとよ。これで戦いの幅が増えたよ。」


聞こえない相手へと再び礼を言い、旧校舎へと走る桜。




旧校舎

帰ってきた桜は、先ほど会議をした教室へと戻り、座敷わらしに状況を確認した。


「ってわけでどうにか、逃げることはできたわけよ。でも、また追いかけてくるんじゃないの?」

「いや、それは問題ない。私たちが旧旧校舎に行ってる時、他のやつらが“ある人”頼んで結界をはったからな。」

「結界?」

「ああ、それさえ張っていれば、メリーだろうと、ここへは近寄ることさえできないだろう。」


安心しきった桜は一気に力が抜けたかのように、椅子へと腰をおろした。


「はぁ。」

「今度、あらためて私ら全員でお礼をする。」

「いや、妖怪総出で、お礼をされても困る…。いいって、それじゃあ、ウチ帰るから。」




旧校舎の別教室では、その“ある人”が花子たちにお礼を言われていた。


「ありがとうございます。」

「いいえ、いいんですよ。それよりも、結界を張るだけでよかったんですか?」

「はい、大丈夫です。他のことは、私達でどうにかしますから。」


花子はその人物の手を握る。


「ありがとう。“薬師寺さん”」


彼女の名前は薬師寺良子。雲の上学園三年生。桜とは面識がある人物である。




旧旧校舎

「私メリーさん。今…」


意識を取り戻したテケテケは、最初に目にしたのは、目の前にいるメリーの顔であった。


「メ、メリー様!!」






「あなたの魂をつぶしているの。」


妖怪テケテケは存在を抹消された。

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