95 テスト本番
東海林桜は憂鬱であった。
まさか自分の学力が一人、いや一妖怪の運命を握ることになろうとは思わなかった。
「鬱だ。…ちなみに“鬱”って漢字もテスト範囲なんだよな…。はぁ…」
庭先でため息ばかりついていた。
「100点をとるとしたら、可能なのは英語かな。あ、でも今回は中国語も範囲に入るんだっけな。」
桜は数ヶ国語を話せるが、中国語は苦手であった。日常会話は可能だが、文章にするなどはたびたび間違える。
「でも他の科目は絶望的だし。」
ぶつぶつと庭で独り言をしている桜。たまたま不知火達に餌を上げていた雪音に見られ何事かと近づいてきた。
「桜さん?どうしましたか?」
「あ、雪音さん。いやぁ~、そうね…」
「ん?」
雪音は桜を見て何かに気づいたようだ。
「桜さん?先日誰かに会いましたか?」
妖怪である雪音には、レーダーでもついているのだろうか?旧校舎で妖怪にあったことを悟られた。
だが、まだ誰にあったかは知らないようだ。正直に言おうかと考えたが、現在人質…いや妖怪質がいることを知られるのは避けたい。
雪音に心配をかけたくなかった。
「そ…そうかな!きき気のせいだよ!」
「ものすごい動揺してますよね。」
「どどっど童謡なんてしてませんよ!」
「漢字も間違えてますよ。じ~…」
匂いをかぐかのよう雪音は桜へ寄る。
「妖怪の匂いがします。」
「ちょ、近っ…」
「匂いします。」
意外と頑固な性格であった。
完全に桜に密着するかのように匂いをかぎ始めた。
その絵図らは外からみたら…
「何してんの?レズ…ですか?」
識に見られた。
「違うよ!って雪音さん離れて!誤解受けてるぅ!」
それから三日間、桜の茜監視による勉強が始まった。
飛ばして三日後。
テスト当日。
「桜、朝ですよ…え?」
毎朝のように茜は桜を起こしに、いや叩き起こしにきたのだが、いつもと違う桜の姿があった。
「桜が起きてる…。いけない、私、まだ寝てるようね…夢を見るなんて…」
「ウチがまっとうな行動するとすぐそれですね…。」
珍しく起きている桜に驚いて、びよ~んっと頬をつねり夢ではないことを確認する茜。
「今日はどうしたんですか?起きてるなんて??」
食堂
「な…なんだ?今日の桜は気迫が違うぞ?」
「そうなんですよ。朝も自分で起きていて。」
「さ…桜が!?」
桜邸で働く者が聞いたら誰もが驚愕する内容であった。それほど普段の桜と今日
の桜は違っていた。
「ここは何も聞かず、様子を見た方が。もしかしたらテストなんで気合いが入っ
てるのかもしれません。」
「そ、そうですね。でしたら邪魔はしてはいけませんね。」
二人でこそこそと桜には聞こえないように話した。
朝食を取り終えた桜は席を立ち、置いてあった鞄を手に取った。
「それじゃあ、茜さん。行って来ます。識、今日は先に行ってるから。」
「あ、ああ。気をつけてな…」
識も茜もそれ以上は何も聞くことができなかった。
桜が家を出た後、茜と識は未だに現実を受け入れることができず、呆然と立ち尽
くしていた。
「怖いわ。」
「え?」
ふいに茜が呟いた。
「ずいぶん前に桜が今回と同じことをしたんですけど、その翌日、桜が血まみれ
で帰って来たり、ヘリが屋敷につっこんだり、不吉なできごとの前触れ気がする
わ。」
「それはまた…」
血まみれ事件は気になるが、どうやら今日、いや桜があの調子でいるウチは気が
抜けないようだ。
学校についた桜は教室で自主勉強をしていた。
周りの学生も桜と同じく学習をしていたが、その中の一人が桜を発見し近づいて
来た。
「あら、東海林さん。めずらしいというか、あり得ないことしてるわね。」
「村瀬。どうしたの、うちに声かけるなんて、そっちこそめずらしいじゃん。」
「ええ、だって…」
とても艶美な目つきで、そして色っぽい仕草をし始めた。
「もし、東海林さんが頑張っているならぁ」
「ん?」
「あなたのこと“大”嫌いだから邪魔しようかとぉ。」
桜は口をあんぐりと空けた。特に嫌われるような心当たりが…
あった。
「って村瀬。あれはゲーム上仕方ないでしょ。いや倉田に弾丸あてたのは確かだけどさ。」
「へ~。」
「うわ!うつろ眼!怖っ!」
桜と村瀬の因縁は詳しくは41話を見よう!
期末テスト一日目…国語
「…っ!」
桜は冷や汗をかいていた。
(古文ってこんなに難しいっけ?つか漢文まであるよ!あ、“鬱”って漢字がある♪)
どうにか国語では、平均点より少し下ではあるが、赤点はまぬがれそうだ。
二教科目…家庭科
(わっかんね~)
ほぼ諦めムードである。
(あ、ここ。椿に尻触られながら覚えた所だ…。なんて最悪な覚え方だ…。)
とても不本意ながら、身体で覚えたことが役に立った。
「へくちっ!」
遥か前にいる椿がくしゃみをした。
三教科目…社会
(見えるっ!ウチにも答えが見えるよ、アム○!)
訳のわからないことを思いながら桜はスラスラと答案用紙に答えを記載していく。
「さぁくら!うっせえ!」
声に出ていたようで、紫部にしかられた。
二日目…数学・理科・統計学
の終了後
「ねぇ、南。」
「なぁに?七海ちゃぁん?」
「“あれ”何かわかる。」
七海の指す方向には真っ白に、生気が抜けた空っぽの桜がいた。
「ジョー…、真っ白に、真っ白に燃え尽きちまったぜ…。」
桜は理数系が苦手であった。
三日目。前半戦、中盤戦が終わり、残された教科は…
「英語…か…。」
唯一得意な教科、そしてこの数日間、一番勉強をした科目。それが英語である。
いつになく気合が入る。
「ね…ねえ、南。あそこ、なんか熱くない?」
「うん。熱気が出てるね。」
二人の視線の先。桜からは自ら熱気を出していた。
(…よし、今のところいい調子だ。このまま…)
スラスラと書いていく。
今までと違い、ふざけた思想などまったくなく、真剣に、集中して問題を解いていく。
「っ!」
急に桜の手の動きが停止した。
(なん…だと?)
目が見開かれ、さらに手が震え始めた。
(わからない…。わからない。)
いくら考えてもわからない問題が出てきた。
(くっ、このままでは…、あいつが…あいつが…)
桜はとらわれている二宮金次郎のこと、そして座敷わらし達のことを考えた。
(諦めちゃだめだ。諦めちゃだめだ。諦めちゃだめだ。集中、集中、集中、集ちゅうううぅぅぅっ!!!。)
そして、テストは終わった。
翌日、それぞれの科目のテストが返却される。
「佐伯…、東海林…、……」
桜は返事をせず、机へと視線を落として、考え事をしていた。
(もし、もしもウチが100点とれてなかったら、二宮が…、くそ!弱気になるな!)
「くおおぉら、桜!テメぇ呼んでんだろ!」
「ふぁい!」
返された答案用紙、まっさきに見るのは英語の答案用紙。
そこへ書かれていた数字は…