93 合宿シーンは書くのが面倒なので大幅カット
乙姫と浦島の救出に成功した桜たち、イレギュラーの事態を解決し、やっと本来の作業である学習をするため会議室へと集まっていた。
「まず、はいこれ。」
「ん?何、椿?」
ガチャリと音がした。
足元を見ると黒い輪の物体がつながれていた、というより拘束されていた。
「あの…、椿??」
「桜は脱走しそうだからこうした方がいいって。」
「“いいって”って誰からの情報で…?」
おおよその予想はついていた。
桜の勉強脱走情報に関する対処法。
「茜さん。」
「やっぱりか!それにこの輪って茜さんからの提供物だろ!!」
「ええ、私は“首輪”がよかったけど…。」
「SMプレイか!!」
「桜は脱走の名人だし、勉強となるとすぐ逃げるからってね。」
茜の手が回っているとなると、おそらく逃げる隙もないだろう。桜は覚悟を決めると
「南と七海も拘束した方がいいよ。」
「「巻き添え!?」」
ガチャリと南と七海も逃走用の輪がはめられた。
英語、国語、数学、社会、理科と主要五科目を学習した。
主に、総合成績一位である椿が講師となっての学習であった。
「貸し一つよ。これで計二つね」
という約束で講師をしてもらった。
午後11時。勉強の時間が終わり、寝るだけとなった。
桜の提案で、男女別に広いホールに布団をしいて寝ることにした。
「う~ん…。何年分の勉強をしたんだろう…。」
「私もぉ~…限界だよぉ」
南は布団へとダイブするように倒れた。
「つっかれた~。私も限界…」
「ぐみゃっ!!」
南の上へとダイブし、南はカエルがつぶされたような声を出した。
「あ、ウチも限界♪」
「っで!」
「ぶぶへっ!!!」
それを見た桜が楽しそうに乗っかってきた。
南には二人分の重さが加わる。
それを見たある人物の目が光る。
「それは私にも参加しろという挑戦状かしら?」
椿が走る。飛ぶ。
「ぶっ!」
「ぶほっ!」
「っ…」
衝撃に耐え切れず、南は泡を吹いて意識を失った。
「あ、やべ!桜ならともかく、南が下なら当然か!」
南は医務室へと運ばれた。
翌日、昨日と同じようなスケジュールで学習を行いつつ、休憩を取りながらすごした。
その休憩中のひと時…
「不知火~、大鷲~、ご飯ですよ~。」
餌係りである雪音は桜のペットである二匹を呼んだ。
間もなく庭へ狐の不知火、鷹の大鷲の二匹がやってきた。
「そういえば、今、お嬢の友人が着てるらしいな。」
「ええ、なんでも勉強会だとか。桜さんがめずらしく勉強をするって言ってるから茜さんが喜んでいましたよ。」
「それより、お前も気づいてるだろ。」
不知火は真面目な顔つきになった。
「ええ、先ほど…いえ、昨日から屋敷内に妖気を持った人物がいますね。」
「ああ、“妖怪”か“妖気をもった人間”かは定かではないがな。おい大鷲!お前はどう思う。」
「僕は元は“ただの鷹”ですから、妖気なんて探れませんよ。」
大鷲は不知火の妖気の影響で言語を話せるようになった鷹である。元から純粋な妖怪である雪音と不知火とは違う。
「しかし…、誰だ?ただの妖気じゃない。明らかに大きい妖気だ。」
そして、休憩中の識は…
庭で遊んでいる桜たちを見ていた。
(ずいぶんと俺の生活も変わったものだな。あれから四年前か…。俺が日本に着てから。)
笑って遊んでいる桜たちを見てふいにそう思った。
(あいつら…、元気かな…、俺が)
「中嶋。」
「うおっ!」
ふいに浦島に声をかけられ間抜けな声を上げてしまった。
「何じゃ、何を驚いておる?」
「いや、少し考え事をな。」
「ふむ…。」
浦島は黙り、何かを考え込む。
「女子のことか?」
「お前と一緒にすんな!…って言っても、一応女も含むやつらのことを考えていたんだけどな。」
「おお!どんな話じゃ?」
女絡みのことと聞き、興味を持ったようだ。
「昔の話だよ。そうだな…、前のっても中学での友人のことなんだけどな。最後にみんなで集まったとき、ちょっと事件があってな。それがきっかけで縁を切って、話すこともなく転校してそれっきり。それでな、あいつらどうしているかなって思っていたのさ。」
「ふむ…、複雑じゃな。人との縁は壊すのは一瞬じゃが、一度切れると修復に時間がかかる。それか修復ができんかもしれん。」
識は浦島を見ず、どこか遠くを見て話していた。それは自然と行っていたことではなく故意的にやっていた。
今、中嶋識はわずかに嘘をついていたから浦島の目を見て話すことはできなかった。
「じゃが、同じ空の下に今も同じ時を過ごしているのじゃ。また会うこともあるじゃろうて。」
「…そうだな。」
(同じ空の下か…。会ったら俺達はどうなるのだろう…。)
風が気持ちよかった休憩時間の出来事であった。
こうして、三日間に及ぶ勉強合宿が終了し、あと三日は自分達で勉強をすることになる。
「じゃ、ありがとね。…あと椿もありがと。」
「まあ、珍しく素直なのね。でも借りは二つよ。」
「うっ…」
椿は迎えの自家用車で帰っていった。
「桜も勉強サボっちゃだめだよ!」
「よぉ~」
「それはあんたら二人もでしょ。」
南と七海も帰っていった。
「うむ、おぬしの家、なかなか楽しかったぞよ。またわらわを誘うがよい。」
「二度と勝手にであるかなければいいよ。」
「あのトラップの数々、わらわの研究材料になるぞ。」
「あ、トラップ発動させる気だな。二度とくんな!ウチが疲れる。」
乙姫と浦島も帰っていった。
「ふう、やれやれ。」
「じゃあ、俺夕飯の支度手伝わないといけないから先に行くな。」
「あ、うん。じゃあウチは不知火と遊んでるから。」
「いや、勉強しろ。」
など言う言葉は無視して桜は庭で不知火に会いに行った。
その時、
「っ!何この気配!?」
庭で人の気配に似たものを感じた。
「この感じは…、たしか雪山の…、妖怪!?」
「おい!」
背後から声がした。
距離をとりながら振り返る。
そこに立っていたのは…
「あれ、たしか雲の上の…座敷わらし?」
キセルを吸い、悠然と立っていたのは妖怪座敷わらしであった。
普段は雲の上学園の旧校舎に住み着いている妖怪である。以前、(第一章)で桜たちが旧校舎へ行ったときに知り合いになった妖怪である。
「ってあんた学校離れていいの?つかなんでウチの家知ってるの?」
「いいんだよ。学校に張り付くのが座敷わらしの仕事じゃねぇんだ。お前の家はとある飲み仲間から聞いたんだよ。」
飲み仲間っとは不知火のことであったが、桜には不知火が妖怪であることは秘密にするように言われているため、言わなかった。
「ウチの個人情報が駄々漏れ?」
「で、用があんだ。」
人間にはばれない個人情報がなぜ妖怪にはばれるのか聞きたかったが、用事とやらを聞くことにした。
「今日の夜12時、雲の上の旧校舎に来てくれ。」
「はい?」
「じゃあな。」
「あ、待って!」
座敷わらしは妖怪らしく“ドロン”と煙を残して消えた。
「何でこういうところは妖怪らしいんだ。」
やれやれと思いつつ、桜は夜に雲の上の旧校舎に行くことを決めていた。