92 浦島サイド
「うむ、参ったのう。」
浦島は、桜邸の室内植物庭園らしきところにいた。
「あやつら、わしから離れおった。」
一人勘違いをしていた。
「う~む…ここからどのように合流するか…、ん?」
何かピッと機械音がした。何かを踏んでしまったのかと思い足を上げると、踏んだ場所が長方形にへこんでいた。
次の瞬間、浦島を背後から黒い影が襲った。
浦島の背後に大きな影。
影は浦島の足をロープのようなもので掴み、そのまま上へと持ち上げていった。
「なっ!?何じゃ!??」
一瞬の出来事であったため、浦島は何が起こっているのか理解が出来ないままつるし上げにされた。
ゆっくりと、周囲を見渡すと、そこには…
「なんじゃぁ!?この植物!?」
浦島を掴んだのは、巨大な木。それもアマゾンの奥地の奥地に生息しているような謎めいた容姿をしている。
浦島を掴んでいるツタを乱暴に振るいまわす。この木には“意思”のようなものがあるようだ。
「はなあぁぁせぇ」
振るわれながら、搾り出すように叫ぶ。
そこへ、ヒュンっと何かがツタを通り過ぎ、ツタを切断した。
解放された浦島は地面へとしりもちをついた。
「おう!…ててて…。間宮か!」
ツタを切ったのは間宮であった。
「…」
「相変わらず何も言わんのう。」
埃をはたきながら立ち上がる。相変わらず目の前には謎の木がツタをウネウネさせながら
「ところで識はどこじゃ?」
「部屋のセキュリティ操作を行っている。完了すれば、コイツも止まるはずだ。」
「ぬう、それまでどうにか逃げるしか…む!」
「どうした?」
浦島が指をさした。方向にはバラなどについている棘のついたツタ。それが間宮たちを囲いこのエリアから出られないように囲った。
「これは…」
「有刺植物のリングか。どうやら俺達はこの木の捕食エリアに踏み入ってしまったようだな。」
動物などにあるだろう。自分の領域に入った獲物を、自分の知り尽くした領域に侵入した者を捕らえる習性。それに似たようなものである。
「どうするのじゃ?」
「中嶋がセキュリティをオフできれば…」
すると、ヒューンっと有刺植物の囲いを飛び越えて飛来してくる識が見えてきた。
「あべ!!」
着地に失敗し、転がる。
「中嶋、セキュリティは?」
「ああ、それがオフにしたんだが、こいつだけが止まらない。どうやらコイツは何か違うようだ。それで、俺も加勢しようと飛んできたわけだ。」
ぐっと識は拳を握り戦闘態勢に入る。
「しっかし、何だ?この木は?」
木に向かって足を踏み込もうとしたとき、木の幹が穴を開けるように開き始めた。
その中から多くの緑色のツタが出て、一つの塊に変貌し始めた。
「な!?」
「んだ!?」
「…人型か?…」
塊は人の形を形成した。大きさは3mくらい、色は全身緑色なので、まるでシルエットのような塊である。
『我は“妖樹族”名は“ユグドラシル”。貴行ら不信人物の排除を仰せつかっておる』
話した。緑の塊がではなく、“木”から声が聞こえたような気がした。
「おいおい…。まさか…」
「妖怪か…」
ボソと間宮が言葉をもらした。それは、識に強烈な違和感を与えた。
「間宮?お前妖怪って…」
間宮は“妖怪”の存在を知っている。いくら識の周囲に妖怪がいるとはいえ、一般人が妖怪の存在していることを知っているわけがない。つまりは、妖怪を知る事情があるわけである。
「来るぞ。」
「へ?」
完全に油断をしていた。緑の巨人が繰り出した拳を直撃した。拳が直撃した身体は後方へと飛ばされ、有刺植物へとぶつかる。幸い植物に生えている棘は鋭いが、大きさはなかったので大事にはいたらなかった。
「中嶋!」
「だ…大丈夫だ。」
そのとき、浦島は識を心配するため後ろを向いてしまった。
それは完全な“隙”を見せる行為である。それを緑の塊は見逃すことはしなかった。
再び拳を振り下ろす。
「しまっ!」
かすかな音に気づいて振り返るも、すでに拳は眼前に迫っていた。
「っ!」
だが、拳は浦島へ当たることなく上へとはじかれる。
「間宮!すまない!」
「油断のしすぎだ。」
間一髪。間宮の蹴りが入ったおかげで浦島は助かった。
「それより、浦島。下がっていろ。」
「お、おう!」
浦島自身も自分が足手まといになるだろうことを察して後ろへと下がった。
代わりに後ろへ飛ばされていた識が復帰した。
「待たせたな。それじゃあ、あの“サーベルベア”と戦ったときみたいに共同作業と行くか!」
「…」
「あ、何か言葉が欲しかったな。」
「…」
拳が振り下ろされる。
今度は油断していなかったので、二人とも軽快に避ける。
そして、間宮が後ろへ、識が前へと移動する。
「いくぞ!間宮!」
まず、間宮がひざへと蹴りを放つ。
ガクンと体勢を崩した緑の巨人の顔へと連続で攻撃を決める。
「どうだ!」
攻撃で身体はのけぞりはしたが、緑の巨人はダメージを感じていないかのように動きだし、識の足を掴んだ。
そのまま、乱暴に振り回し、再び有刺植物へと放り投げる。
「させぬ!!」
動き出したのは浦島であった。
素早く着ている服の中から棒状の物を数本取り出した。それを全て連結させてできあがったのが、
「浦島式・鮫釣竿!!」
釣竿であった。それを識の飛ばされる方向へと振る。
釣り針が勢いよく飛び、識の足へと絡みつき、有刺植物へと当たる前に救出する。
「大物じゃあああ!!!」
捕らえた識を二、三回ほど回し遠心力をつけ、緑の巨人へと放り、糸の絡みが外れる。
「うぎゃああ!!」
識は弾丸となり、緑の巨人へと体当たりをする。
すさまじい勢いであったため、巨人は倒れた。
「どうじゃ!!」
得意げな顔をする浦島。
巨人を倒した弾丸である識が頭をさすりながら起き上がる。
「馬鹿ヤロー!!俺のダメージも深刻だぞ!!」
頭から血がピューっと出る。
「倒したのだから問題なかろう」
「大有りだ!つかてめーそんな武器持ってたのかよ!知らないぞ!」
言われて浦島は釣竿を自慢するかのように掲げる。
「うむ、これは我が宝具、“鮫釣竿”。鮫をもらくらく吊り上げると“噂”の釣竿じゃ。」
「宝?」
「そうじゃこれはのう…」
「まだ終わってない!」
浦島は釣竿に気を取られていたので気づず、識は背を向けていたので気づかなかったが、間宮は見ていた。
緑の巨人は、巨木へと吸い込まれていく姿を。
『小手調べは済んだ。次はこの森そのものが相手だ。』
ユグドラシルが言うと、付近の木々がざわざわ揺れ、音を立てる。何かの予兆を告げるようだ。
すると、ユグドラシルの周りの木の枝が急に伸び、識たちへと襲いかかる。
「そこまでだ!!!」
森に声が響き、植物、木、全ての動きが止まった。
上から降ってくるように現れた人物、
「し、白井さん!!」
東海林家の庭係を担当している白井であった。
「ユグドラシルよ。こいつらは不審者ではない。」
その言葉にユグドラシルはざわざわと反応した。
『了解しました。白井様』
それからユグドラシルはただの木に戻った。
「し、白井さん…。助けてくれたのか…?」
白井にお礼を言おうかと近づくと、白井が振り向く。
その顔は…
鬼のような形相であった。
「貴様…あれほど私の芸術の領域に入るなと忠告したのに…、貴様はああぁぁ!!!」
「ぎゃあああぁぁ!!間宮は浦島を連れて…ってもういねぇえ!」
間宮と浦島はさっさと逃げていてた。
「万死に値する!」
「ぎゃあああ!!」
識は被害にあったが、浦島の救出には成功した