9 あなたに捧ぐ美しき花・破
翌日土曜日。
雲の上学園は基本的には週6日の登校であるが、月に2回、第二土曜、第四土曜が休日となる。
本日は2月の第四土曜日である。
桜、識、間宮の三人は修羅山の最寄り駅である修羅駅にで待ち合わせをした。
修羅駅は、桜たちの通う雲の上学園前駅から一時間電車を乗った場所にあるド田舎である。
当日、いかにもド田舎の駅な作りをした駅に待ち合わせをしている。
すでに、間宮と識が到着していた。
「あと、三分で9時。また桜は遅刻か?」
「・・・・」
約束の時間は午前9時である。が、桜はまだきていない。
すると、修羅駅に9時ちょうどの電車が到着した。
ブォォーーーー
「発車します。ご注意ください。」
発車するアナウンスが鳴り、電車が修羅駅から発った。
「桜がこねぇ・・・」
「・・・・」
「間宮、携帯貸してくれ」
間宮は無言で識に携帯を差し出した。
ちょうど、桜に電話をかけようとしたとき、
「・・・き、識ぃ!!間宮ぁ!!こっこでーす!!」
識は桜の声が聞こえたので周りを見渡したが、間宮と駅員の人以外見えない。
「上だよぉーー!!上ぇ!!」
識は上を見た。すると、そこには簡易パラシュートを広げ、空から降下してくる桜がいた。
「桜か?何で空から来てるんだよ」
桜は駅外に着地し、簡易パラシュートを片付けていた。
「それがさぁ、寝坊しちゃってヘリで来てさ」
「また寝坊か。それにしても、金がある奴は・・・。それにしても、お前スカイダイビングとかできたんだな」
「小さいころからお祖母ちゃんにやらされまくってね。その他スキューバー、トレジャーハント、クライミングまで強制でやらされて数回死にかけたよ」
「それでお前はバケモノになったんだな」
「アンタもバケモノでしょ!」
そんな二人のやりとりを冷たい目で見る人が一人。
「・・・・・」
間宮は黙々と移動の準備を始めさくさくと山へと進んでしまった。
「あ、間宮ちょっと待てって!おい桜、先いくぞ!」
「ちょっと!待って!まだパラシュートがぁ!」
桜はパラシュートを近くのコンビニで配送をし、二人に追いついた。
標高1000m。この山は、修羅という名前の通り、とても険しい道である。さらに少し道を外れてしまうと、遭難したり、獰猛な動物に襲われる危険性に満ち溢れているので、一般人はまず近寄らない。
この山には、どういう訳か、ほとんど人間の手による影響を受けていないおかげで、特殊な植物が育っているため、この環境を保護対象とするので、外部から山の調査など危険性の指摘は受け付けない。
その山のふもとには、桜たちが今いる駅がある。
氷柱の親戚であるムソウという人物は、山の中腹に住んでいる人物である。中腹まではそこまで険しくないので、一日で登り降りが可能である。
氷柱曰く、ムソウはこの山の警備をするため、特別に住んでいるようだ。
桜たちは登山を始めた。
今はまだ登り始め、しばらくたち、恐らくムソウの家まで半分を過ぎたであろう場所にいた。
「なぁ、この山にかなり狂暴な動物が住んでるって知ってるか?」
「ああ、氷柱が言ってたわね。」
二人で話していると、普段無口な間宮が間に入り話し出した。
「サーベルベアー、と呼ばれている熊がいる。」
「サーベルベアー?サーベルタイガーの親戚か?」
「サーベルベアーは修羅山で発見された熊だ。名前の通り特徴は爪にある。普通の熊よりも明らかに長く、だいたい指くらいの長さの爪を持つ。そして丈夫な爪を持ち、獲物を見つけると二足歩行で走り襲いかかるらしい。身長は3mにも及ぶ。まぁ二足歩行だからな」
間宮が淡々と説明する
「だか、見つかった時の対象方がある。動かないことだ。そして喋らないことだ。もし動いた場合、諦める他ない。」
「おいおい、かなり危なくないか。」
「だからウチら三人を行かせたんでしょ。それに話を聞く限りだと、道なりに行けば危なくないんでしょ。」
桜たちの今進んでいる道は、人が横に二人並んで通れる広さの道である。
その道を外れると急激な坂道となっており、通り道に復帰するのは困難といえる。
桜たちは会話をしながらしっかりと注意しながら道を進んでいた。
「桜?どうした」
一番後ろを歩いていた桜が急にしゃがみだした。
「ちょっと、靴紐が…」
桜が紐を結びなおし、立とうとしたその瞬間
グルルオオォォォォーーーー!!!!
何か得たいの知れない、いや今まで聴いたことのない鳴き声がした。
それは桜たちの左方向からした。
「っ!!!これは!?」
「まずいぞ!これは!」
「・・・・サーベルベアーかもしれない。この道を進んでいる限りは襲われない。気を抜くな」
三人はまた気を引き締めて歩き出す。
「ぎゃああぁぁぁ!!!」
誰かの叫び声が聞こえた。
三人は直感で感じていた。
誰かがサーベルベアーに襲われている。
三人が感じたのはほぼ同時期であっただろう。
桜がすぐに飛び出した。
「おい!桜ぁ!まさかおま…」
すでに遅かった。桜は道なりを外れて坂道を下っていた。
「ごめん!でも…、でも!何かできるかもしれないのに何もしないのは…」
後半はあまり聞こえなかった。すでに識から見える桜の姿は小さくなっていた。
「あの馬鹿っ!間宮!すまん。」
識も坂を下り、桜を追いかけた。
「・・・・・・」
桜は坂道を下り、跳ねるように声が聞こえた方向へと向かう。
桜は耳も異常によい。声のした方向にほぼ誤差なく進むことは簡単であった。
それにしても今桜が進んでいる道は足場が悪い。
前を一見して自分が無事足をつける場所を確認し、そこに足をつけ、次の足場へと跳ねる。
桜は跳ね続け、一人の老婆と白い熊を見つけた。
老婆は腰をぬかし、気絶をしてしまったのか、その場に倒れていた。
白熊は老婆を見つめる。
桜はその熊の手に注目した。
その指から先が、長い…長い爪が生えていた。
あたりが少し反射するほど綺麗であった。
爪を見たとき、桜は、
(ああ、あれがサーベルベアーなんだな。参ったな。死ぬかもしれないな…)
先ほどの間宮の言葉を思い出していた。
動いたり喋ったりするな…そう言っていた。
その老婆は今は動きも口を空けることはない。
だが、気絶する前に老婆が叫んでいたのを目撃し襲うかもしれない。
脳裏にその可能性がよぎり熊の意識をこちらに向けようと思った。
「だああああぁぁぁっぁあ!!!!」
桜は立ち止まり超大声で叫んだ。
あたりの木々が少し揺れる。
風で揺れたのではない。桜の発した振動から揺れたのだ。
その時、熊はこちらを向いた。
桜と熊の目があった。
桜の中で時が止まる。
たしかに今、熊の意識は老婆から桜へと移った。だが、今、とてもまずい状況である。
熊が体を反転し、桜へと体を動かす。その初動をしたとき、桜は全速力で逃げようとした。
だが、
(もし、ここで逃げたら、また老婆が狙われるかもしれない。)
桜は意を決した。
桜が今いる場所は回りにくらべて足場がとてもいい。熊が襲ってきても何とかよけることはできるかもしれない。
そしてよけた後、老婆を安全な道へと逃がせばいい。そう考えていた。
ダッダッダ!と熊は二足歩行でこちらへ近いづいてきた。
二人…ではなく一人と一匹は対峙する間もなく戦闘が始まった。
右爪によるひっかき。
桜は後ろへかわす。
が、
すぐに熊の左ストレート…とは名ばかり、あたれば爪に串刺しにされる突きがきた。
よけきれない。予想外の左爪の攻撃を普段の桜ならよけることはできただろう。
だが、今は見たことのない猛獣。その威圧に少し押されていたり、老婆を助けることを間がいていたりと、普段とはまったく精神状態であった。そのため、反応が遅れた。
あたる…。いや、死ぬ…。そう思った。
その時
「桜ああぁぁぁっ!!!」
識が桜を横に蹴り飛ばし、突きから救助した。
「識っ!ついてきたの!?」
「この馬鹿!今はそれだけだ!」
言い合いつつも二人の視線は熊に向いていた。
その熊は次の瞬間、衝撃の行動をとった。
地面に爪をつき、そのまま地面につけた爪を桜たちに届かない位置でアッパーを繰り出し、大量の土をかけた。
二人は熊らしからぬ行動に驚き、反射的に目を腕で隠してしまった。
それが熊の狙いであった。
視界を腕で遮ってしまい、次の攻撃を見ることができなかった。
識に爪が向かう。
目を遮っていた腕を即座にはずした識であったが、もうよけることはできないであろう場所に爪がきていた。
すると、熊の腕を蹴る影が一つ、…間宮であった。
識は間宮が軌道をそらしたおかげでギリギリのところでよけることに成功した。
「間宮!あなたもきたの?」
「・・・・お前たち二人では迷子になる。仕方ないから来てやった。」
こうして、桜・識・間宮vsサーベルベアーの戦いの火蓋が切って落とされた。
次回、あなたに捧ぐ美しい花・急