89 第七章 雲の上期末テスト
7月、学生にとっては夏休みへのカウントダウンと同時に、期末テストへのカウントダウンを始めている時期。
雲の上学園は、7月21日から夏休みが始まるが、その六日前よりテストが五日間連続で行われ、最後の一日、つまり20日にテストが返却される。
テスト一週間前の生徒会室
「夏休みどこ行こっか!」
「わたしぃ、海!」
「私は海外!」
わいわいと三人で夏休みの計画を立てている。期末テストのことなど頭の片隅にも置いていない様子である。
「氷柱はどこが…、って今日は休みだっけ。」
「たしか熱って話だよ。」
「氷柱ちゃん、身体が弱いから、季節の変わり目は一番体調を崩しやすいんだよねぇ。」
「まぁ氷柱ならどこでもいいって言いそうだけどね。」
あっはっはっはと談笑する三人。このとき、すでに三人はこの計画実行の窮地に立たされていることは知る由もなかった。
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴り、昼休みの終わりを告げる。
外にいた生徒は次の授業のため、教室へと戻る。
「チャイムなったよ。」
「ふーん」
「へー。ポ○モンの通信やろー。ウチ、ホワイト買ったんだ。」
三人は生徒室に残り、ゲームをし始めた。当然授業サボりである。
「出席日数大丈夫なん?」
「大丈夫よ。そこらへんは南が計算してんでしょ。」
「六月はちゃんと授業に出たからねぇ~、七月はその貯金をたっくさん使えるよ~。」
ここ数日、桜たちは授業をたくさんサボっていた。
そのため、今学校がどのような現状であるかまったく知らず、いつもどおりの時が流れる。そう思っていた。
Gクラス
「あの三馬鹿…、大丈夫なのか?まったく。」
クラスでは識がぼやいていた。
「あら、中嶋君。桜はいないのかしら。」
「椿…、ずいぶん久しぶりに見るな。」
「前章では出番がまったくなかったからね。まったく、学園の話以外では本当に出番がないんだから!」
「何の話だ?」
「こっちの話よ。それはそうと、いいのかしら?“あの話”桜たちは大丈夫なのかしら?」
“あの話”という言葉を聞いて識は溜息をついた。
「まぁ、桜も知ってるはずだから大丈夫とは思うんだが。」
それは一週間以上前…
東海林家にて…
識は、いつものように庭掃除と不知火の餌やりをしていた。
「おい識。おい!聞いてるのか!」
「何だよ、不知火。掃除の邪魔すんなよ。」
「テメェ…俺が心配してやろうってのによ。」
「心配?何だよ?」
識には心当たりがなかった。
「桜嬢がいつも苦戦してるテストってやつだよ。」
「私も知ってまーす♪」
どこからかひょっこりと現れた雪音。テストに興味があるらしく食いついてきた。
「何だ、雪女。興味あんのか?」
「雪女って呼ぶと、私の一族全員のことになりますよ。雪音と呼んでください。で話を戻しますけど、ちょっと前に大会に行ったの覚えてますか?」
大会…。雲の上の姉妹校六校で行われたレクリエーション大会のことである。
人数合わせのため、雪音も桜たちに混じり参加をしていた。
「そのときに、私テスト勝負をしたんですけど、“なぜか”相手が体調不良で棄権したんですよ。私“テスト”というものをやる絶好の機会だったのに…なのに……なのに…」
すると、雪音の特殊能力、“吹雪”を発生させた。
「さ!寒い!!ああ、不知火のドックフードが!」
不知火ははっとする。
「何っ!俺の飯はドックフードだったのか!」
「でもお前美味しく食べていただろ。」
「ぐ…、それより早く吹雪を止めろ!」
識は考える。どうするか。
「雪音さん!そうだ、雪音さんがいたからあの試合勝てたんだ!そう雪音さんは女神だ!」
急にパァっと明るい笑顔になり、吹雪がやんだ。
「本当ですかぁ♪うれしい♪」
それはまさに天女のようであった…が、
「ああっ!識さんの足が凍ってる!いったい何があったんですか!?」
(いやお前だろ…)
不知火は心の中で冷静なツッコミを入れる。
「ってんなこと思ってる場合じゃねえな。貸し一つだぞ!“狐火”!」
不知火の口から炎が噴出される。炎は識の足の氷を溶かしていく。
「ああ、そういえば、お前は妖怪だったな。忘れてた。」
「その前に言うことがあんだろうが。」
「ああ、助かったよ。あんがと。」
識の氷は完全に溶け、再び談笑が始まった。
「で、雪音さん。テストにあこがれてるんですか?」
「はい、私…、実は友人と何かを競ったりとか、協力したりとか、山に住んでいたころはしたことがないというか…、歳の近い友人がいなくて。」
思ったより重い内容であった。
雪音は桜が山へ修学旅行へ行ったときに、家を破壊してしまったので、桜家で引き取ったようなものである。
それを思うと、識はふとある考えが出てくる。
(あれ、あいつ俺の家も破壊しなかったっけ?)
それは置いておくとして、雪音が今現在、桜家でしか生活をしていないのは事実である。
(桜に頼んだら…)
すると、屋敷内から声が聞こえてきた。
「識くーん。ちょっといいですかー?」
茜が呼んでいる。
「はーい、今行きます!…それでは。」
識は雪音と不知火の元を去った。
「ごめんなさい、こんな荷物を背負わせて。」
「いいえ。そんなことありませんよ。」
識は屋敷の食糧倉庫から米を運んでいた。
「そろそろ、期末テストですよね。お仕事休んで勉強をしてください。」
「いいえ、そんなことできませんよ。ちゃんと授業も出てますし、合間を縫って勉強もしてますから大丈夫です。」
それを聞いて、茜は思わず悲しみの涙が出てきた。
「うう…、桜もそんな立派な子なら…、禁止点組を卒業できるのに」
雲の上には、赤点の半分の点数を“禁止点”という。
「あ、でも今度の期末で、禁止店をとったら、夏休み返上でペナルティがあるらしいですよ。」
「ペナルティ?」
「何でも理事長が、設定したらしく、今回は試験的に行うらしいです。っというか間違いなく桜に標準を合わせた行動だと思いますが。」
「そのペナルティがあることを桜は知ってるんですか?」
「桜も知ってるはずです。朝のホームルームで言ってたんですから。」
「ちゃんと聞いていればいいんだけど。あの子、朝は寝てることが多いし、最近は目を開けながら寝る技も身に着けてきたし。」
「という不安があるんだよな。」
「ま、桜がペナルティを受ける分には私はいいんだけどね♪」
ペナルティの内容を知っているかのような口ぶり。椿は理事長の娘なので内容を知っていてもおかしくはない。
「内容知ってるのか?」
「さあね。うふふふ♪」
明らかに知っていて教えない。という感じであった。
「でも、禁止点なんて、普通ならとらないように教師も調整をしてるはずだから、桜も頑張ればどうにかなるはずよ。」
「そうだな。」
その頃、放課後。生徒会室にて…
「桜。今日も授業をサボったのか。」
「あ、識。…って何それ…」
識が手に持っていたのは、分厚い参考書と広辞苑。
「何って、テストのための学習道具。桜たちは勉強しなくていいのか?」
「ん、まぁねぇ…」
南にふる。
「わたしたちはぁ~」
七海にふる。
「いつもどおり。」
三人で同時に
「「「赤点ギリギリでいっかな。」」」
あっはっはと笑う三人に識はため息をつく。
「気づいてないようだから忠告しておくけど、今度の期末テスト、禁止点を一つでもとったら、夏休み返上で理事長によるペナルティがあるらしいぞ。」
それから五秒ほどたったであろうか。その間桜達は目が点になっていた。
そして、目が大きく開かれて
「んなああぁあぁにいぃぃ!!!!」
生徒会室に大音量が響く。そのショックウェーブは南を吹き飛ばした。
「なななななな!!なんで理事長がぁ!!」
「桜、落ち着け。とりあえず冷静になれ。」
桜の目が右へ左へと動く。いやもしかしたら上下にも動いていたのかもしれない。
「つーか桜!あんた理事長に目をつけられているからでしょ!」
「え…やっぱり?」
「私らまで巻き添えだよ。」
「つーかさ。」
識は冷静な目で見る。
「このことは桜も出席していたホームルームで言ってたぞ。それに禁止点なんて普通とらないからな。まず勉強だ。」
「でも勉強って言ったって…」
その時、生徒会室のドアが叩かれるように開いた。
「おーっほっほっほ!!!」
「この世にも奇妙な叫び声はっ!!!」
金髪、そしてドレスを身にまとった学生は一人しかいない。
「椿…」
「仕方ないから、“桜の家で”勉強合宿よ!!」
「は??」
すると、今度は生徒会室のベランダから
「その合宿、わらわも参加させてもらおうかの。」
「わしもじゃ!」
乙姫と浦島がいつの間にかベランダで日向ぼっこをしていた。
「あんたら、いたのか!」
「何やら面白そうなのでな。わらわ共々参加させてもらう。」
「ってあんたら、まだやるってわけじゃ!」
椿が持っていた扇子を広げて上へと掲げる。
「それでは、明日から桜の家で合宿会を決行する!」
「「「「おーー!!」」」
こうして強制的に桜の家で勉強合宿を開くことになった。