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雲の上学園生徒会記録  作者: skyofnet
第6章『西園寺家』
87/119

87 野獣達の牙

すみません。一部分文章が抜けているところがあったので、加筆しました。

桜の村雨、頼朝の時雨が音を上げ、衝突する。


「ぎっ!」

「くっ!」


二人の力がぶつかり、わずかに揺れながら刀を合わせる。

力勝負となり、二人は渾身の力をいれ、押し合う。


体格的にも頼朝の方が有利であった。


桜を木刀ごと押しこみ、隙をつくった。


「ぜぇい!」


木刀で受け止めるが、頼朝の力で吹き飛ばされる。身体は流され、地面へと転げ落ちる。


「なんつー力!ってうわ!」


さらなる追撃、が桜を襲う。

床に寝ている桜へと、刀を向け両の手で突き刺す。


頼朝のいない方向へと転がりながら避け、地面を手で押し、立ち上がる。


そこへ、次なる攻撃、切り上げ。

まだ立ち上がって体勢を立て直していなかった。それゆえ防御はとったが、またも簡単に 木刀をはじかれてしまった。


「まずいっ!」

「ふっ!!」


頼朝も刀を上げた状態だったので、前蹴りを炸裂。

大柄な体躯をもった頼朝の蹴りは強烈だった。


桜の身体は後ろへと飛ばされた。


そして、後ろにあった倉庫の壁にぶつかり、ガシャアァンっと大きな音を鳴らす。

幸い、ぶつかった壁は、硬い壁ではなかったので、多少のダメージで済んだ。


ダメージの反動で少し動きが鈍っていると、頼朝の刀が襲ってきた。

縦斬り。桜は頼朝の構えで察する。


(これは…、受けきれない!!!つかやべぇ!!)


足に緊急時の力を入れる。そして、後ろへ行くための力を解放する。

ぶつかった時に、壁の耐久性はおおよそ把握していた。その計算を考えての行動だった。

壁をぶち壊し後ろへと飛びのく。


頼朝の刀は空気を切る鋭い音を出し下へと空振りした。


桜は立ち上がりながら、頼朝がわずかにきった倉庫の壁を見た。

“くっきり”と刀の形を残していた。それは鋭い切れ味、そしてそれを成し遂げる頼朝の腕を物語っていた。


「ふう…。」


桜は服をパンパンっと払い、ホコリを落とす。


「まったくなんつー力だよ。あんたは、」

「姉さんもデタラメな動きをなさる。獣を狩りしている気分だ。」

「獣ね…。ウチは女の子だっつーのにね。その表現だめでしょ。でもあんたも野獣のような力だな。」

「獣…か。」


頼朝は笑った。七海には背中を向けていたので笑い顔を見せることはなかった。


「たしかに、俺もあんたも人間とは言われないかもしれないな。」


ふたたび、刀を構える。


「なら、俺ももう少し荒々しく野獣のようにやるか。」


頼朝が駆ける。桜のいる倉庫内へと走り、刀を振るう。「


「うおおぉぉぉ!!!」


すさまじい斬撃。これは受けきれないと思い、桜は避ける。

だが、桜も先ほどまでとは違った。


「んなろぉう!」


倉庫内にあった機材を踏み、三角跳び。頼朝の頭上へと移動する。


頼朝にとっては今までで始めて相手にする部類の敵だった。


「本当に獣、猿か!」


頭上で回転しながら木刀を振り下ろす。

頼朝も宙にいる桜へと身体を捻りながら刀を当てる。


その木刀がぶつかった反動で、頼朝との距離を開けるように飛ぶ。

着地するやいなや、直に頼朝へと駆け寄る。


「でああぁぁ!!!」


走る桜を見て、頼朝は感じた。


(コイツ…まさか!)


乱暴ななぎ払い。ゆえに頼朝は隙が多いと感じたが、手が出せなかった。

再び、桜の剣が頼朝に向かう。


(早くなってきてやがる!)


桜は刀を振り回すたびに威力、速さが上がってきていた。


エンジンがかかってきた


そのような感じがする動きであった。

頼朝は防戦一方になっていた。


(やつのペースに乗せられてるっ!ここで、断ち切らねば!)


頼朝は今一度力を込め、桜の刀の流れを止めるべく、力のぶつかり合いに持っていく。

刀と刀がぶつかり、そこで止まった。


ぶつかった瞬間、桜は一気に力のベクトルを頼朝と同じ方向へと入れる。

身体、そして刀の動きを頼朝に合わせる。


「六ノ型・…」


流れで刀を反らすそして、


「“流水”(未完成)」


飛び回し蹴りを顔面へ放つ。

カウンター技、それこそが“六ノ型・流水”

だが、まだ未完成であった。


蹴りを顔面へと受けた頼朝は大きくのけ反る。愛用のサングラスが割れた。


その様子を見て、桜は木刀に力を込める。




外では、倉庫の中へ入った頼朝と桜の戦いの音だけが鳴っていた。

音の発信源を目視できないが、三人は倉庫を見たまま動かなかった。

ふいに、識が七海へ声をかけた。


「西園寺。」

「何。」


識は七海を見たが、七海は倉庫を見たまま、識を見ることはしなかった。


「これが、お前の望んだ生き方か?」

「そうよ。それが?」

「友達と戦ってでも、家の仁義とやらを通すことがか?」


それまで、即座に返答していた七海はその質問にだけ、返答がわずかに遅れた。少し怒りを込めた眼を識へ向ける。

識はそれを見逃すことはしなかった。


「だから何!?私は“今”は西園寺家当主!!西園寺七海なんだよ!!」


言葉を吐き出すように言った。


対して識は口を開けたその時、



ガシャアアァン!!



先ほど桜が倉庫を壊したときになった音がした。

桜が倉庫から飛ばされてきた。


「ってぇええ!!!今頭打ったぁ!」


頭をさすりながら叫ぶ。

遅れて倉庫壁を壊して頼朝が歩いてきた。


「まったく、本当にちょこまかする野郎だな。」


桜は笑う。だが、その時


ズキッ


身体中が痛みだした。


(ぐっ!まさか、前の戦いの傷が!?)


少し前、桜は爆破をまともに受け、満身創痍の状態であったが、桜の並々ならぬ生命力で日常生活はまったく問題なかった。

だが、今戦闘をし、傷口が開き、さらに身体に無理な負担を加えたせいで、完治していない身体が痛みだした。


その様子を必死に隠したつもりであったが、予想外の事態に頼朝の眼は誤魔化せなかった。


「戦いの最中に甘いぞ!!!」


痛みに一瞬の気をとらわれている間に頼朝の接近を許してしまった。

それは今の“死合”では愚かで、致命的なミスであった。


(しまったっ!)


頼朝の居合い。

素早い斬撃。


桜は…


赤い血が横腹から飛び出していた。


とっさに回避して致命傷は避けることができたが、刀で人体は切られていた。


「っ!!」


横腹を押さえ、出血を少しでも止めようとする。


(馬鹿かっ!なんてことを…。クソっ!血は…応急処置は無理か…。)


これからも戦いが続くことを考え、桜は手を離し、代わりにその手を木刀へと伸ばした。

頼朝は壊れたサングラスを投げ捨て、桜に感銘していた。


「感心物だな。戦う者として。だが、」


頼朝は再度、居合いの構えをする。


「次で、確実に仕留める。」


眼からは溢れ出す殺気を駄々漏れにしているように桜は感じる。


ふぅっと深呼吸。そして頼朝を見つめる。


「うちも長くはやってられないな。」


桜も居合いの構えをする。


「三ノ型・“閃光”」


二人がすり足で近づく。

構えの形を微動だに崩さぬよう静かに、そして、確実に相手との距離を見ながら。


三ノ型・閃光は、実の所まだ未完成の技。であるが、居合い斬りをする技でそれ自体は完成に近かった。なので問題ないと思い桜は選択した。


自分の踏み込む足と刀の長さ。そこから考えられる自分の制空圏。ふたりの制空圏がぶつかったその瞬間


二人の刀が一瞬ぶつかり、離れ、さらにぶつけ、離れ、と二人の打ち合いが始まった。


風が舞い上がり、小石から始まり、近くの物が二人を軸に飛ばされていく。


最中、頼朝が口を開いた。


「負けられん!!お嬢のためにも!!」

「七海のためだとぉ!?言ってみろ!お前の望みはなんだぁ!!」


先ほどのように桜の攻撃速度が上がっていく。それにつられるように頼朝も速度が上がってきていた。


「決まっている!!今はお嬢の望むことを叶える!!それだけだ!」

「組のためとか言うかと思った!」

「親父とはそれ以上の大切な絆で結ばれている!!その娘のお嬢は俺にとっても大切な存在だ!」

「七海いぃぃ!!!」


急に七海が呼ばれた。


「お前の望みは何だ!」

「く…組のため私は…」

「組の望みじゃねえぇ!“西園寺七海”個人の話だ!組とか、親父の為とかじゃない!」


七海は動揺した声で応える。


「私の家を守る。そのために九龍を滅ぼすことよ。」

「家を守る。みんなと暮らすそうだろ!そして頼朝!」

「…」

「本当に七海の望みを叶えることが望みか!?」


そのとき、頼朝は桜の瞳を見た。まっすぐで綺麗な瞳。それを見て




二年前

「親父、見てください。あれ。」


黒いリムジンを運転していた頼朝は後部座席にいた西園寺大海、つまり七海の父親に声をかけた。


「何だ?」


車を停止した場所は雲の上学園の近く、時間も下校時間であたった。

頼朝が見る方向には桜、七海、南がいた。


「見てください。前まで一人だったお嬢に友達ができたようです。」

「ほう。」

「あんな笑顔をするお嬢を始めて見ました。」

「なぁ、頼朝。」


大海は真剣な顔をした。


「俺は昔っからあいつを極道の道へ進めることを考えていた。だが、最近のあいつを見てるとそうじゃなくてもいいんじゃないかって思う。」

「何故です。お嬢が継がなくては組が終わってしまいます。」

「あの笑顔を見たり、友人の話を聞くと、俺はあいつに笑って暮らしてほしいと思っちまうんだ。継いでほしいのは確かだ。だが、継いだとしても組のためだとか、そういうことで死ぬようなことはしてほしくない。」

「親父…」

「幸せに暮らしてほしいんだ。父として…。お前が思ってるようにな。」




そして、今は剣を振るう。

七海のため、しかし


(お嬢を殺すため…剣を振るのか?俺は?いや!)


その時、桜の身体が再び痛みだし、一瞬力が抜ける。

そこへ頼朝の刀がぶつかり、刀が宙へと、上へと跳ね上がる。


頼朝は上段に構え、刀を振り下ろす。

桜は丸腰である。


桜の眼は諦めていない。頼朝の刀を全身系集中させて凝視する。


そして、気づいた。刀の速度がぶれて落ちていたこと。


「零ノ型!」


刀を左手で掴み取る。手のひらからは大量の出血。だが、速度に合わせ手を動かし、真剣白羽鳥もどきをした。


「“無刀取り”」


そしてわずかに刀の軌道を変える。


丁度、そのとき宙に舞った桜の村雨が桜の手元に戻ってきた。

慣れた手さばきで木刀の底へ手のひらを当てるように添える。


木刀が指すは頼朝。


桜はまっすぐ腕を伸ばし、木刀を頼朝へと突き刺した。


「一ノ型“突式・獣牙”」

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