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雲の上学園生徒会記録  作者: skyofnet
第6章『西園寺家』
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84 桜の決意

桜邸

いつものように元気がない桜を見て、茜が声をかけたが、桜は何も答えられなか

った。


(七海を止めるか?だけど…七海の強固な意志を止めていいのか?あの眼にはそれ

だけの覚悟があった。どうすればいい?)


考えながら歩いていたらいつのまにか、一人で屋敷の湖を歩いていた。


水面に映った自分の顔を見る。


(なんて眼…、こんな死んだような眼じゃあ何も…、七海を助けるなんて…)


大きく溜め息をつく。


後ろでジャリっと小石を踏む音が聞こえた。

振り向くと、庭師である白井がいた。


「白井君。ずいぶん久しぶりだね。」

「ええ、最近は出番をずっと黒井に取られてましたから。それよりお嬢。悩み事

ですか?」

「…まあね。」


内容は言う気にはならなかった。


「ふむ…」


白井は何か考えるように手を顎の下へとやる。


「私は庭師をしていつも思うことがあります。我が庭園には美しい花がたくさん

あります。」

「はぁ。」

「でも全て美しかったわけではありません。中には腐ってしまう花もありました

。」


庭の花畑は全て白井が管理しているので気が付かなかった。


「花は全て私の娘、子供と思ってます。ですが、他の花に影響を及ぼすとわかっ

ていたら、何もしないわけにはいきません。」

「捨てるの?」

「活かすのです。」

「活かす?」

「確かに捨てますが、その場所に新たな命を植えます。言ってしまえば花の為で

はなく私のエゴかもしれません。」


後ろからビニール袋を取り出した。中には黒く腐った花が入れてあった。


「私は恨まれても、命を救うことをします。ですからお嬢も他人に恨まれても恨

まれても、時には自分の思った正しいことをしなくてはならないと思います。後

悔することになっても何もしないで後悔するより何倍もいい。」


自分が正しいと思っていること。


それは…


「お節介かもしれないよ。」

「それでいいじゃないですか。人はみなエゴイストです。」


はは、と少し笑ったら元気になった。


「ありがとう、白井君。少しどうするべきかすっきりした。」

「そうですか。お役に立てて光栄です。」


桜は立ち上がった。


「ちょっと出掛けてくるよ!」

「はい、いってらっしゃいませ。」




西園寺家

七海は稽古部屋で頼朝と瞑想をしていた。


長い沈黙の後、七海が呟く。


「頼朝さん。」

「どうしました?」

「まだ父が回復しないというのに、九龍を殺す機会がきて、あなたを危険なこと

に巻き込んでしまってごめんなさい。」

「何を言いますか、親父が動けない今、貴女が西園寺組当主です。俺は貴女の刀

です。」


ガラッと部屋の襖が勢いよく開く。


「俺もいるぜ!」

「弁慶!」

「弁慶さん!」


包帯を外した弁慶が立っていた。


「身体は大丈夫なんですか?」

「俺は身体の頑丈さがとりえですぜ!」


胸を叩いて、頑丈さをアピールする。頼朝は気づいていた。

それがやせ我慢であることを


だが、頼朝は止めなかった。それは幾多の戦いを共にしてきた弁慶だからこそ止

めなかった。弁慶を信頼して、共に戦うことを選んだ。


「では、お嬢。そろそろ時間です。」

「うん。」


七海は着物の襟を正す。

同時に、西園寺七海の人格が変わったかのような声、そして目付き、全て風格が

出てきた。


「いきましょう。」

「「お供します!」」




桜邸

「桜嬢!西園寺家の行きそうな所が判明しました!」


コンピュータールームから黒井の声が響き渡る。


「横浜の××港です!」

「わかった!ハイヤーは!?」

「ダメです!前回の出撃で燃料が切れてます。」

「くっ!なら車で!」

「ダメです!現在渋滞してます。推奨する移動手段は自動二輪です。」

「バイク…って黒井君?」

いきなり黒井が黙りこむ


「乗れないよね?自転車とか二輪類いは…」

「はい…」


黒井は様々な乗り物の運転ができるが、唯一、二輪関係は運転ができなかった。


「ならまかせろ!」


玄関の方から識の声がした。


玄関へ行くと、識がバイクに股がって待機していた。


「識!乗れんの?」

「バイク便の仕事をしたこともある!問題ない!」

「よし、行こう!じゃあ、黒井君!茜さん!後処理よろしく!」


茜は心配そうな顔になった。


「桜…、それに識君…。必ず戻ってきてくださいよ。」

「もちろん。行ってきます!」


識の後ろに乗って出発した。



家を後にする桜の顔は少し憂鬱だった。

七海の行きそうな所を調べる時に、桜の情報網では限界があった。そこで、なり

ふり構ってられない桜は最後の手段である東海林家本家の力を借りることにした

。東海林家がその気になれば衛生を使った操作はもちろん。様々な監視カメラに

ハッキングしての調査も可能になる。だが、それは本家に“借り”を作ることに

なった。


(どんな無理難題を押し付けられるか…)


「…桜!おい桜!聞いてるのか!」

「おおう!なな何か!?」

「ボサッとすんな!さっき電話しなきゃとか行ってたがいいのか?」

「ああ、そうだった。え~っと…」


桜はヘルメットに内臓された電話を使う。操作ボタンは外側にあり、モニターは

ヘルメット内部に表示される。


「保険はかけなきゃね~。」



電話をかけた先は…

『何でテメェこの番号知ってんだよ…』


クラスメイトのエヴァであった。


「この前の大会の時に、携帯を見せてもらった♪」

『勝手に見やがったな!』

怒るエヴァとは対照的に明るい声を



「それで、仕事の依頼をしたいんだけど。」

『仕事だと?報酬はちゃんと出るんだろうな。』

「ウチはお嬢様だよ。仕事を“完遂”してくれたらちゃんとあげるよ。」

『本当だろうな。で、何だ?仕事ってのは。』


そしてカクカクシカジカと話す。


『ざけんな!バーロー!ドタマに弾ぶちこむぞ!間に合うわけねぇーだろ!』

「だからこそアンタに依頼したんだよ。どんな手を使ってもいい。後処理はウチ

らがやる。頼む。」


いつもと違いえらく真剣に頼まれたので、エヴァは断るに断わる気になれなかっ

た。


『わかった。なら手段は選ばねぇ。』



そして、電話を終わらした。


「エヴァに何を頼んだ?」

「ただの保険だよ♪それよりちゃんと前見て運転して。ん?」


現状の体勢を見て桜はあることに気づいた。


「ウチのオッパイが背中にあたってるからって、興奮して事故るなよ♪」

「エアおっぱいが何言ってる!痛!」


桜はヘルメット越しに伝わる鉄拳を炸裂させた。


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