83 七海の眼鏡
次の日の雲の上学園
「ねみ~~。」
「おい桜。一応…力は怪物、胸はペッタンコの色気なしだが、一応女なんだからそんな…」
「うっさい!」
隣を歩いている識へと鉄拳制裁。
「ウチ生徒会室に忘れ物あるからちょっと行ってくるから。」
「あ、待て桜。西園寺のことだが。」
「ん?七海?」
「九龍って組織知ってるだろ。」
記憶をたどる。う~んっと頭をひねる桜。
「先日戦ったやつらだろ。」
「ああ、誘拐したやつらね。」
「あいつらは、目的のためならしつこいって話だ。だから西園寺は…」
「大丈夫っしょ。頼朝ってデカイやつ、あいつが傍にいるから。」
少し、遠い眼をしていたが、本人は気づいていなかった。
「じゃ!遅刻しないつもりではいるから!」
「サボるなよ!」
桜は駆け足で生徒会室へと走っていった。
ゴゥンっと古めかしい音がなり、生徒会室への直行エレベーターが上がる。
雲の上学園の象徴とも言える時計台の中に生徒会室がある。時計台自体が設立と同時にできたものなので、その中のエレベーターも古めかしい物であった。
チンっと音が鳴り、扉が開いた。
桜の用事は、自分の机にP○Pを忘れていただけであった。
「さって、ウチのゲーム♪授業サボりのお供ちゃん♪」
授業サボる気満々だった。
机をあさっていると、ゴトっと音がした。
「ん?隣かな?」
隣の部屋は何もないが、見晴らしのいい部屋で、バルコニーもある部屋である。サボりにはもってこいの部屋でもある。
「南かな?」
サボり常習犯である南を考えた。
仲良く授業をサボろうと思い、明るい声で登場しようとした。
「みっなみ♪授業さぼ…」
そこで見た人物は予想外の人物であり、眼を見開いた。
「七海…」
七海がいた。昨日まで謎の不登校をしていたのだが、今日になってなぜっと思ったが、今はそんなことどうでもよかった。
七海は無事に登校してきた。
ただそれだけが嬉しかった。
「七海。久しぶり…」
どこかぎこちなく挨拶をしてしまった。
先日あんな目にあった人物で、それを助けたのが桜だが、そのことは秘密にしようと誓っていた。
「ええ、桜。」
七海もぎこちなく挨拶をした。
自分に後ろめたさがあったためか。
「こんなとこに、こんな時間にどうしたの?」
「忘れ物…かな。」
「“忘れ物”か。」
桜は内心、“忘れ事”ではないかと思っていた。
「ウチね…」
「桜。」
急に言葉を遮るように止められた。
後ろを向き、表情が桜に見えないようにした。
「私ね、昔さ。不良だったでしょ。」
「あ、ええ。」
「だからさ、誰も近づかなかったし、話すことがなかったでしょ。だから桜が話をかけてくれたとき嬉かった…ようなうざかったような。」
「おいおい…。」
「まぁ、それと、アンタが生徒会に誘ってくれたとき。すっごい嬉しかった。いまさらだけど、ありがと。」
桜は急に嫌な予感がした。
七海がどこか離れてしまいそうな、そんな気がした。
「な…」
「じゃあね。桜。」
「待って!」
何を言おうか考えていなかったが、つい呼び止めてしまった。
「何?」
「あ…いや。」
何か言わなくてはいけない。そんな衝動にかられてしまう。
そして必死に言葉を探して振り絞った答えが
「明日も来るよね?」
不良時代の七海に言った言葉が出てきてしまった。
七海は少し虚をつかれたように呆然として、すぐに笑いながら。
「うん。」
ただそれだけ応えて、生徒会室を出て行った。
「あれ?」
桜は違和感を感じる。七海の言葉にではなく“七海自身”に。その違和感を考える。
「そうか!何で気づかなかった!」
机に手を置いたとき、カチっと音がして、プラスチック製の何かが落ちた。
それを拾い上げたとき、桜の疑惑が確信へと変わる。
「七海は眼鏡をしていなかった。いや、ここに置いていった!?」
七海は不良時代には眼鏡をしていなかった。眼鏡をつけ始めたのは、若干更生した後だった。
七海の状況から察する、眼鏡を捨てる…つまり今の暮らしと決別する証。
頭の中でいくつかのシナリオが浮かぶ。その中で最悪かつ、現実的な事を口に出す。
「死ぬ気だ。恐らく九龍と刺し違えてでも…。」
七海は、九龍に一太刀でも入れることができたら、死ぬ気だ。
桜は七海の態度を見て、そう思った。