80 殺し屋の仕事
「それそれそれそれぇい♪」
麗玲は身体のいたるところから武器を出し、桜へと投げつける。
「その…チャイナ服の…どこに、うわ!しまってるんだ!」
麗玲はいわゆる暗器使い、しかも現実離れした使い手である。やけに袖が長く、
少しぶかぶかなチャイナドレスを着ており、そのいたるところから武器を出して
いた。
四次元のポケットでもあるかと思わせる武器の多さである。
「ナイフなんかじゃお前殺す無理わかったアルね。」
「じゃあどうする?爆弾でも使う?」
「そうするアルね。」
素早い動きで麗玲は両袖から手榴弾を取り出した。
それをトスするように桜へと放る。この間は一秒ほどであった。
だが、桜はそれを読んでいたかのような行動にでた。
「四ノ型・“乱飛龍”!」
持っていた木刀を横に、ブーメランのように回転させる技である。
桜の狙い通り、横回転した木刀は、手榴弾にヒット。
カン!っと乾いた音を立てて、手榴弾は麗玲の元へと戻る。
ボォン!と爆発する。
煙が晴れると、耐火マントで身をくるめた麗玲がいた。
「あんた手品師に向いてるよ。」
「でもそろそろ、手品のネタもつきてきたアルね。お前楽しませる手品ここまで
アルね。次は…」
背中に手をやり、そこから青龍刀を取り出す。
取り出した青龍刀は二本。柄の先端に紐が付いて、二本の青龍刀を繋いでいる。
「お前の解体ショーアルね!」
どうやら紐はゴム性のようで、伸びている。
麗玲は両手に持った青龍刀を桜に向けて構える。
「チンケな手品師が!そろそろお開きにしてやんよ!」
麗玲は片手に持っていた、青龍刀を投げる。
簡単に桜はよけるが、避けた時、麗玲は手に持っている青龍刀を引いた。
「そうかっ!」
投げた青龍刀はゴムに引かれ、再び桜を狙う。
気づいた桜は間一髪で首の頸動脈への攻撃を避ける。
「あっぶな…。あと少しで“鮮血の結末”PCバージョンだったよ」
「“スクール○イズ”アルね。」
「知ってんの!?」
などと、桜はちょっとした親近感を感じたが、麗玲はさらに攻撃を加える。
今度は接近をしながらの投擲。
「さっきみたいのはごめんだね!」
飛んできた青龍刀を上へと打ち上げる。
「お腹空いてるよ?」
その打ち上げの動作をしている時、麗玲は片方の青龍刀を投げていた。
「ぐっ!」
ぎりぎりの所で横へと回避することに成功した。
麗玲の猛攻は続く。
飛んで宙に浮かんだ刀を取り、さらにゴムを引っ張り片方の刀を手元に戻した。
回避をしたばかりで、まだふらつきが残る桜へと降下する。
桜もそれに気付き、木刀を上へと向けて、防御体制をとる。
二人の刀が衝突する。
その反動を使い、麗玲は後ろへと下がる。
「これ待ってたよ」
「え?」
防御した時、麗玲の力強い攻撃でまだ痺れが残っている。
その桜へと向けて、麗玲は靴の爪先を向ける。その先から出てきたのは、“小さ
な針”だった。
ビュッと飛び出て、桜の肩へと刺さる。
「いっ!」
すぐさま針を取る。針を見ると、緑色の液体がついていた。
「私殺し屋アルね。毒針の一つ持てる。」
「あー…そうだったね…」
「速効性のはずアルね。お前倒れないけど、時間の問題アルね。」
「なら…、速効でぶっ倒す!」
桜は足の力を溜め、そこから一歩、力強く踏み込んだ。そして今までにない速度
で走り出した。
通り道の砂が飛ぶ。それほど早い動きだった。
素人なら動けないだろうが、相手は殺しのプロ。驚きはしたが、横へ飛んで避け
られてしまった。
「やるね!」
「見くびってたよ!」
カン!カン!っと麗玲と桜の刀が当たる。麗玲の二刀流に負けない桜の剣捌きに
麗玲は正直興奮していた。
「なら!これはどうする!?」
空中で縦に横回転し、刀に遠心力を加え、威力をつけようとする。
「また力技か!いや…」
力技と思ったが、回転している最中に、刀が一本、勢いよく飛んできた。
「パターンが一緒なんだよっ!」
桜は刀が飛ぶ前に行動をしていた。
前へと前進して迎撃の体勢をとっていた。
飛んできた刀を首を反らし避け、回転している麗玲へと目を向ける。
そして麗玲より早く
「“一ノ型派式・天誅“」
身体を一瞬後ろへ引き、筋肉を収縮。そして弓のように身体を放つ。そして宙に
いる麗玲へと刀を向けた“突き”を撃つ。
麗玲の刀が桜に届く前に、桜の突きが先に届いた。腹部を直撃し、突かれた方向
、上へと飛んでいく。
耐久性が脆かったためか、天井を突き抜け、屋上へと飛ばされていった。
「まずい!たぶん屋上には七海が!」
この階に七海がいないことはすでにわかっている。残るは屋上のみ。
追い詰められた殺し屋なら、人質をとるか、もしくは
「くっ!七海っ!」
その先を思うよりも先に足が動いた。
階段を急いで上がる
「麗玲っ!」
記憶を辿って殺し屋の名前を思いだし叫んだ。奴の目を七海に向けたくない。そ
んな思いから自然と行った。
麗玲は先程の一撃をモロに受けたようで、まだダメージが残っているようにふら
ついていた。
(七海は?…)
七海を探すと、麗玲の後ろ、桜とは反対側に眠っているように倒れていた。
「少し…」
ポツリと麗玲は呟く。
「楽しかったよ」
こんな時に何を言ってるのか?遺言か?などと桜は理解できなかった。
だが、次の言葉を聞いて行動を見て理解すると共に今立ち尽くしていることを後
悔する。
「お前と戦う。楽しい。けど私の仕事。どんなことしても勝つことアルね。」
袖口から小さなダイナマイトのような物を取り出す。それを桜のいる方向とは逆
方向。つまり
「七海っ!」
七海の近くへ投げる。
それも小さな爆弾なので複数個投げていた。
(間に合うか…)
桜は走る。
走る桜へ小型ナイフを投げる。だが、もはやそんなもの気にする場合ではない。
最低限の防御である首と心臓だけ手で守り、あとの部分にはナイフが刺さる。
丁度、麗玲とすれ違ったその時
「終わりアルね!」
次はナイフではなく、刀を投げてきた。これは避けなくては致命傷になる。
(避けなきゃ)
桜は身体を捻りながら前へと進もうとした。
その時、桜は直感した。
その“直感”に従い、軽く後ろを見る。
(間違いない。ウチが避けたら『七海に当たる』)
だが桜は選択肢は一つしかなかった。
(刀は二本、一本ずつ弾けば…だけど、止まったら爆弾に間に合わない。)
耳を澄ます。
麗玲が投げる瞬間が勝負だ。
カチャリと小さな音と空気を切る音がなる。
桜は身を前に進みながら身体を後ろへと翻し、刀の位置を確かめる。
(しまった!?早すぎた!)
一本目は持っている木刀で弾ける。だが、二本目は一本目よりも後ろにあり、弾
くには足をもう一本踏まなければ身体が倒れてしまう。後ろを向いたままもう一
歩踏むことはタイムロスを示す。
(くそぉっ!!)
即座に桜は二つの刀のうち、二本目にあたる頭部へ向かっている刀に向けて木刀
を投げる。
残る一本は…
桜が前を向くと同時に背中に冷たく、そして痛みを感じる。
グサリと背中に刺さる青龍刀。
たが、身体を貫通はしなかった。
それは桜の着ている服のおかげであった。今着ているのは、対殺傷用特殊プロテ
クター。だが、青龍刀を完全に防ぐなどできるわけない。
それでも桜は七海の元へ駆けつける。
七海の元へ行き、爆弾と七海の間に入り、七海を抱くように覆う。
その時、丁度タイミングを狙ったかのように、爆発した。