8 あなたに捧ぐ美しき花・序
「おねがいって言うのはね、我が校の卒業式では生徒会が育てたパンジーを通り道に大量に飾るのよ。でね、そのパンジーを…」
識は言いたいことが、わかったので先に言ってみた。
「パンジーを取ってくるんですね。あれ?校内の庭にパンジーありましたっけ?」
氷柱は少し、うつむいて暗い声で言う
「それが…秋に小火が起きてね。」
「そ、それは災難でしたね。どこのバカが犯人なんですか」
氷柱はさらに俯いて告げた。
「えっと、・・・・し」
「はい?」
何と言ったかまったく聞こえなかったので、もう一度尋ねてみた。
「私・・・と桜・・・・・・・と理事長」
「ブフォ!!!」
氷柱と桜まではまだ、少し驚いただけであった。
いや氷柱は驚いたが、桜はありうると思っていた。
だが、
「なぜ“理事長”がいたんですか?」
昨年秋
そのときは、まだ桜も氷柱も生徒会役員ではなかった。
桜と氷柱と理事長はグランドに来ていた。
「桜さん氷柱さん。今日娘伝手であなたたちに来てもらったのはやってほしいことがあるの」
この人は理事長である。
「なんですか、また意味のわからない呼び出しして、前はプールの鮫を水族館に帰すから手伝えでしたよね」
「あの、桜はともかく私はあまり肉体労働はできませんよ。」
「大丈夫よ。今日は焚き火ってやつをやって、焼き芋を食べさせてほしいの」
理事長はずっと金持ちの家で育ってきたのでこのようなものを知らない。
だが、氷柱もお嬢様なので知らなかった。
「それなら、昔お婆ちゃんとけっこうやりましたからいいですよ。」
桜は手際よく材料を用意し、周りの安全を確認し、引火の恐れのない場所を選んだ。
「理事長、ライターとか持ってませんか?」
「私はタバコとか吸わないわ。」
「じゃあ、原始的な方法で火をおこします」
桜は木を激しい勢いでこすり直ぐに火をおこした。
「桜!すごいわね!さすがは自前の弓矢を持っている原始人ね」
「…なんで知っているの?」
話しているとモクモクと煙がたち、焚き火が完成した。
その中に芋を入れた。
それを見ていた理事長は
「けっこう時間がかかりそうね。ちょっと待ってなさい。こういうものは火力が大事なのよ」
「ちょっ!理事長!何を」
どこからか大型火炎放射機を取り出し気持ちよく放射。
「これでよく焼けるわよ」
ボオオォォォっと芋を焦がす。
すると、理事長の鼻に木の葉がひらりと舞い…
「は…は……ハクショォォォォン!!!!」
その時、理事長は出力を最弱から最強に入れてしまい、炎が、真っ直ぐとんだ。
炎はそのまま離れた花壇に引火。
「ぎゃあああ!!!理事長!!!何してるんですかぁ!!」
「は、早く消防車を!」
「あっはっは、やってしまったね。メンゴメンゴ。」
「「それで済むかぁ!!」」
「ということがあって、その時花壇に咲いていたパンジーは消滅したのよ。それ以降、桜は理事長を歩く災害と呼んでいるのよ」
識も理事長がメチャクチャな人と聞いてはいたが、まさか火炎放射機を使うとは思わなかった。
「幸い火は直ぐに鎮火して、けが人はなし、そして理事長が事件をもみ消したわ。」
「黒いですね。」
「で、そのパンジーの代わりなんだけど、修羅山のムソウという私の親戚が栽培家でね。用意してくれたの」
「名前からいって相当危なそうな山ですね。」
「で、私がそんな山にいったら、五分で倒れるわ。」
エヘンと何か自慢そうに言う。
「で、体力のある間宮くんと中嶋くんと桜の三人で明日にでもいってきてくれる?」
「わかりました。間宮、いいか」
「俺はかまわない」
「ごめんね、私の後始末をさせるようなことさせてしまって。桜にはもう言っておいたわ。」
そして、識はエレベーターを降りて帰ろうとしたとき、氷柱は思い出したように告げた。
「あ、忘れてたけど、その山には熊が出るわ」
「ちょちょちょ!!!熊って!危ないでしょ!」
「大丈夫よ。道なりにいけば絶対に出ないわ。ムソウさんも言ってるからだから」
「道は外れるなってことですね。わかりました。」
次回…あなたに捧ぐ美しき花・中編