75 西園寺七海
京都のとある廃ビル
七海は目を閉じたまま、夢を見ていた。
それは二年前のことであった。
私は一人でいた。
ずっと一人でいようとした。どうせ私は組を次ぐ存在。父に入学させられた雲の上はお嬢様学校。組の人間だとわかったら、友人だろうが手のひらを返すに決まっている。
だから一人でいたかった。
私はいつもと同じように屋上で一人昼ご飯を食べていた。
このとき、私は眼鏡をかけていなかった。
周囲を見渡すと、いつもと同じ風景の中に、一部分、オレンジ色の触覚が見える。
壁の中に埋もれている…?
いや、よく見たら忍者がするように、壁と同じ色の布を広げ、隠れているつもりのようだが、髪の毛のてっぺんの跳ねている部分がはみ出ている。
私は一人の空間を壊されたと重い気分を害したので、文句を言ってやろうと思い、声をかけてみる。
当時、不良だった私は通常の生徒なら一声かければ、逃げ出すだろうと思った。
「おい。何してんだ。」
「…」
答えない。
無視しているというより、本人はばれてないと思っているのか?
「おい。そこのお前。」
「…」
いい加減イラついた私は、手に持っていた牛乳を投げつけてやった。
布に牛乳がかかるが、やつはまだ何も言わない。
私はヅカヅカと歩き、布を蹴り飛ばし、本人の顔を見る。
布で隠れていたやつは、たしか…
「お前…、なんとか桜か?」
「む!なぜバレた!」
「何してんだ?」
すると再び布を持ち、
「“ステルス迷彩”!!!」
こいつは馬鹿なんだろうと思った。
「ここで何をしてんだっつってんだ!」
カッとなって、私は桜の胸倉をつかんだ。
「いや~、いつも一人だからさぁ、一緒にご飯たべようと思って。」
「消えろ。」
「一緒に食べようよぉ~」
馴れ馴れしく、ひっついてくるので仕方なく今回だけということで、食べることにした。
無論私は桜の喋ることを相手にするわけなく、無言で食べていた。
「…でね。茜さんっていう若作りしている人がね…。って聞いてる?」
私は答えない。
すると、桜は予想外の行動をしはじめた。
「ねぇ、それ食べていい?」
いい?と同時に手を出し、私の昼ご飯のアンパンを一口で食べた。
「あ、お前!何してんだ!」
「ん?モグモグ。あ、お茶頂戴」
「てめ!」
さらにお茶まで勝手に飲む。
「ごっそさん!」
「お前…」
大好きなアンパンを食べられ、コイツやってやろうかと思った。
翌日
昼飯を食べようと思い、屋上へ行くと、明らかに不審な“ダンボール”が置いてあった。しかもデカイ。人が入れるくらい大きい。
こんな馬鹿なことをするやつは一人くらいしか思い浮かばない。
「おい、馬鹿桜。」
「…」
仕方ないと思い、ダンボールを引っぺがしてみる。
予想通り、桜が体育座りをしていた。
顔を見ると、驚いた様子であった。
「っ!なぜわかった!」
「お前が馬鹿だからだ。」
その日も、私の昼飯は桜に食われた。昨日以上に。
それが一ヶ月続いた。
懲りることなく、毎日新しいネタを持ってきた。
こいつ暇人なのかと思った。
ある日の夕方、不良である私は川原で他校の連中相手に一人で喧嘩をしていた。
喧嘩は日常茶飯事なので、問題なく相手を殴っていた。
「西園寺ぃ!てめぇ!うちの姉さんを!」
怒鳴るやつを蹴り倒す。
やれやれといった所だ。
「ぐ…、西園寺…。明日またここにきやがれ。ヘッドをつれてきて仇討ちしてやんよ!」
捨てセリフを吐かれた。
まったく、面倒臭い。
私のお気に入りの煙草を取り出し、火をつける。
「はあ…」
つまらない。
喧嘩しても、まったく手ごたえがない。
帰ろうとしたその時、歩道を見ると、桜がいた。
手を目の前で丸くして、私の存在を確認しているようだ。
「あの馬鹿、何やってんだ?」
私の存在を認識し、私のもとへ駆け寄ってきた。
「何してんの?ってか喧嘩か。」
私の周りに転がっている連中を見て判断したらしい。
「へえ~、男も女も相手したんだ。一人でやったの?」
別に自慢するわけではないが、肯定する意図を含むよう、頭を縦に振る。
煙草をすいながら、桜を見ると、何やら診察をしているみたいに、けが人を見る。
「これといって致命傷はないから、命に関わる問題はないよ。」
私は特にそんなことには興味がなかった。
その様子を見て、なんとなく桜に聞いてみた。
「お前、医者の娘か?」
雲の上は金持ち学校。医者の娘がいてもおかしくはないし、珍しくもない。
「いんや。ウチの親父は医者なんて立派な人じゃないよ。」
「何やってるんだ?」
「冒険家」
「は?」
冗談だろうか、真意がわからないので、この話は辞めた。
そして私は帰ろうとすると
「ねえ、七海。」
「呼び捨てかよ。」
「明日の昼も一緒に食べれる?」
私は一瞬考えた。
先ほど、雑魚が明日ヘッドとやらをつれてくると言っていた。
「明日は…まあな」
はっきりと答える義理はない。
私は、それだけ言い、自宅へと帰った。
翌日、雨が降っていた。
私は学校を3限目で早退し、約束の川原へと行った。
桜のことが気がかりであった気がするが、そんなものは気のせいだと思い、歩き出した。
土砂降りの中、傘をさし、一人歩く。
川原にはすでに集団の中に一人雰囲気が違う人物がいた。
格好は、黒いコートにセーラー服といったいまいちセンスを感じない服装である。
「お前が西園寺か?」
「ああ。てめぇは?」
「“来栖”」
あまり聞かない名前だ。
「うちの“ザク”でもが世話になったな。」
「ザクか。いい例えだ。」
傘を捨てる。
私はその女へと向かう。
雲の上屋上
「あり?」
ウチこと東海林桜は七海を待っているわけだが、もう昼休みを終えてしまう。
風邪でも引いたかな?
重い拳が頬をえぐる。
今までにないくらい“痛い”を感じる。
私は地面に顔をつけ、泥水を飲んでしまう。
「君、終わりか?」
頭の上に足が乗る。
足を払いのけ、私は拳を向ける。
「うるあぁ!」
スッと避けられる。
そして、腹部にカウンターをもらい、私は膝をつける。
勝てない
その言葉が脳裏を回る。
次元が違うとはこういうことを言うのだろう。
私は、意識を失いかける。
「く、く…る…」
「名前は覚えたようだね。それじゃ。…ん?」
そこで、私は夢から覚め、現実の映像を見た。
私は紐で手を巻かれ、ソファーの上に寝ている。
「そうか、誘拐…されちゃったのか…。」
薄暗い四隅コンクリートで固められている部屋
逃げるには目の前にあるドアからしか出られないようだ。
するとドアが開き、義経が部屋へ入ってきて、頼朝が来ることだけ伝えて、出て行った。